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マオと不思議なスライムの賑やかなアトリエ  作者: 小日向 ななつ
第4章 盗まれたみんなの宝物
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第28話 盗まれたみんなの宝物

 霊薬〈フェニクル〉のおかげで元の姿に戻ったアイザック。

 ただ素っ裸のまま戻ってしまったことで、マオは悲鳴を上げてしまった。

 急いで着替えをすると、ようやく落ち着きを取り戻したのだった。


「いやー、すまんすまん。まさか裸のまま戻るとは思ってもいなかった」

「もぉー、ひどい目に合いましたよ」


 着慣れたスーツに身を包んだアイザックは、嬉しそうに笑い声を上げていた。

 マオはそんなアイザックを見て、仕方なしに笑みを浮かべる。

 何はともあれ、アイザックは元に戻った。つまり霊薬〈フェニクル〉は完成したのだ。


「これでみんなを元に戻せますね」

「そうだな。お前のおかげだ」

「先生がレシピを作ってくれたからですよ」

「ハハハッ。悪いがあれは俺が考えたレシピじゃない」


「どういうことですか?」

「後々話そう。今はそうだな、霊薬が完成したお祝いだ」


 アイザックはそう言って会話を切った。

 マオは気になりつつも、アイザックの言葉に従うことにした。


「ところで、お祝いって何をするんですか?」

「そうだな。学食を貸し切って盛大にやりたいところだが――」


 急に貸し切ることはできない。

 そもそも、まだ校内にはアイザックが元に戻ったことなんて知られていないのだ。

 だからこそ、アイザックは一つのアイディアを出す。


「どうせだから、このアトリエでやろうか」

「いいですねっ! ここなら迷惑にはならないし、それにみんながいますし!」

「みんな? ああ、そうか。精霊達がいたな」

「はい! あとルルク君とミーシャちゃんを呼んでもいいですか?」

「ああ、いいぞ。人が多ければ多いほど楽しいからな」


 アイザックは楽しげに笑っているマオに目を細めた。

 ふと、マオは何もないところに言葉を放ち始める。

 そこにはおそらく妖精がいるのだろう。

 アイザックは、そう感じながら視線を大釜へと移した。


「だいぶ汚れているな」


 スライムになって、どれほど時間が経っただろうか。大切な道具の手入れを、ずっとマオに任せてきた。

 これからは自分も手伝ってやれる。それにこれは、マオにとっても大切なものだ。


「先生」


 アイザックが大釜を見つめていると、突然手を引かれた。

 振り返ると、とびきりの笑顔を浮かべているマオの姿があった。


「みんなを呼びに行こう!」


 懐かしい笑顔。

 懐かしい光景。

 懐かしい思い出。

 その全てが、かけがえのないもの。

 アイザックはかけがえのない時間を噛み締めながら、返事した。


「ああ、そうだな。ついでにパーティーの準備もしよう」


 アイザックはマオと一緒にアトリエを後にする。

 ふと、立ち止まり振り返った。

 だがその空間には、何もいない。

 いるはずの精霊の姿はない。

 声も聞こえなければ、気配も感じない。


「どうしたんですか、先生?」

「戻る前に、精霊達に挨拶したかったなと思ってな」


 その言葉を聞き、マオはアイザックの変化に気づく。

 もうアイザックの目には、精霊達が映っていない。

 当然声すらも聞こえない。だからアイザックは、少しだけ悔やんだ顔をしていた。


「大丈夫ですよ。みんなはいますし、それに先生の感謝も伝わっています」


 だからマオは、アイザックに笑いかけた。

 アイザックはマオの言葉を受け、笑い返す。


「そうか。よかったよ」


 アイザックはマオと共に、アトリエを出た。

 みんなを呼んで、お祝いパーティーをするために。

 ただそれだけのために、その場を後にした。



◆◇◆◇◆◇◆



 マオはアイザックと共に、ルルクとミーシャがいる冒険科の区画へと訪れた。

 ごった返す学生は、マオとアイザックとは違う妙に力強い雰囲気を醸し出していた。


「なんだかみんな強そう」

「常日頃、ダンジョンに潜っている奴らばかりだからな。戦闘に関しては俺達とは桁違いの経験を積んでるだろうよ」

「ふぇー、すごいなぁー」


 ワイワイと、ガヤガヤと賑わっている空間。

 飛び交う会話は、常にダンジョンやパーティー編成に関してのことだった。


「あっ」


 そんな中、マオはようやく見覚えのある影を発見した。

 耳を覆い、肩につくぐらい伸びた白い髪。その後ろ姿はやっぱり女の子と見間違えてしまう男子学生がそこにいる。

 マオはすぐに駆け寄り、「ルルク君」と声をかけた。


「うぅ、マオォォ」


 だが、思いもしない反応が返ってくる。

 涙を流し、うなだれているルルクはマオを見るや否や抱きついてきたのだ。

 マオは想定外のことに戸惑う。だがルルクはお構いなしに、大きな声で泣いた。


「ど、どうしたの?」

「本が、僕の魔術書がぁー」


 マオに抱きついたまま泣き続けるルルク。

 そんな中、ゆらりともう一つの影が現れた。


「マオちゃーん……」


 赤い髪に、猫みたいな赤い獣耳。

 いつも元気に立っている尻尾だが、この時ばかりは萎れていた。

 うなだれながら、ルルクと同じようにミーシャが抱きついてくる。

 マオは本当に困りながら、「どうしたの?」と訊ねてしまった。


「うぅ、ルルクちゃんの売り上げがぁー」


 ミーシャは泣く。今まで見たことがないほど泣く。

 ルルクもミーシャに負けじと泣いていた。

 もはや周囲の目なんて気にしている余裕はない。


「おいおい、どうしたんだ?」


 騒ぎを聞きつけたアイザックが声をかけた。

 マオは困った顔をしながら振り返る。

 そんなマオを見て、アイザックは少し面倒臭そうな顔をした。


「場所を移そうか」


 泣いているルルクとミーシャを引き連れて、移動するマオ達。

 アイザックがやれやれと頭を振っている姿を眺めていると、ルルクとミーシャがこんなことを言い放った。


「盗まれた。僕の、大切な本が……」

「うぅ、泥棒に入られた。今月は、ウハウハだったのに……」


 マオは二人の言葉を聞き、何となく理解する。

 どうやらルルクとミーシャは、大切にしていたものを盗まれてしまったようだった。



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