新しい家族
「どうしてここが分かった……というのは君に言うべきじゃないな」
探索魔法を使ったのだろう。
「もう一度言う。私は反対する。この子は先日、エドワーズを拘束することに加担した」
ルタンスに言われ、ミーツ君は俯く。
子供相手なのに容赦ないな。
「それに信用できない。いきなり来て、傍に置いてくれなんて怪しすぎる」
「ルタンス、その台詞、鏡の前で言ったらどうだい?」
「う、うるさい。とにかく私は反対だ! それに私と違って、その子は男だぞ?」
「まだ子供だ。食事が終わったら、私の家に行こうか」
「エドワーズ!」とルタンスは抗議するが、このままミーツ君を突き放して、何かあったら、嫌な気分になる。
私の説得が無理だと思ったルタンスは諦めて、着席した。
給仕の女性を引き留めると「私にもシチューとパンをお願いします」と外面用の声と笑顔で注文した。
「言っておくけど、君は自分で払ってくれよ」
「最初からそのつもりだ」とルタンスはムスッとして表情で答えた。
朝食を終え、私たちは家に帰宅する。
「えっと、ここがエドワーズさんの家ですか?」
「そうだよ。ちょっと散らかっているけど、気にしないでくれ」
「ちょっと?」
ミーツ君は私を睨みつける。
「エドワーズさん、ルタンスさん、夕方までどこかに行ってきてもらえますか? 僕が片づけをします」
「おい、何を勝手なことを言ってるんだ」
ルタンスが抗議をする。
「分かった」
「おい、エドワーズ!」
「心配しなくてもこの子は悪さを出来ないし、行く当てもない。それにこれから三人で住むなら、少しは片付けないとまずいだろ」
「そう思うなら、自分で片づけろ。子供に任せようとするな」
ルタンスがもっとなことを言う。
私はそれを聞き流した。
「それに君はやることがある。冒険者登録をしないとな。というわけだから、ミーツ君、あまり頑張らずに掃除を頼むよ」
私が言うとミーツ君は笑顔で「はい」と答えた。
ルタンスはまだ何か言いたそうだったが、無駄に終わると思ったのか、それ以上は口にしなかった。
私とルタンスは家のことをミーツ君に任せて、ギルドへと向かう。
「あら、エドワーズとルタンスちゃん」
アンジェラさんが出迎えてくれた。
「色々と余計なことをしてくれたみたいだね」
「さて、なんのことだい?」
アンジェラさんは露骨に惚けた。
「そういえば、ミーツ君って子があんたの家を訪ねなかったかい?」
「訪ねてきたけど……まさか、それもあなたの仕業か?」
「あんたの家を教えてほしいって言われてね」
「だからって簡単に教えないでほしいな」
「別にいいだろ。相手がガラの悪い奴だったら、教えないが、ミーツ君は良い子みたいだったからね。それで今日は文句を言いに来たのかい?」
「違う。ルタンスの冒険者登録を頼みに来た」
私が言うとルタンスがアンジェラさんに頭を下げた。
「へぇ、じゃあ、パーティを組むことにしたんだね」
アンジェラさんは嬉しそうだった。
「断っても纏わり付かれて、もう諦めたよ」
「なんだと!?」
私の言い方に対して、ルタンスが文句を言う。
「はいはい、仲が良いの分かったよ。ルタンスちゃん、エドワーズは強いけど危なっかしい部分があるから、支えてやっとくれ」
「任せてください。冒険者登録ってどうすればいいんですか?」
相変わらず外面は良いな。
「簡単だよ。名前と登録料、それから使える魔法の種類を明記してくれればいい」
「それだけですか?」
驚くことにそれだけなんだよな。
冒険者登録はあっという間に終わる。
「さてと登録記念に何かクエストをしていくかい?」
それはただクエストを押し付けたいだけじゃないだろうか。
ギルドは常に人手不足だからな。
まぁ、帰るには少し早いか。
「家にミーツ君を待たせているから、この街で完結するクエストなら受けてもいい」
私が言うとアンジェラさんはすぐに一枚の紙を提示した。
「昨日から街の西側で魔犬の被害が報告されているんだ。どうやらどこから侵入したらしいね。それを見つけて、討伐してほしい」
内容的には駆け出しの冒険者がやるクエストだが、村での一件で疲れているから丁度いい。
それに探索が得意なルタンスの能力に合っている。
私たちはクエストを受けた。
そして、ルタンスの探索能力のおかげで簡単に解決してしまう。
ギルドへクエスト完了の報告をし、帰宅した。
まだ少し早すぎたかな、と思ったが、
「これはどういうことだ?」
家に到着すると劇的に変わっていた。
散乱していたゴミは奇麗に片付いている。
「あっ、お帰りなさい」
ミーツ君が奥から出て来る。
かなり一生懸命片づけをしてくれたらしく、服が汚れている。
「すいません。まだ細かいところまでは片付いていません」
「いや、充分だよ。それに疲れただろう。ゆっくりと風呂に入っておいで」
「えっ、でもエドワーズたちより先に入るわけには…………」
「子供が遠慮をするんじゃない。私たちは後で良い。そうだろ。ルタンス?」
私が確認するとルタンスはムスッとしていた。
「なんだか、私に対する対応と違い過ぎないか?」
私が「子供と張り合うな」というとルタンスはさらに不機嫌になった。
「じゃあ、お言葉に甘えて、先にお風呂に入って来ます。あっ、それから台所を整理していて、食べられそうな保存食とお酒だけは取ってあるので、確認してみてください」
この子、凄く優秀じゃないか。
「もしかして、料理が出来たりもするかい?」
私の質問に「多少なら」とミーツ君は返答した。
じゃあ、これからは家で食事をしようか。
「おい、なんで私には聞かない? 私だって出来るぞ」
ルタンスが張り合ってきた。
「じゃあ、私の生活は向上するな。とても良いことだ」
言いながら、、私は台所へ向かった。
ミーツ君の言った通り机の上に酒と保存食が置いてあった。
「いつの酒かな? まぁ、大丈夫だろう」
私が酒の栓を開けるとルタンスが洗われたばかりのコップを二つ、持って来た。
「そんなものあったんだな」
「なんで家主が把握していないんだ。私も付き合う」
ルタンスがコップを置いたので、酒を注いだ。
「か、乾杯」とルタンスが言う。
一体何に対する乾杯だ?
それにしてもなんだかぎこちないな。
まさか……
「酒を飲んだことが無いのか?」
「わ、悪い?」
ルタンスは私を睨みつける。
「別に悪くないが、無理はするなよ」
「うん」と言いながら、ルタンスは酒に口を付けた。
「!!?」
直後にルタンスは咽た。
「だから言っただろう」
「こんなものが美味いのか?」
「ここ最近、味なんて分からなかった」
飲もうとした酒を一度、置く。
「ルタンス、私にとって、君の兄貴ロベル、そして、ヴィヴィオたちは家族だった。正直、もう家族を失うような思いはしたくない。私はそんなに強い人間じゃないんだよ。二度も失ったら、耐えられない。だが、一人は寂しかった…………。私に新しい家族を作らせよう、という気にしてしまった責任は取ってもらうからな」
私の言葉にルタンスは笑う。
「安心しろ。私は死なない。それにエドワード、あなたも死なせない」
ルタンスの宣言を聞いてから、私は酒に口を付けた。
「久しぶりに味のある酒を飲んだ気がするな」
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