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鋼鉄重奏ブレイヴストーム  作者: 平等院 丑造
23/23

3:Strife(part1:『If you want peace…)-≪8≫

≪8≫


/Script_CODE/Julius Alexander



このミツクニという青年は本当に面白い青年だと、会うたびに思う。

メタラー特有のゴリゴリ感や弾け感も無く、かといって大人しいのかと言われればそうでもない。

メタラーらしさの無い、本当に、普通の青年である。


だが彼のメタル愛が誰にも負けぬ程強い事は、彼と数分でもメタル談義をすれば誰にでも解るだろう。


「そもそもメタル王国である北欧は、昔はメタル不毛の地と言われていて……」

コンベアの上を『動く歩道』式に歩きながら、隣で延々と北欧メタルについて語るミツクニの眼には熱が籠もり、少し潤んでいるようにすら見える。

大体、何故こんな深刻な状況で北欧メタルについて語るに至ったのか、その経緯は既に忘れてしまったが、兎に角彼が先程仲間と離れ離れになりやや落ち込んでいた時と比べれば、少し状況は好転しているのではないかと思われる。


「……という訳で、僕の見解的には北欧メタルがこれほどまでの地位を確立出来たのには何か大きな理由が裏にあると思うんですけど、ユリウスさんはどう思いますか?」

突然の質問に我に返る。

話を細かく聞いていた訳では無かったが、大まかな流れは解る。それにこれでも僕自身、かなりのメタルオタクである事を自覚してもいる。

故にこういった談義は得意分野でもあった。

「そうだね、そもそも北欧は音楽や文化といった芸術にかなりの資金を国が提供していて―――」

僕が言葉を発する度に、興味深げに頷くミツクニの眼は輝いている。

それは完全にメタルキッズ―――キッズと言うには年齢が行き過ぎているが―――の其れであった。


―――本当に、見ていて興味が尽きないな。

僕は彼の姿を見るたびそう思い、自然と心が躍るのを実感していた。

彼を見ていると、己のメタル心を擽られる。そうして、こういった若者に音楽的影響を与えられたかと思うと、己の事を誇りに思うのであった。


僕たちは中央コンベアの端まで辿り着く。眼の前のシャッターは既に開け放たれており、そのまま筒状のエレベーターに繋がる仕組みとなっていた。

「あ、ここからはエレベーターですね」

ミツクニはそう言ってタイミング良くぽん、とコンベアから降りると、そのままエレベーターへと飛び乗った。僕もそれに続く。

エレベータの内部は鉛の板で出来ており、所々ぽつぽつと電燈が光っている。

僕たちが飛び乗ると、エレベーターは自然と上へと上がっていった。

ミツクニは驚きながら床を見る。

「うわっ!動いた!?」

何で何もしていないのに、と彼はきょろきょろと辺りを見回しながら言う。

「恐らく僕たちの体重で装置が反応したんだろう。加重を感知すると、自然とエレベーターが作動するようになっているのかも知れないね」

僕がそう言うと、ミツクニは納得したように頷いた。

「コマ世界はハイテクですねえ。こんな、現実世界では有り得ない様な装置や機械、異形のモノまで…」

ミツクニの言葉に僕も頷いた。

「そうだね。この世界を考案した奴は、よほど想像力に優れているんだろう」

僕はこの鉛の筒を仰ぎ見た。

ガタガタと音を立て動く機械はハイテクで、確かに現実的ではない。

―――まるでSF映画のようじゃないか。

正直、初めて此処に来た時は、こんなにリアルな世界だとは思わなかった。

初めてこの世界の空気を吸った時のあの感覚。あの衝撃は忘れられない。


「エレベーター、これじゃあ何階まで俺達が昇っているのか解らないですね」

ミツクニは暗い中を見回しながらそう言った。

僕は床にしゃがみ込んだ。床も鉛で出来ており、触れると冷たい金属の感覚が走る。

僕は暫くそうして床を手でなぞった後、くぼみに指が触れたのを確認し、それをガタンと引っ張る。

すると中から、複数のコードと共に電子パネルが姿を現した。

電子パネルには数字が映されている。ミツクニはそれを見て驚愕の声を上げた。

「凄い…!まさかこれ、エレベーターの到達階層ですか!?」

「そうだ。これを見れば今何階か解るだろう」

僕がそう言うとミツクニは更に感心したように眼を輝かせた。

「何でここにパネルがあるって分かったんですか、ユリウスさん!?」

「往々にして、こういう装置にはこういった仕組みが仕組まれているものさ」

僕はそう言って腕を組む。

こうして一つ一つの事に驚き、喜んで貰えるのは内心少し気持ちが良い。

僕は口元が緩むのを実感しながら、パネルに表示された数字を見た。

今表示されているのは『2』。つまり2階まで到達した事になる。

僕は上を見た。

―――そろそろか。

天井の闇を仰ぎ見、僕は眼を凝らした。

「…ユリウスさん?」

ミツクニが不安げな声を掛ける。


ふと、天井にきらり、と光る何かが見えた。


「―――来る!」

僕は背中に手を回し、剣の柄に手を掛けた。

「ミツクニ、準備しろ。機鬼だ!!」

「えっ…!?」

ミツクニがそう叫んだのと同時に、天井から十体程の人型機鬼が落ちてきた。

奴らは呻きながら、こちらへ向かって来た。

「…まただ!人型の機鬼…!」

ミツクニはブースターを刀に具現化させながらそう言う。

「奴ら、恐らくこれだけじゃあ無いはずだ。ミツクニ、気合を入れて掛かるぞ!!」

僕はそう言うと剣を鞘から抜き取り、金色の光を纏う其れを奴らに向かい振り下ろした。




***

「……はぁ、はぁ……」

ミツクニの息が上がっているのが背中越しにも解る。

其れもそのはず、機鬼は倒せども倒せども、上から沸くように振って来るのである。

―――さすがにキツイか。

僕は先程よりもやや重く感じられる剣の柄を握り直しながらそう心で呟いた。

僕は床のパネルを見る。

『3』になってから暫く経つ。つまりそろそろ目的地である、4階へと辿り着くという訳だ。

僕は機鬼の心臓に剣を突き刺しながら、ミツクニの方を見た。

「ミツクニ、もうじきこの数字は『4』になる。そうしたら僕が剣から光の矢を発して壁に穴を空けるから、そこから刀で壁を破壊して4階へ侵入するんだ」

ミツクニは驚いた顔でこちらを見ている。

「そんな……!この壁を破壊するなんて、俺にはそんな事…」

「いや、出来るはずだよ。……その右腕の、炎の力を使えばね」

僕の言葉を受け、戸惑うミツクニの眼は揺れている。

力を使う事に抵抗があるのだろう。

気持ちは解る。飲み込まれてしまいそうな程の力。己では認識出来ぬ、己の一部。

―――けれど。

「やるんだ。ミツクニ―――君なら制御出来るはずだよ」

「…でも」

そう言ってミツクニが戸惑う間にも、下のパネルに表示されている数字は『4』に変わった。

僕は壁を見る。そうして、剣の切っ先を壁に向けると、そこから光の矢を出現させた。

意識を集中させ、光の矢を飛ばす。真っ直ぐに飛んでいった矢は、鉛の壁に突き刺さり、壁に罅割れを起こさせた。

そうしている内にも機鬼が天井から落ちて来る。僕はミツクニに叫んだ。

「ミツクニ!!やるんだ!!」

ミツクニは刀を握りしめ、俯いていたが、覚悟を決めた様に壁の罅を見た後、眼を閉じた。

そうして再び開眼した時。

彼の眼には赤い炎が揺らめいていた。

―――なんと、(あらた)かな―――。

僕はその炎の煌めきを見、素直にそう思った。

ミツクニの表情には躊躇いは無い。彼の右腕と刀が赤き炎に包まれ、囂々と燃え上がっている。

ミツクニは何も言わぬまま、辺りに居る機鬼を切り捨てると、そのまま床を蹴り、壁の罅に向かい刀を突き立てた。

炎が壁に広がる。その熱は空間そのもの熱くし、思わず僕も汗を一滴垂らした。

壁が溶ける様に、崩れていく。

大きく空いた壁の向こう側には、先程と同じような造りの空間が広がっている。

階層に居たブラックコープスの連中が一斉にこちらを見た。

「なっ―――誰だ!」

ミツクニは何も言わない。彼はそのままエレベーターから4階に侵入し、燃える瞳でブラックコープスを見ている。

「う……撃て!!」

そう言って一斉にミツクニに向かい銃口が向けられる。ミツクニは刀を振り上げた。

放たれる銃弾。それと同時に、ミツクニは刀を振り下ろした。

こちらに向かい放たれたはずの銃弾は、爆風で弾き返される。

「…!!な、なんだこいつ!!」

「て、撤退だ!!撤退しろ!!!」

そう叫びながら走り去っていく黒衣の集団。

「―――化物め!」

黒衣の集団の一人が吐き捨てる様にそう言い捨て、去っていく。

僕はそれをミツクニの後ろから、じっと見ていた。

ミツクニは彼らを追い掛けもせず、じっとその去っていく彼らの後姿を見ている。

「―――口ほどにも無いな」

僕はそう言い、ミツクニに近付くと、彼の肩をぽん、と叩いた。

振り返るミツクニ。その燃える眼がじっとこちらを見据える。

彼が何かを言おうと口を開きかけた時だった。


「―――ミツクニ!!?」


響く男の声。ミツクニと僕は一斉に声のした方を見た。

見れば、紅い長髪の男がこちらに向かい走って来る。

その後ろにはガタイの良い短髪の男、それから金に近い肩程までの波打つ髪の男が走って来ていた。


―――イェンスにエーリク、そしてもう一人は……レオンハルト・デ・コルトか。

僕は心の中で確認するようにそう呟いた。


イェンスは物言わぬミツクニの近くまで駆け寄ると、その眼をじっと見ながら不安げに口開いた。

「ミツクニ!ミツクニ……オレだよ!解らないのか?」

イェンスの碧い瞳が揺らめいている。

「…イェンス……?」

ミツクニの眼の炎が、すっ―――と弱まり、消え去っていった。

「お、俺……また…」

己の右手に握られた刀を見、震える声でそう言ったミツクニ。

「ミツクニ―――無事で良かったが……いったい何があったんだ?」

イェンスの背後からエーリクがミツクニに向かい問いかけた。

「人型機鬼とブラックコープスに遭遇してしまってね」

僕がそう発すると、四人は一斉にこちらを見た。

「あれ、貴方は―――」

レオンハルトがこちらを見、驚いた顔をしている。

「まさか、ユリウス・アレクサンダーじゃ…?」

僕は頷き、美しい顔をしたその青年に微笑んだ。

「やあ、初めましてだね。君はレオンハルト・デ・コルトだろう?」

僕がそう言ってレオンハルトに近付くと、右手を差し出した。

手を握り返す彼の手には熱が籠もっている。

「ユリウスさん、まさかまた助けに来てくれたのか?」

イェンスが驚いた表情でそう言った。

僕は頷きながら「ああ」と返す。

「そういう指示だったからね。此処に着いてみたら、ミツクニが気絶して中央コンベアに運ばれていたというわけさ。そうして彼が目覚めた後で、共に此処まで来た」

「ナイスタイミングだぜ」

エーリクはそう言いながら安堵の溜息を洩らした。

「でもミツクニ、阿修羅の力を放つなんて、よっぽど緊迫した状態だったんだな」

ミツクニは「うーん」と唸りながらゆっくりと頷く。

「そう…だったと思う。記憶が少し曖昧で……でもそうですよね、ユリウスさん」

僕は「ああ」と返した。

「機鬼は倒しても倒しても現れるし、大変だったよ。しかもこの階にはブラックコープスの連中がそれはもうたくさん居たしね…ミツクニの力が無ければこうして此処まで無事では居られなかっただろう」

そうだったのか、とエーリクは顎に手を当て考え込むように少し俯く。

「そうそう、君達は対なる星月を探しに此処へ来たんだろう?」

ミツクニから聞いたよ、と僕は三人に向かい言った。

「此処は4階だ。対なる星月はこの更に上―――5階にあるという事は、この階のどこかに5階へと進めるルートがあるという事だ」

僕がそう言うとレオは「そういえば」と話を始める。

「いよいよ此処じゃないかい?最上階への道へと繋がる隠されし扉―――魔導機械技術による防衛機構、というのが存在するのは」

エーリクの眼が輝く。

「おお!そういえばそうだな!!よっし、腕が鳴るぜ」

そう言って彼は辺りを見回し始めた。

―――対なる星月、か。

僕は辺りを探索し始める四人の姿を見、心で呟く。

―――超科学文明時代の魔導機械技術による防衛機構、其れに守られた宝玉の一片。二つの宝玉が合わさりし時、指し示すのは創世記(ジェネシス)の在処、か。

出来過ぎなくらいに面白い展開じゃないか―――僕は自然と心が躍るのを感じた。




***


/Script_CODE/Aaron Zeiss




囂々と鳴る風の音が、鉛の装甲を伝い僅かに漏れて来る。

だがこの船内の静寂は保たれており、決して外部からの騒音が会話を妨げる事は無い。

暗い内部に光はほぼ無いに等しく、互いの姿は見えぬ。

たが、この男を前にして視覚など無に等しい。オレの前に立つこの男から発せられる波動は途轍もなく黒く、対峙した相手に例外無く畏怖の念を抱かせる。

「―――外は、どうなっている?」

男の低い声が船内に響き渡った。

「戦況は変わらない。敵は、一歩進んでは一歩退き―――という戦いを繰り返している。こちらが中々踏み込めずにいるところから鑑みても、相手は廃墟の立地を上手く利用しているようだ」

敵もさるもの引っ掻くもの、という訳か―――そう言って男は嘲笑気味にふと笑いを溢した。コン、とグラスをテーブルに置く音が聞こえる。

「駐車場跡の方はどうなっている?」

男から投げかけられた問いに、オレは先程部下から聞いた報告を思い起こした。

『侵入者―――炎の、爆風が』

途切れ途切れに通信で報告してきた部下の声には恐怖が混じっていた。

―――炎。あの男か……

オレは阿修羅の刺青を彫ったあの男の姿を思い出す。

「侵入者が現れたようだ。こちらの部隊は圧されている。侵入者の人数は不明だが、部下が『炎を纏った男が現れた』と言っていた。恐らく前回ティア・タワーマンションで出くわした、『プロメテウス』のディーン・ミツクニ・カルヴァートだろう」

「ほう―――『新世の炎』か」

まさかあの男がな―――そう言って男は再びグラスを手に取り口に付けた。

「人数は解らんと言うことだが、カルヴァートは一人ではあるまい」

「ああ。こちらが駐車場跡を占拠している事を承知で侵入しているのだろうから、ティア・タワーマンション同様、必ず連れと共に乗り込んでいるはずだ」

男は手に持ったグラスを指で鳴らしながらふと嗤った。

「―――ふ。『伝説の勇者』か」

面白い―――そう言って男はグラスを再びテーブルに置くと、手に武器を具現させた。

闇の中に、ひと際黒々しく、禍々しい気配が漂う。

「なあツァイス」

男は己の武器を両手で持ち、その容を確かめる様に見ながら言う。

「お前の目的は変わらぬままであろうな」

「―――ああ」

そう返し、オレは槍の切っ先を見た。

鋭い光を放つ其れを、何度血で染めてきたか解らぬ。

「すべては己の魂の為だ」

男の視線がこちらを向く。

鋭く重い視線、というモノがあるのだという事を、俺はこの男に出会って初めて知った。

「そうだ。そして己の信念の為とあらば、時には全てを切り捨ててでも目的は果たさねばならない」

男はひと際低い声でそう言うと、上着を羽織り、武器を背負った。

「オレ一人で十分だが」

オレは己の手に持っている槍の感覚を指で確かめながら、男に向かいそう言った。

男は「はは」と今度は声高らかに嗤う。

「つれない事を言うな、ツァイス」

男はそう言うとギラリ、と眼を光らせた。


「さて、お手並み拝見と行こうじゃないか」


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