訪問者
翌日、私は驚くほどスッキリと目を覚ますことが出来た。
「二日酔いじゃない朝なんていつぶりだろう……」
横ではルタンスが寝息を立てている。
「寝ている顔は何だかロベルに似ているな」
私は呟き、クスリと笑った。
頭を撫でると「んっ……」と吐息を漏らしたが、起きる気配はない。
昨日までのことで相当疲れていたのだろう。
なら、このまま寝かせておこう。
さて、風呂に入って、今日はそれから…………
「んっ? なんだ?」
誰かが戸口を叩く音がした。
開けてみると少年が立っている。
「君は確か、えーっと……」
「ミーツです」
村の騒動の時、拘束された私を見張っていた少年が大きなバックを持って、立っていた。
「エドワーズさん、僕をあなたのパーティに加えてくれませんか?」
ミーツ君は頭を下げる。
突然の申し出に私は何も即答できなかった。
私とミーツ君は場所を変えた。
疲れて寝ているルタンスを起こしたくなかったし、腹も空いている。
私とミーツ君は早い時間でもやっている飯屋に入った。
「…………」
ミーツ君は運ばれている料理を目で無意識に追っていた。
どうやら彼も空腹のようだ。
「好きなものを頼むといい」
「良いんですか?」
「子供が遠慮するものじゃない」
私の言葉にミーツ君は「ありがとうございます」と言ったものの、戸惑っていた。
「どうした?」
「あの……僕、文字が読めないんです」
なるほど、確かにあのような小さい村の出身ならそんなこともあるか。
「蒸かした芋とかありますか?」
ミーツ君はそんなことを言う。
どうやらこのままでは何も決まらないようだ。
「すいません」と私は給仕の女性を引き留めた。
「パンをそうだな……十個。それから鶏肉の入ったシチューを大盛で二つ」
給仕の女性は「かしこまりました」と言って、立ち去っていく。
「えっと、ありがとうございます」
「気にしないでくれ。それでさっきの話の続きを聞いても良いかな? なんで私のパーティに入ろうなんて言い出したんだ?」
そもそも私はパーティを組んでいない。
いや、昨日、ルタンスを受け入れたから一応、パーティではあるのかな?
「僕は冒険者になりたかったんです。魔物や悪い人と戦う力が欲しいんです。僕の両親は少し前、盗賊に殺されました。その仇をエドワーズさんが取ってくれました。盗賊を討伐できたのはエドワーズさんが強いからですよね?」
「そうかもね」
「弱かったら、生き方も死に方も運命も選べない。僕はいざという時に無抵抗のまま、死にたくないんです。僕は強くなりたいんです! その為に強いエドワーズさんの傍に居たいんです」
私が「戦えばいい」なんて無責任なことを言ったせいでこの子に火を付けてしまったのかもしれない。
「まったく……そういえば、どうやってここまで来たんだい?」
「レイドアへ向かう行商人の馬車に乗せてもらいました」
おいおい、その行商人が悪い奴だったら、そのまま奴隷商人に売られていたんじゃないか。
ミーツ君は可愛らしい顔をしているから、奴隷として売られたら、変態が高く買いそうだ。
「住む場所は?」
「それは……」
ミーツ君は言葉に詰まる。
当然、無いのだろう。
このまま突き放して、この子が後日、奴隷として売り出されていても気分が悪いな。
「ミーツ君、今は何才だい?」
「十才です」
「十才の子じゃ、さすがにギルドも冒険者の登録をしてくれないだろう。村へ帰る気はないかい?」
「ありません。さっきも言いましたけど、僕は強くなりたいんです。自分自身を、そして他者を守れるくらい強くなりたいんです。お願いです、エドワーズさん、冒険者になるまで雑用でも何でもやりますから、僕を傍に置いてください!」
ミーツ君は深々と頭を下げた。
「反対だ」
異を唱えたのは私じゃない。
振り返るとルタンスがいた。