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黄金の稲穂、初収穫!

 夏の陽光が水田を照らし、金色の波が揺れる――。

 あの日、俺たちが蒔いた種は、ついに実を結んだのだ。


「見てくださいミツボシ様! ほら、稲穂がこんなに重そうに実っています!」


 マリアベルが目を輝かせて声を上げる。

 彼女の編んだ髪飾りにも、小さな稲穂がひとつ飾られていた。


「すごい……本当に育ったんだな」


 俺は水路脇に腰掛け、鎌を手に稲穂の先端をそっと覗き込む。黄金色に輝く穂先には、一粒一粒がふくよかに膨らんでいた。


「よっしゃ、初収穫いくぞ!」


 ウィンリーが歓声を上げ、イリーナは魔法の光で手元を照らす。エルリックは大きな包丁で丁寧に束を刈り取り、サリアはそれをまとめて藁で括っていく。


* * *


 一時間後――丁寧に刈り取った稲束を、天日干し場に並べた。風が吹くたび、稲穂がそよぎ、軽やかな香りを放つ。


「乾燥が済んだら脱穀し、唐箕とうみで籾と藁屑を分けるんだ」


 エルリックが手際よく脱穀用の道具を取り出す。

 俺も手伝いながら、籾殻を飛ばす作業を学んでいく。


 やがて白い籾が山のように積まれ、夜にはすべての藁屑が吹き飛ばされた。


「これが……種から育った米か。感慨深いな」

「ミツボシ様、お疲れ様でした。次は……ごはんにしませんか?」


 マリアベルの提案に、みんなが大きく頷く。


「よし、今日は“カツカレー”にしよう」

「えっ、カツ? それって……豚肉を揚げるやつですよね? 」


 ウィンリーが目を輝かせる一方、サリアは小首を傾げていた。


「“カレー”はわかりる。あの、スパイスが香る黄金の汁? でも、“カツ”とは何?」

「カツカレーは、豚肉に衣をつけて油でカラッとあげる、言わばカレーの豪華版だ!!」

「よくわからないけど美味しそう」


 サリアには上手く伝わらなかった。


「よし、まずは材料調達だな」


* * *


 俺たちは近くの狩場で暴れるスカーレットホッグを発見。捕獲をこころみる。

 巨大な赤毛の猪は突進力がすさまじく、岩を砕いて突っ込んできた。


「ウィンリー、右から回り込んで! エルリックは網!」

「任せなさい! 」


 エルリックが網をかける。


「捕縛完了! このエルリック特製のマナ繊維は猪でも破れん!」


 見事に捕らえた紅猪を丁寧に締め、部位を捌く。


「脂身の美しい肩ロース……これで、最高のカツを作ろう」


* * *


 厨房に戻ると、いつも通り万能圧力鍋を出し、材料を入れていく。

 万能圧力鍋で最初に炊き上げるのは、もちろん――


【料理名:星雫ごはん】


──透き通るような白さ。炊き上がった瞬間、ほんのり甘い、ふくよかな香りが立ち昇った。

 次にスカーレットホッグを入れる。

 

「……この匂い、もう……お腹が限界……」

「まだよ、ルーを炊き込みご飯にかけて、最後に“トン”を乗せて初めて――カツカレーになるの」


 サリアが珍しく真剣な顔で見守っていた。

 全員分の皿に、星雫米のごはん。その上に黄金のルーをとろり。仕上げは、サクサクのカツ。


「さあ、食べてくれ。今日の一皿――“スカーレットホッグ・カツカレー”だ」

「いただきます!」


 一口食べたウィンリーが、瞳を見開く。


「う……うまぁぁああああい!!」


 俺も一口食べる。


「うまっ」


 ふわり、もっちりとした甘みと、噛むたびに湧き上がる米の旨味。まるで……雲の上で炊いたみたいに、軽やかで、甘い……さらに、この甘さと香り、そしてカツの噛み応え……。


 イリーナが頬を染め、ウィンリーはご飯粒をほおばりながら瞳を閉じた。


 俺たちが感動に浸っていると、コンコンとドアがノックされた。


――そこには瓜二つの顔をした少女が立っていた。


「た、助けてください。……、あっ、申し遅れました。私は鬼族のミナ(姉)とミオ(妹)と申します。私達の鬼族の村が襲われてしまいやっとの思いで逃げてきました。逃げる際に必死で逃げてきたので、お腹がペコペコなのです」


 んっ!? どっかで聞いたようなフレーズだな!!


 少女の身長はおおよそ百五十センチ真ん中ぐらい。大きな瞳に桃色の唇、彫の浅い顔立ちは幼さと愛らしさを感じさせる。

 瓜二つの顔をした二人は髪形もショートカットに揃えているが、髪の色は桃色と紫色でそれぞれ違う。


 どうやら二人は双子みたいだ。だがこの瞬間、それらの特徴を踏まえた上で俺の心をもっともかき乱したのは、


「この世界には、メイド服が存在するっていうのか!」


 黒を基調としたエプロンドレスに、頭の上に乗せたホワイトプリム。メイド服としてオーソドックスなクラシックスタイルに身を包む、双子の美少女。


 ――これぞ、メイド理想といえる。


「大変ですわ。今、彼の頭の中で卑猥な辱めを受けています、姉様が」


 どうやら、俺の頭の中が読めるみたいだ。そして俺は超悪役か。


「時に貴様? この匂いはなんですか……」

「お? 気になるか? カツカレーという食べ物だ」

「カツカレーですか……」


 そこでは鬼族は感情を緩めて、感慨深げに大きく深呼吸をした。


「良い香りです」


 そして、グ――っと鬼族の二人のお腹の鳴る音が周囲に響いた。

 二人は恥ずかしがる。


「まあ、とりあえず飯にするか?」


 皿にごはんとカレーをよそって、上にカツを乗せてやる。


「うわーーーー」


 鬼族の二人は目を大きく見開いて、口から出ている涎をふく。


「食べてもいいぞ」

「本当ですかっ!! 磔にして動きを封じてあんなことやこんなことを要求してきませんか?」

「もしするのでしたら、ミオをご自由にどうぞ!!」

「いえいえ、姉様をご自由にどうぞ!!」

「そんなことするか!!」


 この姉妹、お互い売るとか、本当に姉妹なのか?

 二人はスプーンを手に取りカレーを口に運ぶ。


「うっっっっ、うまい!! めっちゃ美味いなっ」


 ニコニコ笑顔で紫色の髪のミナは俺の肩をバンバンと叩いてくる。


「まさか、ご主人様がこんなうまいものを作れるなんてっ! なんで先にそれを言わなかったのですか? 危うく変態者扱いになるところでです!」


 態度が激変だな。

 呼び方も貴様からご主人様に変わってるし……。


 こいつらにカツカレーを食べさせなかったら、俺は変態者になってたのか。


「美味いか?」

「はい。――今私の大好物になりました!」


 まあ、カレーはどこの世界でも大正義だろうな。

 しかし、どうして俺の周囲って餌付けがきく連中ばっかりなんだ。

 やれやれとばかりに俺は深くため息をついた。


 その日の夕方―。


「ご主人様!にお願いがあります」

「なんだ?」

「私たちをここのメイドとして雇ってください」

「へっ?」

「私たちは帰る家も戻る場所もありません。どうかお願い致します。あなた様の身の回りのお世話などなんでも致します」


 二人は真剣な眼差しで俺を見つめてくる。


 どんな事でも?


 よくみると、大きな瞳にプルっとした唇。弾力のある胸を近づけられて俺の妄想は膨らむ。


 いや、いかんいかん。と俺は頭を左右に振る。


「お願いします」


 二人は先程とは全然違う態度で必死にいう。

 ここを追い出されたら行くところがないのだろう。


 ふぅ、俺と一緒って事か。仕方ない。


「わかった! いいだろう」


 俺が承諾すると二人は満面の笑みになった。


「俺はツキシマ・ミツボシだ。よろしくな」


 こうして仲間がまた増えた。

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