表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/84

44

 萌は事故から生き延びた。

 その代わりに、あの人は、死んでしまった。

 萌の命を助ける代償として、あの人は死んでしまったのだった。

 それが罪。

 萌の犯した罪だった。


 萌は、夢の中にいる十八歳の大人になったあの人の顔を見つめた。

 そこに、あの、萌の憧れた太陽のような笑顔は、……なかった。

 代わりに、萌を見つめる、氷のような、冷たい、……萌のことを恨み、憎しみ続けているような、そんな、あの人の目があった。

 あの人は、萌の夢の中で、あれから一度も笑うことがなくなった。

 だから、萌も自分が現実の世界の中で笑うことはやめようと思った。

『……笑うことをやめて、楽しむことをやめて、そして、自分が現実の人生の中で、幸せになることをやめよう』、と思った。それくらいはしないと、自分の代わりに死んでしまったあの人に申し訳がないと思った。

 それが萌の罰だった。


 ……でも、実際に、もし本当に人に魂というものがあるのだとしたら、たぶん、あの優しい、太陽のような笑顔をしたあの人は、きっと萌のことを恨んだりはしていないだろう、と萌は思っていた。

 あの人の魂はとても純粋で、清潔で、無罪であり、誰かを恨むと言ったようなそんな不純であり、罪と罰を背負った、カルマのような気持ちを、持ってはいないだろうと思っていたのだ。


 あの人の魂は、天国に行ったのだ。

(私のように、いつか地獄にいくであろう、罪に汚された魂の持ち主ではないのだ。あの人は……)


 だから、あの人は萌を恨んではいない。 

 でも、だからといって萌は自分自身を許すことができなかった。(私の犯した罪は、きっと一生消えることがないのだ)

 その証拠に、萌の夢の中に出てくる、萌の心が作り出した十八歳の大人になった(萌と同様に、年をとっていく)あの人は、ずっと、萌のことを恨んでいた。

 それは当然だと早川萌は、いつも笑わないあの人の顔を見て、そう思った。そう思って、萌はちょっとだけ不覚にも微笑んでしまった。(でも、やっぱり、あの人は笑ってはくれなかった)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ