表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マオと不思議なスライムの賑やかなアトリエ  作者: 小日向 ななつ
第4章 盗まれたみんなの宝物
29/45

第29話 怪盗リボンテイル参上!

 シクシクと、シクシクとルルクとミーシャは泣いていた。

 マオとアイザックは、とんでもなく落ち込んでいる二人に頭を抱えてしまう。


「ねぇ、二人とも。一体何があったの?」

「泣いてばかりではわからないだろ。ちゃんと話せ」


 うぅ、とルルクが唸った。

 とても辛そうに、だけど現状を伝えるためにマオ達へ何があったのか話し始める。


「僕の、魔術書が盗まれた。盗まれちゃったんだ……」

「盗まれたって、泥棒に?」

「うん。とびきりの、とんでもない泥棒に」


 妙に含みがある言葉だった。

 マオとアイザックは顔を見合わせる。


「絶対に違うから!」


 突然、ミーシャが声を荒げた。眉は釣り上がり、眉間にはしっかりとシワが寄っており、本当に怒っていることが伺える。

 だが、ルルクはそんなミーシャを恐れることなく言葉を突き刺した。


「何が違うんだよっ。しっかりと『盗みました』っていうカードがあったじゃないか!」

「だーかーらー! リボンテイルはこんなチンケなことはしないって! そもそも、リボンテイルはカッコいい正義の大怪盗よっ。それが、こんなこそ泥みたいこと絶対にしないから!」

「でも現に、盗まれたじゃないかっ。ミーシャだってお金を盗まれただろ!?」


「リボンテイルじゃないって言っているでしょ! 私はともかく、ルルクの古臭い本なんて欲しいとは思わないわよっ」

「何をっ」

「あーもー、二人とも落ち着いてよ!」


 ガルルッ、とルルクは唸る。

 フシューッ、とミーシャは威嚇した。

 そんな二人の間にマオは割って入る。ほとほと困ったかのような顔をして、今にも揉み合いになりそうなルルクとミーシャを引き離した。

 しかし、怒りに火が着いた二人は収まらない。


「どうしてお前はリボンテイルの肩を持つんだよっ。泥棒だぞ!?」

「リボンテイルはこそ泥じゃないのっ。正義の大怪盗だから、こんなことしないのっ」

「もぉー、二人とも! ケンカしないで!


 大体リボンテイルって何なの!?」

 マオが必死に二人を止めようとする。

 そんな中、様子を見守っていたアイザックが口を開いた。


「怪盗リボンテイルが現れたのか?」


 アイザックの質問に、ルルクは「はい」と答えた。

 するとミーシャが反発するように「絶対に違うもんっ」と言い放つ。


「何が違うんだよっ。僕の部屋にもミーシャの部屋にも、しっかりと証拠が残っていたじゃないか!」

「だから、あれはリボンテイルのものじゃないって言っているでしょ!」

「どこが違うんだよ! このカード、どこからどう見てもリボンテイルのものじゃんか! しかもしっかりと『あなたのお宝、いただきました』って書いてるし」

「違うったら違うのっ。リボンテイルはこんなことしないし、それに――」

「もういいっ。そこまで言うならミーシャなんて知らないよ!」


 ルルクがプイッと背中を向ける。

 マオが思わず「ルルク君っ」と呼び止めるが、ルルクはそのままどこかへ走り去ってしまった。

 マオは大きなため息を吐いて肩を落とす。

 どうしてこんなことになったのか。そもそも怪盗リボンテイルとは何か。

 わからないことばかりである。


「絶対に、絶対に違うもん……」


 グスッ、とミーシャが鼻を啜った。

 目を擦り、必死に涙が流れないように我慢している。

 マオはそんなミーシャを見て、どう言葉をかければいいかわからなかった。


「うぅ、ルルクのバカぁぁっ!」


 しかし、溢れ出す感情に勝てなかったようだ。

 ミーシャは唐突に大声を上げた。感情のまま涙を流し、天を仰ぐ。

 マオはそんなミーシャを落ち着かせるために、優しく抱きしめた。



◆◇◆◇◆◇◆



 ミーシャが落ち着くまで十数分間、マオはずっと身体を抱きしめていた。

 そしてようやく落ち着きを取り戻した時、ミーシャの目は真っ赤に腫れ上がっていた。

 俯いたまま、肩を落としている姿がとても辛く感じてしまった。


「大丈夫?」

「うん……、ありがとね、マオちゃん」

「ううん、どうってことないよ」


 ミーシャはとても落ち込んだ様子だった。

 そんな姿を見たためだろうか。マオはそれ以上どう言葉をかければいいかわからなくなってしまう。


「ミーシャ、一つ質問してもいいか?」


 そんなマオを見てか、それとも純粋な疑問だったのか、アイザックがタイミングよく言葉をかけた。

 顔を上げ、ミーシャはアイザックを見る。すると思わず「誰?」とマオに訊ねた。


「アイザック先生だよ」

「えっ? 先生はスライムでしょ?」

「元に戻ったの」

「戻ったの!?」

「お前な、俺がスライムじゃないとダメなのか?」


 アイザックが呆れ気味に言葉をかける。

 ミーシャは慌てて「そんなことないです!」と言い放った。

 やれやれ、とアイザックは頭を振る。だが冷静さを取り戻したミーシャを見て、目を鋭くさせた。


「ミーシャ、改めて質問するぞ。お前、どうして怪盗リボンテイルの仕業じゃないって言い張るんだ?」

「えっ? えっと、それは――」


 ミーシャが困ったような顔をした。

 アイザックはそんなミーシャの顔をまっすぐと見つめ、ある言葉を口にした。


「実はな、俺も別の誰かの仕業だと思っている」

「え?」


「怪盗リボンテイルは、悪行を働く地位ある者しか狙わない。お前達のようないい子を狙うことはないし、お前の言う通りこそ泥みたいなことはしない。

 もしかしたら、怪盗リボンテイルに似せた犯行じゃないかと思う。いわゆる模倣犯だ。だからこれは、怪盗リボンテイルの仕業じゃない」


 アイザックの言葉。それはミーシャを力づけるとても心強いものだった。

 だからなのか、ミーシャの瞳に輝きが戻ってくる。


「そう。そうだよ。先生の言う通りだよ!」


 前のめりになって、ミーシャはアイザックの言葉に食いついた。

 その瞳にはいつもの力強さが宿っている。


「リボンテイルはこんなことしない。する訳がない。だから、絶対にリボンテイルじゃないから!」

「そうかそうか」


 アイザックは優しく笑う。

 それはマオに見せるものとはちょっと違う笑顔だった。

 どこか楽しそうで、どこまでもミーシャを信じているかのような顔だった。


「じゃあ、リボンテイルの無実を証明しないとな。ミーシャ、悪いが詳しい話をきかせてくれないか?」

「うん!」


 すっかり元気になったミーシャ。それどころかアイザックを信用した様子でもある。

 マオはその光景に呆けた表情を浮かべていた。


「マオ」


 唐突にアイザックに呼ばれる。マオは慌てて「はいっ」と返事をすると、アイザックは笑った。


「ミーシャの話を一緒に聞こう。それが終わったら、ルルクを探しに行くぞ」


 アイザックの頼もしい言葉。

 マオはそれに、ちょっとだけ安心したかのような笑顔を浮かべた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ