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萌が首をかしげていると、学校のほうからぼんやりとした明かりが一つ、萌たちのいる校舎の校門のところに近づいていた。
その明かりを見て、「大変! みんな、どこかに隠れてください」と萌は言ったのだけど、「大丈夫。焦らなくてもいいよ。あれは鈴谷先生だから」と朝日奈くんは萌に言った。
みると、みんな堂々と、校門のところに立っていて、どうやら、この作戦の全容を知らないのは、おそらく萌一人だけのようだった。
そのぼんやりとした光が(それは懐中電灯の明かりだった)萌たちのところまでやってくると、それは確かに鈴谷先生だった。
「やあ、みんな。久しぶり。今年もあと一時間で終わりだね」とにっこりと笑ってオカルト研究会のみんなに言った。
鈴谷先生は朝日奈くんの説得を受けて、今日のオカルト研究会メンバーによる『屋上の女子生徒の幽霊探し』の部活動の許可をもらっていたようだった。
萌が、私のときはだめで、朝日奈くんのときはいいんですか? と聞くと、オカルト研究会の正式な部活動ということなら、一応ね、と鈴谷先生は萌に言った。
そんな経緯があり(萌は少し不満だったけど)萌たちオカルト研究会の部員のメンバーはその年の年越しを自分たちの母校である郡山第三東高等学校の屋上で迎えることになった。
その場所にやってくるのは、夏の、あのUFOを呼ぶ実験のとき以来のことだった。
真夜中の屋上には、女子生徒の幽霊の姿はなかった。(まあ、それは仕方のないことだと思う。幽霊はこの世界にはいないのだから)でも、萌はそこで、その死んでしまった女子生徒のために『祈り』を捧げた。
それは早川神社の巫女である、早川萌が行う、きちんとした儀礼に基づいた正式な祈りの儀式だった。
祈りの儀式を終えた萌は、みんなに「ありがとう」を言った。
そして新年の挨拶をして、みんなで初詣に出かけた。場所は、萌の実家の早川神社だった。
……まあそんなことが大晦日から新年を迎える日に当たってあったのだけど、その当時は、受験のことと、自分の将来のこと、早川神社の正式な巫女になること、そして、十二月になって(その女子生徒の転落事故が起きたのが十二月だったらしい)『萌に助けを求めてきた、女子生徒の幽霊を救うこと』に精一杯で、そんなことに頭が回っていなかったのだけど、受験も終わった今になって、よく考えてみると、私はこのとき(というか、その屋上の女子生徒の幽霊のときだけではなくて、ほかにもいろんなことについて)新谷くんに無理を言って、すごく迷惑をかけてしまったと萌はようやく、このときになって少しだけ反省したのだった。
だからまずはそれらのことについて、新谷翔くんに正式に謝罪をしようと萌は思っていたのだった。




