第六話 魔法瓶の茶渋
翌朝、図書館へ電話をした。
土曜日の談話室について尋ねると、司書はすぐに分かってくれた。
「窓側の方ですね。お連れの方から、椅子を二脚と伺っています」
「ええ」
「何か、ほかにご用意するものはありますか」
修一は少し考えた。
「いえ。それで十分です」
土曜日には、話すことがある。
聞いてみたいこともある。
答えを急がずに聞けるかどうか、まずは椅子に座ってみようと思った。
電話を終えると、工具箱の蓋を閉じた。
いつもより早く、作業の区切りがついた。
台所から魔法瓶を出した。
蓋を開け、底に残った茶渋を、長い柄のブラシで洗った。
舞台では、灯りの向きや強さによって、同じ窓枠も、人の表情も違って見えます。
『灯り合わせ』には、二人がそれぞれの場所から照らしている関係を、
互いの姿が見えるように調整していくという思いを込めました。
修一は、紗季との時間を、いつか恋愛へ育つものとして見ていました。
紗季には、彼の知らなかった暮らしがある。
その事情を知った直後には、これまでの温かな時間まで、どう受け止めればよいか分からなくなる。
そこで、彼女が会うために部屋を探し、痛む右手を気遣ってくれる。
その行動に灯りが当たると、
「恋愛には応えられない」と「自分との時間を大切にしてくれる」が、
同じ景色の中に見えてきます。
修一も、自分の寂しさを抱えながら、彼女の姿を見ようとし始める。
まだ、ちょうどよい明るさや距離は決まっていません。
これから会って、少しずつ合わせていく。
最後に洗う魔法瓶も、修一から差し出す小さな温かさです。
彼女が椅子を二脚用意し、彼がお茶を用意する。
そこから、二人の灯り合わせが始まります。




