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「おかしい。UFOこないな」と朝日奈くんが言った。

「きませんね」葉摘が言う。

「手のつなぎかたとか、立ち位置や場所が違うんじゃない? それとも図形が間違っているとかさ?」

 UFOはこないと言っていたのに、のりのりな感じで硯が言う。


 萌たち郡山第三東高等学校オカルト研究会のメンバーは鈴谷先生と朝日奈くんと葉摘が書いてくれた図形の上に立って、円形に手を組みながら、UFOを呼ぶための呪文(UFO様。来てください。と言ったような言葉だ)を唱えたのだけど、やっぱりUFOは校庭の上にはあらわれてはくれなかった。

(もちろん、その代わりに異界への扉が開いたりもしなかった)


「ちょっと休憩」

 朝日奈くんがそう言って、それから朝日奈くんは硯と鈴谷先生と三人でなにやら怪しい会議のようなものを始めた。

 それはきっと、人生において意味のあるような会話ではないのだろうけど、三人とも(なぜか鈴谷先生も)とても楽しそうな顔で、なぜUFOがこないかについての議論をしているようだった。

 萌と新谷くんと葉摘は三人で校庭の隅にある緑色の網のようなフェンスのところに移動をした。

 こちらは、三人とも無言。

 向こうの三人とは対極にあるような静けさだった。


「野田さん。今日はなに読んでるの?」沈黙に耐えられずに萌が言う。

「これです」

 そう言って葉摘が見せてくれた文庫分の表紙にはノルウェイの森(下)の文字があった。緑色の本だ。その表紙を見て、なるほど。今日は下巻のほうを読んでいるのか、と萌は思った。

 萌は葉摘とは違って、あまり村上春樹の作品を読まないのだけど、確か神の子供たちはみな踊る、の中にUFOの短編があった気がする。それに萌が唯一読んだ村上春樹作品である(この間、少しだけ読んだ羊をめぐる冒険を別にすれば)『海辺のカフカ』には、UFOが登場していた。

 ……ノルウェイの森には、たぶん、UFOは登場していなかったと思う。(人から聞いた話だけだけど)

 せっかくUFOを呼ぶ実験をするのだから、UFOの本を読めばいいのに、と萌は思ったのだけど、本好きの人にとっては、あまりそう言ったこと(つまり外部的な要因のことだ)はあまり重要ではないのかもしれない。

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