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勇者の幼馴染が10年ぶりに帰ってきたけど、初恋なんて薄れたので結婚するわけがない。  作者: 春海さくら


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13/13

13. 勇者と幼馴染




 風がのどかな草原を撫でていく。

 この辺りは見渡す限り、生い茂る草むらだけだ。

 

 メリダおばさんの家までの道はまだまだ長い。



「この辺りまで来るのは久しぶりだ。昔はよくアリメルとおじさんにくっついてメリダおばさんのところへ遊びに行っていたっけ、懐かしいな」



 おじさんとは私の父親のことだ。

 ライアンはしみじみと呟きながら、相変わらずるんるんと鼻歌を歌うような調子で私の隣を歩いている。

 

 全く、ほんとだらしない顔。それでも勇者なの。



「ライアン、その顔やめて」


「えっ、どの顔? ⋯⋯っ!」



 ───その刹那だった。ライアンが顔色を変えたのは。


 ぴくりと固まった後、さっきまでの表情を消したかと思えば、狩人のように草むらの一点をただじっと見つめている。

 ライアン? 一体何があったの。思わずそう尋ねた時、「アリメル」と彼は低い声で私を呼んだ。



「俺から離れないでくれ」



 ライアンが背中の剣を抜いたのと、草むらから一匹の魔物が飛び出してきたのは、ほぼ同時だった。


 私は思わず「きゃっ」と悲鳴を上げてしまった。

 グラスハウンドだ。草原の色に擬態する狼のような中型の魔物。

 奴は私たちに狙いを定めると、一直線にこちらへ向かってくる─────。

 こわい。魔物になんて滅多に会わないのに!

 ぎゅっと目を瞑ろうとして───出来なかった。


 私が目を閉じるよりも、ライアンが剣を振りかぶる方が早かったから。

 

 見惚れてしまった。なんて素早い剣捌き。ライアンは一歩踏み出し、流れるような動作で狼を一刀両断した。

 耳をつんざくような魔物の絶叫が響く。

 いつもの優しい顔じゃない、感情を全て削ぎ落としたかのような底なしの表情。


 少しだけぞくりとしてしまった。

 ライアンは普段、あんな暗闇を宿した瞳を魔物に向けるんだ。



「⋯⋯⋯。⋯⋯あ、アリメル、大丈夫か!?」



 あ、嘘。いつもの情けないライアンだ。

 

 彼は先程の誰も寄せ付けないような雰囲気とは打って変わり、ひたすらオロオロしながら私に駆け寄って。     

 「怪我はしてないか? 怖かったよな、もう大丈夫だから。俺が全部倒したから」と特に何も言ってないのに私の安否を確認したり、私を慰めたりした。



「平気よ。だって何もされてないもの」


「で、でも⋯⋯怖かっただろう? ごめん、魔物の気配をもっと早くに察知するべきだった、君といて浮かれてた⋯⋯」


「だーかーらー、別に大丈夫だって言ってるのよ! ライアン、そこまで心配されるとうざったいから黙って!」


「え、ええ⋯⋯! ほ、ほんとうに!? ほんとうになんともない!?」


「無いわよ!!」



 呆れた。ライアンが魔物と戦う姿、初めて見たから柄にもなくときめいたのに。





 それから特に魔物と会うこともなく、メリダおばさんの家に二人して着くことが出来た。

 久しぶりに会ったおばさんはライアンが村に帰ってきていたことにとても驚いていて、彼との再会をそれはもう喜んでいた。


 

「まあ、いい男になったじゃないの。アリメルちゃん、羨ましいわあ」


「も、もうおばさん! そういうのいいから」



 照れ臭そうに「えへへ」と後頭部をかくライアンを引っ張って、おばさんの家を出た。

 外はもう夕暮れだ。茜色の雲が空を覆っている。



「⋯⋯あ、なあアリメル、ここ⋯⋯」



 ふとライアンが驚いたように指差した先。思わず私も目を見開いた。

 

 そこは、メリダおばさんの家の裏にある花園。

 まだおばさんが手入れをしているのだろう、デイジーフラワーに春海草、アンジェリカの花が辺り一面に美しく咲き誇っている。

 

 私とライアンの、かつての秘密基地だった場所だ。



「⋯⋯ちょっと入ってみないか」


「え、え? 良いのかしら、入っていいのかおばさんに聞かないと」


「大丈夫だよ。昔はおばさん家に遊びに来たら何度だって入っていたじゃないか。なあ、入ってみよう。昔みたいに」



 ライアンが微笑んで私の手を取る。

 何故かこの時、私はその手を振り払うことが出来なかった。

 だってあまりにも、ライアンが嬉しそうで。


 私の手を引き、花園に足を踏み入れるライアン。

 ────きれいだ、あの頃と何も変わってない。

 そう零す彼のことを眺めていたら、胸の奥から何か染み出すような感覚を覚えた。



「アリメル、覚えてる?」


「⋯⋯なにが」


「俺が魔王を倒したら結婚しようと君に言ったのも、ここだったんだよ」



 ライアンがどこかおかしそうに、眩しそうに私を見てそう呟く。

 ⋯⋯そうだったっけ、覚えてないわ。そっぽを向きながら言ったとき、ライアンは途端に吹き出して、「君は隠すのが下手だなあ」と目元を緩めた。

 なによ、私がロディと未だ夫婦関係にあるって、信じ込んでたくせに。



「アル」



 そんな愛称で呼ばないで。

 そんなに愛おしそうな目で見ないで。


 


 あの時みたいに、


 


「アル、俺をそばに置いてくれないか」




 ────ああ、あの時のように、一生懸命な瞳で。


 ライアンは私の手を取ったまま跪き、そう私に願った。

「すごく勝手なことを言ってるのは分かってる」と必死に、私を繋ぎ止めるみたいに。

 心臓がどくんどくんと音を立てる。ばかみたい。

 

 私まであの時のように、嬉しがってどうするの。



「君を10年放ったらかしにした。俺以外の男を選ばせた。君がもう俺と結婚したくないのも⋯⋯俺のことなんて、もううんざりだっていうのも、分かってるんだ」



 ────けど、ごめん。とライアンは一瞬目を伏せてから、必死に訴えかけるみたいに口を開いた。



「君のことを愛してる。だからこの世界も、愛せた。俺は魔王を倒して勇者になったけど、君の前では⋯⋯ただの馬鹿ライアンだ。ずっとそうなんだよ。

 

 こんなに格好悪い男だけど、せめてそばに置いて、君のために生きることをどうか許して欲しい」



 ───ああ。なんて、笑っちゃうくらい自分勝手な言葉だ。 

 つまり、結婚しないのに、一生私に付きまとうってこと? 冗談じゃないわ。婚約者でもあるまいし、私には拒否権があるでしょう。


 そう思うのに。そう思うのに、どうして、私は。



「⋯⋯なによそれ。私はあなたと結婚はしない」


「うん。分かってる」


「それでも、ずっと私のそばにいたいの?」


「うん。ずっといたい。だって俺は、魔王討伐の旅の間も、ずっと君が支えだったんだ」


「⋯⋯私のために生きるんだ」


「ああ。償いの意味も込めて、そして、君がおばあちゃんになっても君のそばにいるよ」


「なにそれ。死ぬほどこき使ってやる。夫でもないのに朝から晩まで私のために働かせてやるわ」


「ふっ、はは。良いなそれ。充実した毎日を送れそうだ」



 私はライアンとは結婚しない。しないわ。

 初恋は薄れ、既に他の男と結婚した経験もある。


 それでもライアンは。私のことが好きなの。



「うん。大好きだよ、アリメル」



 ───魔王を倒すという役目を終えて、喜び勇んで帰ってきたら最愛の女はとっくの昔に他の男と結婚してた。

 ねえ、あなたが愛した女は本当に酷いわね。

 だってあなたは10年もの間私を想っていたのに、私はあなたのことを忘れたのよ。


 ⋯⋯ううん。忘れた日なんて一度たりともなかった。

 それでも、私はあなたを待てなかった。



「いいんだ。だって君が、この村でずっと楽しく暮らしていてくれたんだから」



 ほんとうに。優しすぎるわ、ライアン。



「⋯⋯結婚は、しないわよ」


「うん」


「結婚しないからね!?」


「分かってるよ」



 


「⋯⋯」


「⋯⋯? アリメル?」


「結婚、す、する?」


「ゲホッゲホッ!!! え、え????」


 

 【Fin】

 

ここまで読んで頂きありがとうございました!

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また貴方様とご縁がありますように。

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