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第一話 海の窓枠
誰かに会う約束をすると、
その日までの時間にも、物語が生まれることがあります。
何を話そうかと考えたり、
相手の短い言葉を、もう一度読み返したり。
『灯り合わせ』は、閉館を控えた小さな劇場から始まる、全六話の物語です。
古い窓枠と、作業台のスープ。
二人の間に残っているものを、ゆっくり辿っていただければと思います。
閉館まで、あと十一日だった。
客席のいちばん後ろから見ると、舞台は思ったより狭かった。客を入れなくなってから半年、椅子には一脚ずつ白い布が掛けられている。取り外した非常口の表示灯だけが、通路の端で緑に光っていた。
修一は舞台へ上がり、窓枠を持ち上げた。
裏側には、鉛筆で「海」と書いてあった。
海辺の家にも、山の診療所にも使った窓だった。そのつど塗り直したため、角の欠けたところに青と白と茶が重なっていた。
これを捨てれば、彼女に連絡する用事もなくなる。
修一は窓枠を壁に戻した。




