第90話 心の強さ
「チャンス……ですか?」
新入生たちが不思議そうにデウスの方を見る。
「あぁ。お前たちには、我々臨時教師陣と模擬戦を行ってもらう。模擬戦でお前たちの強さを示し、我々が入学する価値があると判断したものは入学を認めよう」
「本当ですか!? 模擬戦のルールは……先生たちから一本取ったら合格ですか?」
「そうだな。お前たちにはそれぞれの学科全員で担当の教師と戦ってもらう。そして我々に傷をつける、もしくは触れることができれば合格だ。担当は魔法科が僕とフィリア、精霊科がフォルトゥナとフェリス、剣術科はティアモがそれぞれ担当する」
デウスの話を聞き、新入生たちが周りと小声で話し始めた。
「全員でかかれば傷1つくらい……」
「先生たちだって本気でかかってきたりしないわよね」
聞こえる内容の多くが楽観的であった。それを聞いたデウスは釘をさすように付け加えた。
「模擬戦の内容は実践形式だ。簡単に説明すると殺し合いだな。安心しろ。模擬戦の会場内は学院長の時間遡行魔法がかかっているから、死んでも試合が終わったら生き返るはずだ。……レガティスの魔法が失敗したときは自分の運がなかったと諦めてくれ」
衝撃の言葉に新入生たちはもちろん、フィリアたちも言葉を失った。模擬戦で殺し合い? 内容が決闘さながらであることに全員が驚きを隠せなかった。
前日の夜、デウスはレガティスに呼ばれ学院長室を訪れた。
「デウスさん、今日は大変でしたねぇ」
「そうだな。先が思いやられるよ。……それで、なにか用事があるんじゃないか?」
「……ったく、あなたは先を急ぐ人ですねぇ。お呼びしたのは国王さまの要請によるあなた方と新入生との模擬戦についてです」
「模擬戦か。国王さまからは新入生の心を折るくらいに力の差を見せつけるように命を受けているが」
「そうでしょうね。だからこその私からの提案です。生徒たちに死の恐怖を教えてあげてくれませんか?」
死の恐怖……?デウスはレガティスの言っていることがいまいち理解できなかった。
「この学院の卒業生の死亡率は……残念ながら卒業後の3年間で40%を超えています。死因は隣国フレア帝国との戦争や魔獣の攻撃、盗賊の襲撃などです。死亡率の異常な高さから調査をした結果、この学院の卒業生たちは自分が死ぬと感じたときに恐怖で身体が固まり、そこを攻撃され命を落としていることが分かったのです」
レガティスの表情が暗い。かつての教え子たちの多くが亡くなっている現実に胸を痛めているようだ。
「そうだな。一度死の恐怖を知っていれば恐怖で硬直することも少なくなるだろうな。……しかしうまく手加減できるかわからないぞ? それに死ぬかもしれない試合に新入生が参加するとは思えないが……」
「それは心配することはありません。私の固有魔術である時間魔法で試合が終わったら試合前に時間を巻き戻しますので。死んでいても生き返りますよ。 新入生が参加するかどうかについてはですね……」
「参加は自由だ。死ぬかもしれない試合に無理して参加する必要もないだろ。参加しない者は退学届を取りに来い。模擬戦はここ、第3演習場で1時間後に魔法科から始める。なお他の学科も模擬戦に出る者は観客席から観戦すること。それでは解散だ」
生徒たちがゆっくりと動き出した。その顔には不安や絶望、怒りや悲しみ……多くの感情が浮かんでた。
「ちょっとデウス! さっきの話どういうことよ!!」
「本当ですわ! 殺し合いなんて聞いていませんわ!!」
「さすがに人を殺したくはないのですが……」
「一体どういうつもりなのですか?」
フィリア、ルナ、フェリス、ティア。全員から問い詰められたデウスは昨日レガティスに聞かされた話をした。
「……ということだ。将来あいつらが無駄に命を捨てることにならないためにも必要なことなんだよ」
「なるほどねぇ……。でも死ぬかもしれないって言われてみんな参加するの?」
「どうだろうな。それこそが入学に値するかどうかの分岐点だな。言ってみれば最終試験みたいなものだ」
どういうこと?とフィリア……だけではなく全員が首を傾げた。不意打ちの可愛さにデウスは一瞬顔が緩んだが、すぐに真剣な顔に戻った。
「僕は新入生に、我々に自分の強さを示せと言ったんだ。その真意は戦力的な強さではなく、心の強さだ。危険とわかっていても逃げない強さ。死ぬかもしれなくても意思を貫く強さ。そんな心の強さを持っていることがこの先一番大事になってくるはずなんだよ。だから命をかけた模擬戦に参加すること自体が我々に心の強さを示していることになる。だから模擬戦に出てきた時点でその者たちは合格だな」
あー……とフィリアがうなずきながら言った。少々難しい話をしたが理解できているだろうか?
「なるほど……理解しましたわ。それなら私たちも覚悟を決めてきた生徒たちと正面から戦う覚悟を決めるべきですわね」
「そうだな。みんなも頼んだぞ。辛いと思うが、心を鬼にして生徒たちと戦ってくれ」
入学したての生徒を死の淵に追いやるといった前代未聞の入学式は、教師たちの愛情から行われているということを生徒たちは知る由もなかった。




