第73話 不安な心
「……ということなのですわっ! ほんっともう、腹が立って仕方ないですわあの2人!」
「そういうなルナ。気持ちはありがたいけどな。騒ぎを起こしてしまって申し訳ありません国王さま」
「レックスおじさんと呼べといっておろう!」
「……それ、気に入っているんですか?」
騒ぎを起こしたことを国王に報告しに来たデウスたち。英雄であるデウスたちが公衆の場で決闘を行う。
それは学院や学院の演習場が見物客でお祭り騒ぎになることを意味していたからだ。
「まぁお前も過去と決別するいい機会じゃろ。自由に戦ってきたまえ。お前が望むなら今から上位貴族に対する不敬罪で奴らを捕らえて打ち首にすることもできるが……」
「いいえ国王さま、これは私たちの問題です。私たちの手で戦わせてください!」
フィリアが張り切っている。それもそうだろう。フィリアも屋敷を抜けるまでに大概やられてきたからだ。
「そうか、それもよいじゃろう。ただ儂のほうからも1つ頼みがあるのじゃ」
「なんですか?」
「お前たちに喧嘩を売ってきた兄たちはフォールテム学院の受験者なのじゃろう? だから国王がいうのもなんじゃが……徹底的にやってやれ。他の天狗になっている受験者たちに格の違いを見せつけてやるのじゃ」
「わかりました。それなら国王さま、あいつら殺してもいいですか?」
フィリアが物騒な言葉遣いになってきた。過去のことを思い出して怒り狂っているのだろう。
「構わぬ。どちらにせよ決闘が終わったら拘束して重罪とする予定だからな。それとルナとフェリスは観客の保護とテロリストの警戒のため霊獣を召喚した状態で警戒にあたってくれ。やってくれるな?」
「わかりましたわ」
「もちろんです」
「そうか、では明日。儂も主催者として観戦にいくからのぉ」
「「見に来るんですか!?」」
「もちろんじゃ。英雄が決闘をするんじゃからそれなりの立会人が必要じゃろう」
「完全に口実ですよね……」
デウスとフィリアによる過去との決別のための決闘は、思ったより大事になってきていた。
その日の夜。
「デウス……起きてる?」
「あぁ……フィリア。どうした?」
「眠れなくて……。死んだり死にかけたりして大変だったけど、昔のことは忘れてみんなと楽しく過ごせていたのに……」
「そうだな。でもまぁ、いい機会だ。僕たちは一緒に屋敷を抜け出してからずっとずっと頑張ってきて強くなったんだ。人を虐めて虐げることしか能がないあいつらに負けるわけないだろ?」
デウスはフィリアが負けることを恐れて不安になっているのだと考えて声をかけた。
「うん。負けるとは思ってないわ。私たちは悪魔とも戦えるんだもの。でもね……どうしても昔のことを思い出しちゃって。あいつらの言いなりになって虐められてきた昔の弱くてみじめな私を……」
そう話すフィリアの声は震えていた。フィリアは負けることを恐れているのではない。恐れているのはウーヌスとデュオに虐げられてきた記憶そのものである。
「フィリアが弱い? みじめ? 何をいっているんだ?」
背中を向けて寝ていたデウスが寝返りをうってフィリアのほうを向いた。
「フィリアは……元のデウスも、僕が憑依転生した後のデウスも、両方とも救ってくれたじゃないか。フィリアがいなかったらとっくにデウスという存在は生きることを諦めていただろう。フィリア、僕だけじゃない。お前の、フィリアの強さがあってこそ救われた者たちがいるんだ」
「私に……救われた……?」
本当に?とでも言いたげにフィリアが聞き返す。すると……
「そうですわよ。私もフェリスも、国の多くの人もあなたに救われたのですわよ! 食いしん坊で待つのが嫌いで頭のねじが足りないんじゃないかって思うことはあっても、弱いだとかみじめだとか思ったことは一度もないですわ!」
「その通りです。私はフィリアさんに救ってもらえなかったら、未だに小さな洞窟で盗賊たちの慰み者にされていたことでしょう。フィリアさんは大事なところで抜けていたり緊張感がなかったりしますが、強い心を持っていると思いますよ」
いつからか2人の会話を聞いていたらしいルナとフェリスの言葉がフィリアの心を包んでいった。
「2人とも……褒めているのか貶しているのかどっちかにしてよ! ……でも、ありがとう。私……頑張るからね!」
大切で大好きな仲間に支えられ、フィリアは過去の記憶の恐怖と戦う決意ができた。
(明日はいよいよ決闘だ……覚悟してろよ……)
闘志に燃えるデウスだった。




