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マオと不思議なスライムの賑やかなアトリエ  作者: 小日向 ななつ
エクストラ 対決! 呪いの元凶ピエロ魔人
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第41話 ほんとうのあなたとワタシ

『ウゥ、あぁあアアぁぁァあああァァァァァ!!!』


 嘆きとしか言い表せない叫び声が響いていた。

 モンスター、いやロイドは懸命に頭を振って、何かを振り払おうとしている。

 そんな中、ルルクが身構えた。だが、ダリアンが立ち塞がる。


「攻撃しちゃダメっ」

「ダメって、どうして!?」

「あいつはロイドなの! だから、だから――」


 状況が飲み込めなかった。だがそれでも、ダリアンは必死に訴える。

 そんな中、マオが立ち上がった。

 フラフラとしながら、必死にロイドを守ろうとしているダリアンを抱きしめた。


「マオ……?」

「大丈夫、私がどうにかするから」


 マオは一度、みんなに顔を向けた。

 どこか不安げなミーシャに、心配した表情を浮かべるルルク。

 ピエロ魔人と激しい戦いを繰り広げているリリシア。

 そして、こんな時でも優しく見つめているアイザック。


「ありがとう、みんな。こんな私を、受け入れてくれて」


 全てが宝物。

 だからこそ、みんなを壊そうとするピエロ魔人から守りたい。


「ダリアンちゃん、ぶつかってきてくれてありがとう。私、楽しかった」

「何を言っているの、マオ?」


「ミーシャちゃん、一緒にバカなことをしたよね。もっと、一緒にいたかった」

「マオ、ちゃん?」


「ルルク君、あなたは優しすぎるよ。だから、今も甘えるね」

「マオ……」


 マオはアイザックに顔を向ける。

 そして、丁寧に頭を下げて「ありがとうございました」と言い放った。


「私を、弟子にしてくれて嬉しかった。

 もう一度、弟子にしてくれた時はもっと嬉しかった。

 この喜びは、一生忘れません。私は、先生の弟子になれてよかった」


 全てに対する感謝。それは、何を意味するのか。

 アイザックは理解している。だからこそ――拒絶する。


「バカなことを言うな。お前にはまだ教えていないことが、たくさんある」


 もちろん、ダリアンも拒絶する。


「そうよ! あなたとせっかくお友達になれたのよ! こんな、こんな最後の別れみたいなことを言わないでよ!」


 同調するように、ミーシャも叫んだ。


「そうだよ! マオちゃんと私はこれからも一緒にいるの! だから、こんな言い方しないでよ!」


 みんながみんな、マオの別れの言葉を拒絶する。マオはそれに、当然のように困ってしまった。

 そんなマオに、ルルクは歩み寄る。そして、その身体を抱きしめた。


「甘えてもいいよ。でも、こんな別れをするために甘えるのは許さない。

 それに僕は、君をどんなことがあっても手放さない。どんなことがあっても、その手を掴んで身体を抱き寄せてやる。だから――逃げるな」


 これは、マオが頑張ってきた証だ。

 だからこそ、マオの目から一筋の涙が流れ落ちた。


「ごめんね。ごめんね、みんな」


 マオはわかっている。

 この輪の中に入っているのは、自分でないことを。

 わかっているからこそ、選択した。

 だが、こんな言葉をかけられてしまったら決断が鈍ってしまう。

 だからこそ、マオはルルクの身体を優しく離した。


「あの人を助けなきゃ。そうしなきゃ、この物語はメチャクチャなままだから」


 マオはそういって、悲しそうに笑った。

 直後、頭を振っていたロイドが大きな雄叫びを上げる。

 みんなが一斉に身構える。

 その瞬間、マオはルルクから離れた。


「マオ!」


 咄嗟に、手を伸ばす。

 だがマオの手を掴むことができなかった。

 マオはそのまま、ロイドへと抱きつく。

 ロイドは反射的にマオを振り払おうとした。

 しかし、どんなに振り払おうとしてもマオは手放さない。


「怖がらなくていいよ。あなたと私、本来の役割に戻るだけだから――」


 ロイドの身体から飛び散った黒い〈何か〉が、マオの身体へと飛び込んでいく。

 だんだんとロイドの身体が、人のものへと戻っていく。

 だが、対象的にマオの身体は黒く染まっていった。


「やめろ、マオ!」


 ルルクが駆けた。

 同時にミーシャも連れ戻そうと走る。

 ダリアンもまた、その手を掴もうとした。

 だが、その三人よりも早くマオの肩を叩いた者がいた。


「ったく、毎度毎度バカなことをしやがって」


 マオは、思わず顔を上げる。

 そこには呆れ顔をしたアイザックの姿があった。


「先生……」

「何もかもを背負おうとする。それがお前の悪いところだ」


 アイザックはマオの頭に手を置き、グシャグシャに髪を撫でた。

 マオはちょっと困ったようにするが、それ以上に嬉しそうな笑みを浮かべていた。


「でも、離れなきゃ」

「辛いものはみんなで背負いものだ。今回は私も背負ってやる。

 だからまだ諦めるな」


 それはどれほどの救いとなった言葉だろうか。

 それはどれほどの覚悟を持った言葉だろうか。

 マオ、アイザックは互いの想いを理解する。

 だからこそ、その手を結んだ。


「後悔、しないでくださいよ」

「心配するな、俺はタフガイだ」


 光が弾け飛ぶ。

 それと同時に、人々の頭にはある〈物語〉が甦った。


 かつて世界には絶対的な〈悪〉が存在した。

 それは人々を恐怖に陥れ、勇者によって打ち倒された存在だ。

 だが、何度倒してもそれは時が経てば甦る。

 ゆえにモンスターからも畏怖されていた。

 しかし、それはいつしか人々の前から姿を消す。

 まるで何もかもなかったことになって、全てが消えた。


 そして時を超え、それは甦ったのだ。

 大切なものを守るために。


 ただそれだけのために〈魔王〉は現れた。



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