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マオと不思議なスライムの賑やかなアトリエ  作者: 小日向 ななつ
エクストラ 対決! 呪いの元凶ピエロ魔人
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第40話 ぼくはなにもの

 昔々、ある王国に男の子がいました。

 男の子はとても元気で活発で、負けず嫌いで、だけど笑顔で包まれていました。


 ある日、男の子は母親からあることを教えてもらいます。

 男の子は実は、王国を治める王様の子供なのだと。

 ちょっとした事情で母親は一緒にいることができないと。

 でも、いつかは一緒に暮らそうと約束したそうです。

 男の子はその日を楽しみにしていました。


 ですが、約束の日に悲劇は起きました。


『ウォオオォォォオオオォォォォォッッッ――』


 男の子の母親は、王様の手によって殺されてしまいました。

 男の子は恐怖のあまりに逃げ出します。

 必死に、必死に、必死に――

 迫ってくる追手から逃れようと隠れて、走って、時には立ち向かって逃げました。

 ですが、まだ幼い男の子では限界がすぐに訪れます。


「な、何っ?」

「モンスターが!」


 そんな時、男の子は一人の少女と出会いました。

 傷だらけで動けない男の子を心配した少女は、一生懸命に看病をしました。

 次第に男の子は元気になっていきます。

 そして、少女と触れ合っているうちに男の子は一つの決意をするのです。


 この子から受けた恩を、必ず返すと――


『ヒッヒッヒッ、私の腕を切り飛ばして勝った気でいますか?


 残念ですね、まだ持ち駒はあるんですよ!』

 リリシアは思わずピエロ魔人を睨みつける。

 しかし、その視線を遮るかのようにモンスターが糸を放った。

 咄嗟に身体を揺らし、飛び込んできた糸を躱す。

 するとピエロ魔人は、力強く踏み込んでリリシアの懐へと入った。


『ぶっ飛びなさい!』


 腹部に手を添えられる。

 直後、大きな衝撃が走った。

 リリシアの身体が浮き、勢いのまま後ろへと飛ばされる。

 だが、リリシアは倒れない。

 すぐにバランスを取ると、後ろに滑りながら勢いを殺した。


「リリシアさん!」

「大丈夫! でも、そっちに手を回せない。頑張って!」

「頑張ってって、ちょっとぉー!」


 ダリアンが叫ぶと、モンスターが雄叫びを上げた。

 あまりの大きさに、ミーシャとダリアンは顔を引きつらせてしまう。


「ええい、こうなったら二人でやるよ!」

「待って待って! 私達であんなの倒せないでしょ!」

「でもやるしかないのっ! それに、マオちゃんを守らなきゃ!」


 ダリアンは一度だけマオに目を向ける。

 ボロボロな手足に制服。髪も肌も、何もかもが傷だらけ。

 どうしてここまでになるまで、戦っていたのか。

 湧き上がる怒り。それはどこから来るものなのか。

 考えながらも、視線をモンスターへと移した。


「そうね、後でたっぷりと怒らないといけないし。それにあいつを懲らしめなきゃ気が晴れないわ」


 ダリアンの目に強い炎が宿る。

 マオをこんな目に合わせた敵に、ぎゃふんと言わせるためにも立ち上がる。

 だが、ダリアンが挑もうとした瞬間に服の裾を掴まれた。


「だめ、行かないで……」


 それは、あまりにも弱々しい姿だった。

 今にも泣きそうな顔をして、マオはダリアンを見つめている。

 そんなマオを見て、ダリアンはその身体を抱きしめた。


「大丈夫、私はあなたのライバル。だからあんな奴、簡単にやっつけちゃうんだから」

「違うの……、やっつけちゃいけないの。それに、やっつけたらダリアンちゃんが――」


 マオが何かを言いかけた瞬間だった。

 モンスターから大きな雄叫びが放たれる。

 それはこれまで聞いてきたものとは全く違っていた。


『お、オお、おおオお嬢さマぁぁァぁぁ!!!』


 奇怪な声に乗って、言葉が放たれる。

 ダリアンは途端に顔を歪ませた。ミーシャもまた、木剣を持って身構える。


「ったく、さっきからお嬢様お嬢様ってうるさいわね! 言っとくけど、私はアンタに興味なんてないからね!」

「ダリアン、そんなこと言っている暇ないから! 行くよ!」


 ミーシャが床を蹴る。

 途端にモンスターも突撃した。

 ミーシャに迫りつつ、モンスターは糸を放つ。

 咄嗟にミーシャが身を低くして躱す。

 だが、ジュッとした音が響いた。

 ダリアンが視線を床に落とすと、そこは煙を上げていた。


「もしかして、酸?」


 酸が混じった糸。もし直撃してしまえば、ケガなんてどころの話じゃない。

 しかし、ダリアンは敵が放った攻撃を見て、すぐにミーシャへ指示を飛ばす。


「ミーシャ、全部避けて! 懐に入りさえすれば、あいつの攻撃は一つしかないわ!」


 今までの攻撃パターン。

 その全てを見て、ダリアンは叫ぶ。

 ミーシャはダリアンの言葉を受け、力強く床を蹴った。

 放たれる酸の糸は、ミーシャを絡め取ろうと飛んでくる。


 怖い、死にたくない。だけどそれ以上に、マオを失いたくない。

 だからミーシャは、恐怖を押しのけて突き進んだ。

 そして、その決死の覚悟が実を結ぶ。


「こんのぉっ」


 糸が放てないほどの距離を詰める。

 モンスターは途端に、ミーシャに噛み付こうと牙を剥き出しにした。

 しかし、それと同時にミーシャも木剣を振る。


「マオ、ちょっと杖を借りるわよ!」


 ダリアンはマオが持っていた〈アルミティアの杖〉を手に取った。

 その杖に、ダリアンが持っていた結晶をはめ込む。

 狙いはモンスターの頭。

 ミーシャを守るための攻撃を、放つ。


「いっけぇぇぇぇぇっ」


 それは、真っ赤でまばゆい光だった。

 ミーシャを噛み殺そうと迫るモンスターの頭に向かって、光は飛び込んでいく。


『ガァッ』


 虚を突いた攻撃。それは見事にモンスターの頭を捉える。

 思いもしなかったのか、若干だがモンスターの動きが遅れた。

 それが決め手となる。


『グガァァッッッ!』


 木剣がモンスターの頭を撃ち抜いた。

 怯んだ瞬間に、ミーシャは左手の木剣をモンスターの頭の上に放り投げた。

 遅れてモンスターはミーシャを押しのけようと突撃する。

 だが、ミーシャは突撃された瞬間に消えた。


「喰らえぇぇ!」


 モンスターは真上に顔を向ける。

 そこには一瞬消えたミーシャの姿があった。

 モンスターは咄嗟に糸を飛ばす。

 しかし、狙いが定まっていない攻撃はミーシャに当たることはなかった。


『ウゴォォォォォ!!!』


 落下する勢いを利用し、ミーシャは木剣をモンスターの腹へ突き刺した。

 途端に黒い〈何か〉が噴き出してくる。

 ミーシャは気にせず追撃をかけようとした。

 だが、その瞬間にモンスターはミーシャを振り払った。


「わっ」


 ミーシャは咄嗟にバランスを取り、後ろへと下がる。

 モンスターはミーシャを追いかけることなく、大きな声で悲鳴を上げていた。

 痛みから逃れようと懸命に暴れ、突き刺さった木剣をどうにかしようと暴れている。

 もう一息。ミーシャとダリアンが互いの顔を見て、確認したその瞬間だった。


『君は誰?』


 聞き覚えのある声が響いた。

 目を向けるとそこには、黒い〈何か〉が漂っている。


『ダリアン? いい名前だね』


 その言葉で、ダリアンの中にある思い出が蘇る。

『僕は、何だろう。名前、忘れちゃった』


『よかったら、君がつけてくれないかな?』

『だって僕は、何者なのかわからないから』


 ダリアンは気づく。

 なぜ、マオがあんなことを言ったのか。

 どうして悲しむと言い放ったのか。


『ロイド? いい名前。ありがとうダリアン、今度からそう名乗るよ』


 全てに気づいた時、モンスターは雄叫びを上げた。

 ミーシャに狙いを定めて突撃をする。

 だが、その瞬間にダリアンがミーシャを守るように前に立った。

 いや、突撃するモンスターを止めるように立ちはだかったと言えばいいだろう。


「やめて、ロイド!」


 モンスターは脚を止める。

 だが、その勢いは死なない。

 まっすぐと、ダリアンへ向かっていく。

 しかしダリアンは、その場から逃げようとしない。

 ロイドを止めるために、ずっと見つめている。


『あの子を守れ!』


 ミーシャが思わずダリアンの腕を掴んだタイミングだった。

 何かが、ダリアンの前に現れる。

 それは光の壁と言えばいいだろう。

 突撃してきたロイドは、その壁によって跳ね返された。

 転がっていく巨体。

 ダリアンはその光景を見て、思わずへたり込んでしまった。


「マオ、みんな!」


 それは、マオを守るために現れた。

 それは、勇ましく大きな声で叫ぶ。

 だからこそ、その声を聞いた瞬間にマオは顔を綻ばせた。


「ルルク君っ」


 運命が変わり始める。

 最悪の結末が、書き換えられようとしていた。



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