お互いの正体
寒くなってきましたね。皆さん体調に気を付けてください。私はがっつり崩しました(笑)さて、大変遅くなってすみません。引き続き読んでくださるとありがたいです。
いつも見るボサボサの銀髪は綺麗にセットされ、白を基調とした服に濃藍色のマントを身に纏い、豪華な装飾の椅子に優雅に座っているのは紛れもなくジェラルド。そして、ジルヴェスターをその後ろに控えさせているジェラルドのその光景はまるで。
「王様みたい」
「みたいじゃなくて、僕王様なんだよ?」
「またまた。そんな冗談を」
苦笑しながら頬を掻くジェラルドに美琴は笑う。二日連続、庭で仕事をしていたのを知っている美琴にとってジェラルドの言葉は冗談にしか思えなかった。だけど、ジルヴェスターがこういうことをするのは珍しいとジェラルドの後ろに視線を向けると、なぜかそこには頭を抱えているジルヴェスターがいた。
謁見の練習でもさせたくてジェラルドを借り出したが、早々にバレ頭でも抱えているのだろうかと、美琴が首を傾げていると、小さくため息をつきながらジルヴェスターは口を開いた。
「ミコト。お前どこでこいつに会った?」
「庭でお仕事してるときに会ったけど?」
倒れている所を発見したとは言わないのは美琴なりの優しさだ。しかし、その優しさに反し、ジェラルドは慌て始める。その様子に何か確信を得たジルヴェスターは深いため息をこぼす。
「どおりで部屋に立てこもっていた割に、仕事が捗ってないわけだ」
何故か怒り声のジルヴェスターにジェラルドは冷や汗をかきながら、どうジルヴェスターの怒りを鎮めようか頭をフル回転させる。
「まぁまぁ、今はミコトちゃんでしょ? 立ち話もなんだからさ、座って話そうか。イレーネ、飲み物とお菓子お願いできる?」
美琴の話題を盾にして、ジェラルドはイレーネに頼み、自分は大広間のど真ん中に大きい丸テーブルと人数分の椅子を出す。そんなジェラルドをジルヴェスターは睨むがジェラルドは素知らぬ顔だ。イレーネはイレーネで自分の仕事を全うしようとジェラルドに一礼する。
「では少々お待ちを、陛下」
「陛下って……、それじゃあ、本当に」
綺麗にセッティングされたテーブルを美琴は驚きながら見ていたが、イレーネの言葉にさらに驚き、後ろを振り返る。美琴と目が合ったイレーネは小さく微笑む。
「ミコト様。あの方こそが、ラインティアの王ジェラルド陛下でございます。庭師ではございませんのでご注意を」
「えっ、えー!?」
さすがにイレーネの言葉で冗談ではないと分かった美琴は目をこれでもかと言うほど見開く。そして、王とは知らず接していた自分の行動に頭を抱えた。しかし、そんな美琴の心境を知らないジルヴェスターは首を傾げながら美琴をエスコートして、席に座らせ自分はその隣を陣取る。全員が着席したと同時にイレーネが紅茶とお菓子を出す。それにジェラルドはお礼を言い、一口紅茶を飲んで口を開いた。
「じゃあ、改めて自己紹介。僕がラインティアの国王をしているジェラルド=レーヴェンガルトだよ」
爽やかなその笑顔にこの人もモテるだろうなと、一瞬現実逃避した美琴は、隣から催促のように腕をつつかれ慌てて自己紹介をする。
「あのっ、異世界から来ました蓮見美琴です。王様とは知らずに失礼な態度とってしまってすみませんでした」
けど、王様のイメージとは違ったんですと続きそうになる言葉をグッと飲み込む。しかし、美琴の表情で美琴の考えていることが分かったのか隣にいるジルヴェスターは口元を手で隠し小さく笑っている。
「気にしなくて良いよ。自己紹介しなかった僕も悪いんだし。それにしてもまさかミコトちゃんが、ジルヴェスターが言ってた異世界人とは吃驚だよ。あっ、もしかして僕にくれたお菓子って異世界のお菓子だったりするのかな?」
「そうですよ。というか、ごめんなさい。王様にあんな物食べさせてしまって」
お城で食べる料理の方が、美琴が作る料理よりも何倍も美味しいことを身をもって知っている美琴は申し訳ないという気持ちでいっぱいだった。しかし、美琴の気持ちとは裏腹にジェラルドはキョトンとした顔をする。
「えー、美味しかったよ。あんなお菓子初めて食べたしね。心配しなくても美味しくない物は美味しくないって言うよ。だから、約束通りまた作ってくれると嬉しいんだけど」
どうかな? と首を傾げてくるジェラルドに美琴は一瞬考えたが、自分から言い始めたことだと思い出す。それなら責任をもって作ろうと自分に言い聞かせる。
「あんなので良ければ喜んで!」
「良かった。あっ、あと、ついでに王様じゃなくてジェラルドね」
そんな無理難題を言ってくるジェラルドに美琴はさすがに首を振る。しかし、なぜかそれには折れず最終的には王様命令と言い出したジェラルドに美琴は今まで通り『さん』付けでしぶしぶ了承した。そんな二人のやり取りに何か察したジルヴェスターがボソッと呟く。
「餌付けされたか」
「されてないからね!?」
「してないからね!?」
物騒なことを言うジルヴェスターに即答で二人は返すも、ジルヴェスターは素知らぬ顔で紅茶を飲む。ジェラルドもムッとした顔をしていたが、ジルヴェスターに文句を言っても無駄ということを知っているので諦める。
「それにしても、何でミコトちゃんそんな姿してるの?」
「あっ、ごめんなさい。本当は白いドレスが正しいんですよね?」
何か思い出したように美琴の姿を見るジェラルドに、謁見には白いドレスと教えられた美琴はそのことを謝るのを忘れていたと慌てる。しかし、ジェラルドは首を横に振る。
「別にいいんだよー。その色、ミコトちゃんに良く似合ってるし。仕来りとか僕は気にしないし。色々な色のドレスで謁見してくれた方が華やかでいいのにね。そういえば、何で、白なんだろうね? ジルヴェスター知ってる?」
ジェラルドの中で重要視されていないため、側近のジルヴェスターに尋ねるも、案の定ジェラルドと同じように首を横に振る。
「さぁな」
「イレーネは?」
「存じておりますが……」
どこか言いにくそうに口元に手を当てるイレーネを全員が注目する。美琴も理由まで聞いていなかったため興味深々だ。
「言いにくいこと?」
「そういうわけではございません。私も詳しいことは知りませんが、初代王妃様が白いドレスを好まれて着られていらっしゃったらしいのです。しかし、王妃様は病弱で若くして亡くなられました。そんな王妃様のことをいつまでも覚えていて貰いたいという国王様の願いもあり、謁見では白いドレスを着用ということに建前上はなったようです」
「建前上?」
建前上の所を強調して言うイレーネに全員首を傾げる。イレーネは小さくため息をつき、目を逸らしながら続きを言った。
「実際は、ただの初代国王様の好みという話が有力との話です」
「好み!? そんな理由で今まで謁見には白いドレスってしてきたの?」
「さすが、お前の祖先だな」
そんな理由だと思ったと呆れているジルヴェスターに、美琴はさっきまでの心配は何だったのだろうかとため息をついた。
「まぁ、僕の祖先だしねー。なら、僕の代で変えちゃおうかなぁ。っと、僕が聞きたかったのはドレスの話じゃなくて、その姿の話なんだけど? 聞いた話だと、本当は大人何だよね? 趣味?」
「趣味じゃないです!」
どうやら、ドレスの話ではなく、子供の姿の話だったらしい。だが、趣味かと聞かれ、とんでもない勘違いをされていることに気が付いた美琴は慌てて否定し、これまでの経緯を説明する。気が付いたら子供の姿で異世界にいたこと、そこでシャルに助けられたが、実はその日より五日前に既に異世界に来ていたこと。どうやら選別の道で何かが起こり、子供の姿にされ、記憶を消されたことなど、包み隠さず説明した。始めは、面白そうに聞いていたジェラルドだったが、選別の道で何かが起きたという所で顔を顰め始めた。
「選別の道でね……。それは聞き捨てならないよね」
何かを考えるかのように、ジェラルドは手を口元に当てる。そして、近くに控えていたイレーネに目配せすると、イレーネはその視線に頷きその場から姿を消した。
「もし、選別の道でミコトちゃんに何かあったというなら僕の責任だ。責任は取らせてもらうよ」
「責任を取るって……」
今にも何か起こそうとしているジェラルドに慌てる。まだ選別の道が原因と決まったわけじゃないのだ。
「まぁ、そんなに難しく考えなくて良いよ。どちらにしろ、城門前で何かが起こったのは確かみたいだしね。取り合えず、僕が出来うる限りで掛けられた魔法を解いてあげるよ。君はジルヴェスターの恩人だしね」
「お前、そんなこと出来るのか?」
椅子から立ち上がるジェラルドにジルヴェスターは疑いの眼差しを向ける。向けられた本人はムッとした顔をし、即座に反論する。
「心外だなぁ。僕は王様だよ? この国で最大の魔力の持ち主だよ? 騙されたと思って見ててよ」
美琴を椅子から立たせ少し離れた所に立たせる。フフフと笑い手を突き出すジェラルドは魔法というか、呪いでも掛けそうな雰囲気だ。それがわかったのか、美琴も口元を引きつらせ、一歩後ろに身を引く。
「動いたら危ないよ」
その言葉に、即座に美琴は動きを止める。それに満足したジェラルドは、スッと目を細め突き出した手の周りに青白い光の魔法陣を展開された。最終的に展開された四つの魔法陣に、いったい今から何が起こるのか美琴には全くもって想像できないでいた。だが、ジルヴェスターが何もせず見守っているのだから、きっと大丈夫なのだろうと言い聞かせる。
「じゃあ行くよ」
その言葉と共に四つの魔法陣が一つに集約され先程よりも大きくなる。そして、青い光が強くなった瞬間ジェラルドが指を鳴らした。
「リベラティー」
呪文みたいな言葉を紡いだ瞬間、美琴の体を何かが貫いた。それが、何なのかはわからない。ただ、意識を持っていかれそうな、今まで味わったことのない感覚が美琴を襲い、その感覚が怖くてギュッと目を閉じる。
『 』
「え?」
頭に映像が流れたと思った瞬間、かき消されるように映像が乱れ消失する。それと同時にドクッと心臓が跳ねあがった。
「騙されたな」
「あれー? おかしいなぁ」
ジルヴェスターの呆れ声とジェラルドの不思議そうな声にぼやけていた意識がクリアになる。目を開くと目の前には先ほどとは何も変わらない光景。美琴の姿も何も変わりはない。ただ、美琴は今起こったことに動揺していた。
「ミコトどうした?」
ドレスの胸元をギュッと握りしめ俯いている美琴の様子に異変を感じたジルヴェスターが美琴の前まで来ると心配そうに顔を覗かせる。
「声が……」
「声?」
「映像が出て……、声が……」
自然と震える美琴の声にジルヴェスターは安心させるかのように、その小さな体を抱きしめる。
「ゆっくりでいい。何が起きた?」
抱きしめられ、優しく撫でられる背中に、強張っていた体の力が抜ける。崩れそうになる体をジルヴェスターに支えてもらうと、ゆっくり顔を上げる。
「ジェラルドさんに魔法をかけられたら、何かの映像が見えたの。けど、それは一瞬で消えて行って代わりに、声が聞こえてきた」
「何が聞こえたんだ?」
大丈夫だから言ってみろというジルヴェスターの言葉に美琴は口を開く。だが、その言葉にジルヴェスターは撫でていた手を止め、目を見開いた。
「まだ早い。死にたくなければ諦めろ」




