二つの魔法
「死にたくなければねぇ……」
一瞬の静寂の後、ジェラルドがポツリと呟き、美琴の前まで歩みを進める。そして、抱きしめられている美琴の頭を優しく撫でた。手の温かみとは違う不思議な温もりに美琴は癒される。
「これで気分は少し違うはずだけど、どう?」
「楽になりました」
どこか重たかった体が少し軽くなったように感じる。これも魔法だろうかと、ジェラルドを見ると優しく笑われた。ジルヴェスターも、戻った美琴の顔色に安堵する。だが、見過ごせないものもあった。
「で? いつまで撫で続けているつもりだ?」
いつまでも撫で続けていた結果、睨まれた上に、手を叩かれたジェラルドは驚いたように目を見開く。しかし、次の瞬間には面白いものをみたとニヤニヤし始めた。
「へぇ。君でもそういう反応するんだね?」
「黙れ」
殺気を帯びだした気配に、ジェラルドはやれやれと肩をすくめる。これ以上はさすがにまずいと感じたジェラルドは話題を切り替えた。
「じゃあ、その守護魔法のことについて考えるとしようか」
「守護魔法だと?」
守護という言葉にジルヴェスターが顔を顰める。だが、それはジルヴェスターだけではない。魔法のことをあまり知らない美琴も同じだった。
「守護って守られているってことですか?」
だが、聞こえた言葉は物騒なものだった。いったいそれが守護という言葉にどう繋がるのだろうか。
「不思議に思っているようだけど、そうしか思えないんだよね」
むしろそれ以外の答えはないとジェラルドは断言する。
「このご時世、不都合なものは切り捨てられるのが当たり前。もし、ミコトちゃんの魔法が解かれることで何か不都合が出るなら、解かれる瞬間殺せばいい。それなのに、死にたくないなら諦めろとか普通言う? 僕ならしないね。面倒だし。まぁ、ちゃんとした理由はもう一つあるんだけど」
話すと喉が渇くねぇと呑気なことを言いながら、ジェラルドはテーブルからカップを呼び寄せる。
「理由だと?」
呑気なジェラルドにジルヴェスターはさっさと言えと続きを促す。ジェラルドのペースに付き合っていたら話が終わらない。
「睨まないでよ。さっき、ミコトちゃんに、魔法をかけた時に気が付いたんだけど、多分ミコトちゃんには二つの持続魔法がかけられてると思う」
「二つだと?」
一つは体を小さくした魔法だろう。後は何だというのか。
「何の魔法かまでは僕にもわからないけど。二つの異なる魔力を感じるから、それは間違いない。ただ、その一つの魔法が、もう一つの魔法を抑え込んでいるのか、隠すためにかけられているのかが謎だよね」
「まだ早いって意味はどう説明するんだ?」
「んー。それは、僕にもまだわからないけど。守護魔法は何かの条件でしか解けないのかもしれない。その条件を今のミコトちゃんは満たしてないからまだ早いって意味だろうけど……」
言い淀むジェラルドは考えこむように手を口元に当てる。その理由がわかったジルヴェスターもため息をついた。
「その魔法を一体どこで掛けられたか……か?」
「そういうこと。確実にミコトちゃんの中から消されてる空白の五日間の中で何かが起きたのは明白だけど。そこに、選別の道が絡んでるのが気に喰わないなぁ」
気に喰わない所の話ではない。口には出さないがこれは大問題だ。これまでの話を聞く限り、城への来訪者を選別する魔法を逆手に美琴を連れ去った可能性が出てきたのだ。それは城門前で堂々と犯罪を犯されたことを意味する。それにはさすがのジェラルドも笑みを消すしかなかった。
「問題はその犯人が誰か…」
もう少しすれば選別の道を誰が通ったかを調べに言ったイレーネが戻ってくる予定だ。だが、それまでに、ジェラルドもここ最近の来訪者を思い出せる限り思い出そうとした。
「…ちく…さい! …様!」
「おや、廊下が騒がしいね」
一瞬にして思考をかき乱されたジェラルドは、廊下の方を見る。もう少しここにいるのだし、ついでに防音魔法でも掛けようかと手を伸ばす。しかし、それはもう遅いと言う様に、破壊音と共に扉が開いた。
「ふざっけんなぁ! こんのくそ上司がぁ!」




