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【書籍①発売】雇われ悪女なのに、冷酷王子さまを魅了魔法で篭絡してしまいました。不本意そうな割には、溺愛がすごい。  作者: 雨川 透子◆ルプななアニメ化
〜3章 傲慢の悪女〜

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27 悪女に関する箝口令(3章・終わり)

「わ、私……」

(どうしましょう、泣かせてしまったわ!?)


 メアリは心底慌てるが、狼狽をあらわにする訳にはいかなかった。


(あああ泣かないでくださいアイリーンさま、どうしたらいいの!? その涙を拭って差し上げたいけれど、それでは悪女じゃなくなるわよね……エドガルドさまが教えてくださった『ちょこれーと』や『けーき』なるもの、お渡ししたら喜んで下さるかもしれないけれど……! ううう、本当にごめんなさい……!!)


 内心で謝罪を重ねつつも、表面では毅然とアイリーンに背を向ける。見下ろしたのは、アイリーンにひどいことを言っていたミランダたちの方だ。


「ミランダさま。皆さま。申し訳ございません」

「……っ」


 メアリは、自分としては最大限に怖いつもりの顔をしつつ、彼女たちに向けて言い放った。


「あなた方の謝罪を拒否いたします。――私が出来ればお友達になりたいのは、アイリーンさまの方ですから」

「そ、そんな……!!」


 わっと泣き伏せたミランダたちを前に、メアリの良心は少し痛んだ。けれどもアイリーンがされていたことを思い出して、あくまで凛とした振る舞いを意識した。


(勇気ある謝罪を受け入れず、友達にもなれないと言い切る始末! 我ながらなんという傲慢、芸術的な『悪女』の重ね塗り……)


 エドガルドに褒めてもらう準備をして、メアリはきらきらした目で振り返る。けれどもそこに立っていたのは、冷たい目をしたエドガルドだった。


「帰るぞメアリ」

(あらら!?)


 有無を言わさずに抱き寄せられ、そのままエドガルドに抱き上げられた。そのことにびっくりして「きゃあ!」と声を上げ、またしてもエドガルドにしがみついてしまう。


 腰を支えてくれるエドガルドの手に、ぐっと力が入ったように思えた。

 エドガルドは、ふー……っと息を吐いたあとで、近くにいた男性たちに声を掛ける。


「……生憎だが中座させてもらう。会の主催に伝言を」

「しょ、承知いたしました!」

「使い魔。メアリの衣装を仕立てた褒賞について、手配を終えてから帰って来い」

「はい。ご主人さま」


 シュニたちに命じた様子を見て、夜会の参加者たちは大きくざわついた。


「世界の魔力の根本たる大精霊を、従者のように扱っていらっしゃるとは……」

(ひょっとしなくとも。シュニたちって使い魔とはいえ、こういう執事のお仕事をさせるような存在では無いのでは……?)


 周囲の状況を観察してそう察する。

 メアリを抱き上げたままのエドガルドは、バルコニーに揃った面々を振り返ると、冷たいまなざしで言い放った。


「箝口令を言い渡す。我が最愛の婚約者による先ほどの言動は、一切口外するな」

「し、しかしエドガルド殿下。メアリさまの心優しいお言葉は、是非とも社交界に広めるべきかと存じますが……!」

(心優しい???)

「それは許さない。これは俺の妃だ」


 メアリに回されたエドガルドの腕の力が、ますます強くなる。


「――俺以外の人間が彼女を讃える必要など、何処にもないのだからな」

「……!」


 その瞬間、体が光に包まれる。

 転移魔法によって姿を消したふたりを、夜会の参加者たちは騒然と見送った。


「先ほどのエドガルド殿下の『箝口令』、あれは……」


 彼らは互いに顔を見合わせたあと、ひそひそと話し始める。


「もしかするとメアリさまは、ご自身の善行が広まることを良しとなさらない、奥ゆかしく謙虚なお方なのではないか……!?」

「重要なのは他者からの評判などではなく、メアリさまの正義に従って行動すること。つまりはそういうことなのだろう」

「今夜のメアリさまの行動によって、アイリーン嬢の領地は大幅に持ち直す。その功績を王太子ご夫妻のものとはなさらず、陰ながら支えて行かれるおつもりなのだ」

「エドガルド殿下は、婚約者さまのそのお気持ちをとても理解していらっしゃるのね。なんという愛妻家なのでしょう」


 残されたアイリーンは、繊細な刺繍の施されたハンカチで涙を拭いながらも、メアリたちが消えた方を見詰めて呟く。


「メアリさま。……本当に、ありがとうございます……」


 アイリーンの元には、そのハンカチの刺繍に目を付けた婦人たちが、早速集まってくるのだった。


***


「――これでは駄目」


 大聖堂にある一室で、ひとりの少女が小さく呟く。


 彼女がぎゅっと身を丸めるようにして祈ると、金色の髪がさらさらと揺れた。

 少女は愛らしい顔を曇らせ、憂いを帯びた双眸を伏せながら、こんな言葉を紡ぐのだ。


「エドガルド・ヴィル・ハンクシュタイン殿下との結婚だなんて。……許されないわ、こんなこと、絶対に……」


 少女の手元にあったのは、かの国の王太子から通達された書状である。

 司教たちから聞かされたこの事実に、少女は耳を疑った。ゆっくりと顔を上げた少女は、首元に下がった首飾りを握り締める。


「そうでしょう? ……メアリお姉さま……」



***




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