衝撃と笑撃
「うるさいのが帰ってきやがった」
飛んでくる扉の破片から美琴を庇い、大きいため息をついた後、その光景に驚き声も出ないでいる美琴を椅子に座らせる。
「ルーファス様! 今は駄目でございます! 人払いがされています!」
ルーファスと呼ばれた瞬間見える、印象的な紅い髪と瞳。目つきは悪いが、整っているその顔に、やはり異世界にはイケメンしかいないのかと美琴は遠い目をする。
その間にも、メイドに引っ張られながら、中に入ってくるルーファスは興奮気味だ。いや、すでに、大破している扉がその怒り具合を表現していた。
「あぁ!? 知るか!! こっちは仕事放棄して早々に帰りやがったあいつに文句があるんだよ!」
その言葉に、きっとジルヴェスターのことなのだろうと、予測を立てる。いや、予測どころか、消去法でも、ジルヴェスターしかいない。
「それでも! 今は謁見中とのお話ですから!」
陛下の御前ですと、頑張って引き留めているメイドは既に半泣き状態で、何か可哀そうになってくる。
「はぁ!? 謁見ってあの「騒がしい!」ぐぇ!」
「おぉ」
綺麗にルーファスの背中に着地して現れたのは、先ほどまで席を離れていたイレーネだった。あれは絶対狙っていたに違いない。そうでなければジルヴェスターが感心するほど綺麗に背中に入らないだろう。
「イレーネ様!」
目の前に現れた上司に驚きながら、メイドは慌てて姿勢を正す。それに一瞥すると、イレーネは静かに口を開く。
「ユリア、下がりなさい。人払いがされている部屋はどのような理由があれ、入室禁止と教えたはずです」
「申し訳ございません。ルーファス様も」
青ざめた表情で、ルーファス共々下がろうとしたユリアはルーファスに伸ばされた手を止められる。
「ルーファス様は、私が責任を持ちます。あなたは下がりなさい」
すみませんと、再度お辞儀をした際、ユリアと美琴の視線が交わる。一瞬驚いた表情をしたユリアだったが、次の瞬間には何事もなかったように、そのまま破壊された扉から退出した。美琴はユリアの視線が気になったが、苦しそうなルーファスの声に引き戻された。
「てめぇ…、いつまで人の上に乗ってるつもりだ!?」
「あら、そのような所にいたのですか? これは失礼を」
背中から払いのけようと体を動かすルーファスに合わせ、イレーネは綺麗な笑みを浮かべその背中から飛び降りた。
「わかってただろうがっ! 相変わらず可愛くねぇ!」
「あいにく可愛さは持ち合わせておりませんので」
苛立たし気に乱れた紅の髪をかき上げるルーファスに対し、片手を頬に当て妖艶な笑みを浮かべるいつもと少し違うイレーネに、二人の関係はいったい何だろうかと美琴は首を傾げる。
「おい、そろそろ良いか?」
いつまでやる気だと呆れ声で声を掛けたジルヴェスターに、思い出したとばかりに、今度はジルヴェスターに突っかかる。
「そうだ! ジルヴェスター! お前、仕事放棄しやがって!」
「ちゃんと断りは入れた」
「はぁ!? あんな一方的な断り方があるか! 人に水中探索命令しといて、俺が上がった瞬間“急用ができた。城に帰るからあと任せた”だぁ!? なめんじゃねぇぞ!」
本当に断りを入れただけの状態だ。きっと、了承は得ず帰って来たのだろうなと美琴は悪びれずにいるジルヴェスターを複雑な面持ちで見た。自分のために戻って来てくれたことは嬉しいが、それはそれでどうなんだろうと言う思いだ。
「嘘は言ってないだろ?」
「てめぇのその急用が自分の女に会うことぐらい、俺が知らねぇと思うなよ! 現にそこに…、女が…ん?」
突然指を指された美琴はビクッと体を揺らす。いったい、何を言われるのだろうかと、ルーファスを見ると、ルーファスはその眉間に眉を寄せ困惑した。その表情は、お前は一体誰だとでも言いたげな顔だ。
「えっと……」
何と言ったらいいのだろうかと、美琴も困惑していると、ルーファスは美琴とジルヴェスターを見比べ始めた。何かを数える動作をしたと思ったら、今度は頬を掻きながら、何かを悟ったかのように、言いづらそうにジルヴェスターに向き直る。
「あぁ…、いや、何だ? 怒鳴って悪かった」
急に180度姿勢を変えたルーファスにさすがのジルヴェスターも訝し気な顔をする。再度悪いと謝ると、ジルヴェスターの両肩にルーファスは手を乗せた。
「そりゃあ、自分の隠し子が来るなら急用な上、人払いもするよな」
「隠し子!?」
まさか、それは自分のことだろうかと驚いていると、ジルヴェスターの眉がピクリと動いた。
「人を何だと思っている? 違うに決まってるだろう」
「はっ!? じゃあ、まさか幼女趣味だったのかよ!? 確かに、この嬢ちゃん可愛いけどな! それは、さすがに犯罪っ!?」
その言葉にとうとう目尻を吊り上げたジルヴェスターを止める間もなく、ルーファスは再度床に叩きつけられる。いってーと叫んでいるルーファスには悪いが、美琴も苦笑しかでない。
「幼女趣味って……」
「ハハハハ!! 幼女趣味!! 確かに、これじゃそう思われても仕方ないよね! それにしてもジルヴェスターが幼女趣味!」
先ほどまで笑いを堪えていたジェラルドは、我慢が出来なくなったのか吹き出した。傑作だと笑い転げるジェラルドの後ろではイレーネが呆れたため息をついた。ジルヴェスターの標的が今度は笑い転げているジェラルドになりそうな瞬間、ジェラルドは瞳に涙を浮かべ呼吸を無理やり整えながら口を開く。
「ルーファス、これは口外禁止だけど、彼女もう大人の女性だからね」
「……はぁ!?」




