第一話:寡黙な王子の「可愛い」基準
王宮の騎士団演習場の裏手。 第二王子ルーファス・ルビナ・グレイは、弟のアレクセイを呼び出していた。ルーファスはいつものように無骨な騎士服姿で、その表情は岩のように硬い。
「……アレクセイ。相談がある」
「どうしたの、ルーファス兄さん。また騎士団の予算配分で揉めた?」
アレクセイが軽口を叩くが、ルーファスは真剣そのものだった。彼は懐から、少し皺になった紙を取り出した。そこには、夜会のバルコニーに佇む一人の令嬢の姿が、驚くほど繊細なタッチでスケッチされていた。
「一目惚れをした」
「はい?」
アレクセイは目を丸くした。剣と小動物にしか興味がない兄が、女性に?
「相手は、ロザリンド・クォーツィン公爵令嬢だ。……見てくれ、この佇まい。まるで、春の陽だまりで微睡む仔ウサギのようだ」
ルーファスは、低い声で、しかし熱っぽく語った。
「彼女の纏う空気は、薔薇水晶のように柔らかく、儚い。僕のような無骨な男が近づけば、壊れてしまいそうだ。……だが、可愛い。どうしても、僕の腕の中で守り、愛でたい」
(兄さんの『可愛い』フィルター、相変わらず強烈だなぁ……)
アレクセイは苦笑した。薔薇水晶の髪と瞳を持つロザリンド嬢といえば、「完璧な深窓の令嬢」として有名だ。確かに見た目は可憐だが、兄の情熱は少しズレている気がする。
「兄さん。彼女は公爵令嬢だ。ダリウス兄さんの時みたいに強引なのはダメだよ。誠実に、君を大切にしたいと伝えるんだ」
「ああ。……努力する。彼女を怖がらせないように」
こうして、「彼女を壊れ物扱いする王子」と「壊れ物扱いされたくない最強令嬢」の、すれ違い交際が始まろうとしていた。




