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親衛隊長と困り眉

時が経つのが早すぎて衝撃を受けています。


「さあ、佐久間くん。遠慮なく食べるといい。」


なんで、こんなことになっているのか。

希一は内心の困惑を隠せないまま、食堂のテーブルに座っていた。

左斜め前に生徒会長親衛隊の織部が座り、ニコニコと希一の左隣の冬慈を見つめている。

テーブルには、織部が冬慈のために注文した食事がずらりと並ぶ。昨日の今日で、既に冬慈が大食漢であることが知られている。こわい。

「あざます」

長い前髪をピンで上げたまま、困り眉のままに、冬慈は目をキラキラと輝かせて箸を取る。

「いただきます。」

殊更丁寧な仕草で、冬慈は食べ始めた。

そんな冬慈を、希一の正面に座る木林が混乱した様子を隠しもせずに見つめている。

昨日知り合ったばかりだが、その気持ちはこの場にいる誰よりも理解できる気がする希一である。


昼の待ち合わせに遅れてきたと思ったら、昨日から冬慈の面倒を見てくれている風紀の木林と、何故か生徒会長である伊集院の親衛隊長、織部が一緒だった。

その時点で嫌な予感がしたのか、いつも一緒に昼食をとっている友人であるはずの羽水は止める間もなく逃走し、仕方なくこの面子で昼食をとることになったのだが。


「先日は、瑞浪副会長の所為で食事もままならなかったと聞いている。それに風紀委員長にも酷い目に遭わされたと。生徒会として、また学園を仕切る者として伊集院よりお詫びとのことだ。」


だから君たちも遠慮せずに食べてくれ、と織部も自分の食事を始める。

あれよあれよという間に注文された定食を目の前に、希一は勿論木林も戸惑いを隠せない。

というか、織部もそうだが生徒会長の伊集院は人間が出来すぎではなかろうか。

本当に同じ高校生なのかと、思わず考え込んでしまう。ほぼ同じ立場にあるはずの風紀委員長は自分の欲望にとても忠実な戦闘狂そういうイキモノなのに。

戸惑いながら箸をとる二人を他所に、冬慈は遠慮の欠片もなく一つ目の洋風定食を平らげ、二つ目の和風定食に箸を伸ばす。


「佐久間くんは本当によく食べるのだな」

蕎麦定食を啜りながら、感心する織部。

「おいしい」

「そうか、それはよかった。足りなければ遠慮なく追加を頼んで構わんからな」

その言葉に目を輝かせて頷く冬慈。事前に織部が冬慈用に頼んだのは3人前。足りないわけではないが、奢ってくれるというなら遠慮はしない冬慈である。

そんな冬慈の様子をハラハラと見守るのは希一と、昨日から保護者欄に名を連ねた木林。

一介の高校生に過ぎないはずの織部は、高校生とは思えない貫禄を携え冬慈を笑顔で見守っている。

この織部を心酔せしめている伊集院公介生徒会長は、一体どれほどのお人柄なのかと一周回って希一は恐怖すら覚える。こわい。

佐久間冬慈とは、そんな笑顔で見守れるようなイキモノではないはずなのだが。

冬慈を贔屓にする人たちは、軒並み器がでかくて、なんならザルなのではないかとさえ思う。

翻って、冬慈をコントロールできるほどの器が、希一にはないのだと、そんな被害妄想に陥るほどに。

いや、そもそもコントロールできると思うのが間違いか。烏滸がましい。

希一はただ、佐久間兄弟の暴力という名の傘に覆われていたに過ぎない。

希一がどう思ったところで、暴力にはそれ以上の暴虐を返すのが彼らの流儀なのだ。今のこれは、単に食べ物に釣られているに過ぎない。

未だに食べ物に釣られるのもどうかとは思うが。


「佐久間くんと天野くんは、幼少期からの友人だと聞いたが」

「…えっと、まあ、そうっすね」

流れるように和風定食を口に運んでいる冬慈が答えるとも思えず、希一が答える。

織部も冬慈が答えるとは思っていなかったのだろう、視線は完全に希一に向いている。

「幼稚園の頃から、まあ家族ぐるみの付き合いってやつですかね」

「天野くんは同じ学年だろう。敬語は不要だ」

同い年と思えないくらい貫禄があるので思わず敬語で話していた希一だったが、当の織部から指摘された。

「あー…、わかった。まあ、いわゆる幼馴染ってやつ。」

「風紀の徳丸も知り合いだと聞いたが?」

徳丸の方が先輩になるのだが、織部に敬意を払う気はないらしい。自業自得が過ぎると思いつつ希一は答える。

「あれは、冬慈の兄貴と仲が良いんだよ。んで、冬慈をみると泣かせたくなるらしい。」

本当に、はた迷惑な生態の戦闘狂イキモノである。

「…そうなのか。なんと野蛮な…」

織部は労わるような眼差しを冬慈に向けているが、恐らく冬慈が強いとは気付いていないんだろうな、と複雑な気持ちになる希一。

なんなら、その野蛮人よりもよっぽど強い野蛮人なのが冬慈である。

まあ、ゴリゴリでいかにもな体型の徳丸と比べて、小さく細く見える体型に加えて、この困り眉が判断を狂わせている可能性は大いにあった。冬慈の強さを知っていてさえ、正常な判断を下せなくなった奴がいたのを希一は知っている。

兄の夏市のふくよか仏フェイスに惑う人間もよく見るので、ある意味顔面の強い兄弟である。

「徳丸が知り合いなのは理解したが、そうすると瑞浪の方もか?」

瑞浪も先輩として扱ってもらえないらしい。

「いや、瑞浪副会長の方は違うな。ダチが言うには冬慈の担任の坂田先生のファンな所為らしいんだが。」

「…なるほど。理解はできないが理解した。瑞浪は時々坂田教諭の受け持ちクラスの人間に絡んでいるという報告は受けている。」

「あ、俺業務で顔を合わせる度に暴言吐かれまくってます。坂田先生に授業をしてもらえるなんてあり得ない分を弁えろ平民がって。」

「…伊集院様の苦労が偲ばれるな…」

坂田の担任クラスというだけで絡まれている木林の発言に、織部が目頭を押さえる。

副会長がソレで、共に学園の治安を守るはずの風紀のトップがアレではまあ、苦労していない方がおかしい。

そして、そのどちらからも目を付けられた冬慈がコレなので、負担が悪化する未来しか見えない。

希一は心の中でそっと手を合わせた。




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