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街……イヤ、それよりも

長いので途中で切った感じ。

続きは鋭意製作中。

台風怖い。

「良い加減、村の一つでも出て来ねーかな……」


 流石に見飽きた代わり映えの無い道程をダルダルモードで歩きつつ、彼女はボヤいていた。

 拠点にしていた神社を出て10日。彼女はぶらり途中滅殺(・・)の旅を続けていた。別に旅が苦になっている訳では無いが良い加減、川での水浴びでは無く風呂に入りたいし木の枝や地面では無く布団で寝たい。

 村でも街でもこの際山小屋でも良いから出て来ないかと思いながら歩く彼女が、何度目かになるかも忘れた欠伸をした瞬間――


「――えっ?……」


――一陣の風が吹き抜けた。そして左腕に走る痛み。見れば二の腕の所が斬られ、白衣の袖が現在進行形で紅く染まっていく。

 感知はしていた、しかし【妖気感知】で感じた時には、もう(・・)斬られていた。防御も回避も反応すら出来無かった一撃。その上、もう感知圏内から消えている素早さ。

 それら全てを理解した時、彼女の中に強い衝動が湧き上がる。彼女はその衝動の赴くまま、高らかに笑った。


「〜〜〜っ!! クフッ! アハハハハッ!! ヤベェ、本気(マジ)ヤベェ!! 腕じゃ無くて首だったら殺られてた!!」


……腕から血を流しながら大笑いする、他の誰かが居ればドン引きする姿で、彼女は腕の傷を治さずに笑い続けた。




――――Time・(ちょっと時)Going(間が飛ぶぜ!)――――


「――あ〜〜、クソっ!」


 道に落ちている石を蹴りながら、彼女は悪態をつきつつ歩いていた。斬られた白衣の袖の隙間から覗く彼女の腕は既に治療されている。未だ血に染まった袖が無ければ、そこに傷が有ったと気づかない程の完璧な治療である。

 あれから周囲一帯を探し続けたが、結局自分の腕を斬った妖怪を見つける事が出来無かった所為で、彼女は実に不機嫌であった。


「絶対見つけてやるからな、待ってろよ」


 見つかるまで探そうとも思ったが、それで夜が更けてこの辺りで野宿して寝ている間に殺られるのは彼女的にも出来無い。そんな訳で、彼女は何処か別の安全に眠れる場所を探して道を進んでいた。


「――ん?」


 前方遥か先に見えるモノがある。彼女は『那由多の袋』から一本の筒状の物――『遠眼鏡』を取り出して覗き込む。


「……街か。」


 覗き込んだ先にはシッカリとした造りの家々が見える。それを確認すると彼女は、日が暮れぬ内にたどり着こうと【縮地】連続移動で速やかにその場から消え去った。




――――Now・Go(ちょい)ing・Ra(急ぐぜ!)pidly――――


「到着。結構デカい街みたいだな」


 無事、街へたどり着いた彼女は大通りをブラブラ歩きながらその街並みを眺めていた。人の行き交いも多く、立ち並ぶ店の品々も中々に良い物が見える。これまで使い道の無かった(ぜに)の出番が漸く訪れたかと考えている彼女は……周囲の視線を独り占めしている。普段お目にかからない巫女さんな上に、着ている白衣の片袖が切れ込みプラス真っ赤に染まっていると言う異様さ満点な姿なのだから、当然と言えよう……本人はこれっぽっちも気にしていないが。


(色々見て回りたい所だが、先に宿だな)


 西に傾きかけた太陽を見上げ、彼女は先に優先すべき事から手を付ける事に決めた。そして彼女は一番手近にあった乾物屋の店主に声を掛ける。


「おっさん!」

「はいいいいいぃっ?!!」


 何の脈絡も無くいきなり声を掛けられた事に、芸人並みのリアクションを見せる店主。しかし彼女はそんな事を……何故怖がられてるのかを無視して尋ねる。


「この辺に宿は有るか?」

「五件先に御座いますっ!!」


 ビシッと音がするくらいに綺麗に腕を伸ばして返答する店主。言葉も異常に丁寧になっている。彼女はやはり気にせずに店主に礼を言って後にする……後ろで店主がへたり込んでいる事は、やっぱり気がつかない。

 言われた通りに行ってみると、二階建ての建物があり看板から宿だとわかる。それを確認すると彼女は、店先に居る男性に声を掛ける。


「おい。部屋はあるか?」

「は、はい! 空いて御座いますです、はい!」

「そうか、なら厄介になるぞ」

「はい! 畏まって候で御座いましてようこそお出で下さいました!」


……余程のテンパっているのか、言葉が滅茶苦茶である。最も彼女は一切気にせずに中に入る。中に入っても出会う者皆から一歩引かれるが、結局案内された部屋に入ってやっと、彼女は血に染まった白衣を脱ぐ。


「あ〜〜、これで何着ダメにしたか……まあ、まだあるから別に良いか」


 新しい白衣を取り出し着替えた彼女は血に染まった白衣を仕舞うと、大の字に寝っ転がる。


「明日こそは、絶対に見つけてやるぞ……フフフフフ♪」


 見つけたらどう戦おうか、どんな準備をしていこうかと思考に耽っていた彼女は、宿の人が食事の時間を告げに来るまでずっと楽し気に薄笑いを浮かべていた。




――――Now・(宿泊)Staying(中だぜ!)――――


「……どうでも良い天井だ。そして、何時もの如く最悪な目覚めだ」


 久方ぶりの布団の中で目覚めた彼女は、どうでも良い事を呟いて起き上がる。

 久方ぶりのちゃんとした食事、久方ぶりの風呂、久方ぶりの畳に布団。固い地面や枝での睡眠と違って熟睡出来た彼女は、何時も通りに痛む頭に顔を顰めつつ寝巻きから着替え布団をたたむ。

 そしてそのまま宿の人間に軽く声を掛けて宿を後にする。


「今日こそは見つけてやる!……の前に、せっかくの街だ。店を見て回るのも良いか……食材関係のアイテムが結構減ってるしな」


 既に高く登った日を見上げた彼女は、昨日の妖怪探しを後回しにして街中の店をアッチコッチ回ってみる事にした。




――――Now・(お買い)Shoping(物中だぜ!)――――


「――中々の品揃えだったな」


 色々な店を巡り終えた彼女は、終点である茶店で草団子を摘んでいた。

 野菜やら何やらの食材に新たな包丁、序でに色々と使えそうな物を購入出来た事に御満悦である。その結果として多少の金銭が減ったが、彼女に取っては痛くも痒くもない……買った大量の品物が『那由多の袋』に消え、惜しげも無く金を払うなんて事を次から次へと繰り返していたので、街の人間達から物凄く注目を浴びていた事も気にしていない。


「――隣、失礼します」


 彼女が座っている店先の縁台、その空いているスペースに一人の老人が座る。彼女は言葉を発する事無く、軽い頷きで同意する。

 チラリと横目でその老人を見れば、何と言うか大暴れした挙句に印籠見せてハイ終了な諸国漫遊しちゃってる御隠居にそっくりである。そんな老人がゆっくり茶を飲み(くつろ)いでいる。


「…………」

「…………」


 街の喧騒の中、草団子を食べる音と茶を啜る音が静かに響く。草団子の最後の一つを手に取った彼女は、そのままの姿勢でポツリと呟く。


「これ食ったらオレは行くぞ。話しが有るならさっさと言え。聞くだけ聞いてやる」

「?!……お見通しでしたか」

「四軒ぐらい前から、ずっとオレの後を付けて来てただろ?」

「……そこまでお見通しでしたか、これは失礼」


 湯呑みを傍らに置くと、彼女へ向き直り頭を下げる老人。最も、彼女はそんな老人に身体も顔も視線すら向けずに草団子をパクついているのだが、老人は自分の孫ほどに年の離れた彼女のそんな態度に憤りを見せる事無く話しを続ける。


「私はそこの乾物屋の隠居で、名を庄左衛門と申します」

「…………」


 相手が名乗ったにも拘わらず、やはり何も返さない彼女。そして、やはりそれに対しても憤りを見せない老人――庄左衛門。中々に懐が深い事が窺える。


「貴女にお願いしたいのです。一月程前からこの街の近辺に現れる様になった妖怪を退治してほしいのです」

(……やっぱ、それか)


 一旦、草団子を食べるのを止めた彼女は、予想通りの言葉に微かに息を吐く。

 昨日、道を聞いた時に見たが、乾物屋の建物は他の店よりも大きかった。そんな店の隠居となれば、恐らくこの街での地位と言うか発言力も強いであろう。そんな人物が態々(わざわざ)直接声を掛けてきたのだから、その内容を予想するのはそう難しくはない。


「この街を訪れる人が減る事もそうですが、荷駄を運ぶ者が居なくなる事も重要なのです」

(流石は商人だな。人の被害だけで無く、物流が滞る事にも注意が向いてるのは)


 やや関心した彼女は、相変わらず身体も顔も視線も向けないまま庄左衛門に幾つかの疑問を投げかける。


「……その妖怪。昼も出るのか?」

「はい。と言うよりも、朝・昼・夜何時でも出ます」

「…………」


 昨日斬られた腕の箇所を摩りながら、彼女は更に尋ねる。


「……何で、一月も放っておいたんだ? 退治しようとは考えなかったのか?」

「勿論、考えました。しかし、この辺りには妖怪退治を専門とする人は居りません…………一応、私の伝手を使えば『()の方々(・・・)に声を掛ける事も出来るのですが……」

(…………出来る事ならアイツ等の手は借りたくない、か……理解は出来るが……)


 元々のゲーム、『九十九妖異譚』の設定を思い出して理解する彼女。理解は出来るが……納得は出来無い。


「……けどよ。だからって一月も放っておくのは無いだろ。何人犠牲者が出てんだよ?」

「犠牲者は、一人も出ておりません」

「…………何?」


 その言葉に、初めて顔を向ける彼女。驚愕と言うよりも疑惑の表情を浮かべて。


一人も出(・・・・)ていない(・・・・)? 犠牲者(・・・)がか?」

「はい。この街には一月半程前に流れてきた腕の良い薬師が居りまして、彼の造る薬のお陰で幸い死者は一人も出ておりません」

「…………余っ程良い薬師なんだな」

「はい。街の者も皆、感謝しております」


 本当に感謝しているのであろう。それが良くわかる表情で言った庄左衛門に対して、彼女は草団子の最後の一切れを口に放ると銭を置いて歩き出す。そんな彼女の背に焦った庄左衛門の声が掛かる。


「お、お待ち「勘違いしてるみたいだから、言うけどよ」……はい?」


 背を向けたまま、庄左衛門の困惑を他所に彼女はどうでも良さ気に言葉を続ける。


「オレは最初からあの妖怪の所に行くつもりだったんだよ。アンタが声を掛けなくてもよ」

「……では」

「無駄足だったって事だ、爺さん」


 ヒラヒラと手を振りながら歩き去る彼女。そしてその背に向かって深く頭を下げる庄左衛門。彼女はそんな事に気づかずに街の外へと向かおうとして――ふと行き先を変える。


「――ここか……」


 街の人に聞いてたどり着いたのは、大きいと言うよりも広い一軒の屋敷。入口では腕や脚に包帯を巻いた者達が出入りをしているので、ここが件の薬師の住居に間違い無いであろう。治療待ちか、スキルに因ってかなりの人数が屋敷の中に居る事がわかる。感じられる。腕が良いと言うのは本当なのだろう。


「…………」


 入口の前で屋敷をジッと見つめる彼女と、そんな彼女を困惑の眼で見つめる周囲の人達。しかし彼女はすぐに視線を外し、今度こそ街の外へと歩き出す。


「…………」


……何故か、その足取りは重かった。宿を出た時とは打って変わって。

ご愛読有難うございました。


本日の解説はお休みです。

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