第59話 血の涙
「お前たちは……」
デウスは王妃に召喚された者に見覚えがあった。
一人はルナを襲っていた盗賊の頭。
そしてもう一人は……ハンターズギルドで絡んできたスキンヘッドだ。
「ヒャッハー!!! まさかお前たちに仕返しできる日が来るとはなぁ!!」
「あぁそうだな!!! 俺をコケにしてくれたこと、たっぷり後悔させながら殺してやるよ!!」
盗賊の頭とスキンヘッドが大声で吠えている。
普段ならなんてことないが、霊力を使い果たしたデウスにはその大声が頭にひびいた。
「こっの……ゲス男とハゲ頭!! なんで悪魔になんてなったのよ!!」
「そうですわ! 心だけではなく見た目まで人間を辞めてしまうなんて!!」
フィリアとルナが勇ましく言い返している。
……が、デウスには煽っているだけに聞こえた。
その隣ではフェリスがガタガタと震えている。盗賊をみて思い出したのだろう。
「さぁ! かわいい悪魔たち! あいつらを全員殺しなさい!!」
王妃が2……人?体?に命令する。
「動くなっ!!」
危険を察知したデウスが身体の限界を承知で言霊を使う。
しかし……
「あぁ? なんだぁ? 効かねぇな! この身体には効かないようだぞ?」
「みたいだな! じゃあ怖いものはねぇな! ぶっ殺すぞ!!」
(何故だ……どうして言霊が効かない……?)
デウスは混乱していた。その時だった。
「デウス!!!」
「!?!? がっ……」
ルナの声が響いた瞬間、デウスに2匹の悪魔が飛びかかり、魔獣をも上回る力でデウスを殴りつけた。
床に這いつくばっていたデウスの身体は殴られた衝撃で床を抜け、下の階の壁を突き抜け外へと飛ばされた。
「そんな……デウス!!」
フィリアが青ざめた顔で窓からデウスを見る。
デウスは……夜の暗さと土ぼこりでどうなったかわからない。しかし答えは明白だった。あの衝撃で無事なはずがない。
フィリアにはわかっていた。デウスがいかに強大な力を持とうと、それは霊力で相手の自由を奪ってこそ。もしくは呪文のような……祝詞?を天に捧げてこそ。
言霊が効かず、祝詞を捧げる時間も気力も体力もないデウスは、ただの弱い生身の人間であること。
(私が……魔法で守ってあげなきゃいけなかったのに……。守るって約束したのに……また守れなかった……)
フィリアは両手を握りしめた。頬には涙が伝っている。
その涙は……赤く染まっていた。
「国王さま。フェリス。2人はデウスのもとに行ってあげてください。国王さまは従者に命令し、王宮と王都に住む人たちに避難命令を出してください。フェリスは国王さまや逃げる人々、そして力尽きたデウスを傷つけさせないように地帝龍と力を合わせて皆を守ってください。
そして……ルナ。あなたは私と一緒に、この悪魔たちと戦ってくれますね。大事な人たちを、これ以上失わないためにも」
「承知した。頼んだぞ、フィリア。ルナ。死んではならぬぞ」
「分かりました。皆を守り抜いてみせます」
「もちろんですわ! ……これ以上、失うわけにはいきませんのよ!!」
「それではみなさん、ご武運を!!」
そう言ったフィリアの眼には、氷の結晶の紋様が浮かんでいた。




