黄金の牢獄に囚われて
俺たちは帰路途中でルリアという村に着いた。
「寂れた村ですわね」
「誰もいませんねー、まだ寝てるんですかね」
この時間で寝ているのはお前くらいだろ。
だが、確かに昼過ぎくらいだと言うのに、外に誰も人がいない。
無人の村とかじゃないよな?
「どうか、この村を助けて頂けないでしょうか?」
うわぁ! 突如眼前に白ひげが特徴的の老人が現れた。
「僕はただの料理人ですが……」
「………そうですか」
落ち込む村の村長。
「俺はミツボシと言います。この村はどうしたんですか? 人が見当たりませんが……よろしければ話を聞かせて頂けないですか?」
村長は少し戸惑って回答した。
「ありがとうございます。お話は私の家の方で。 どうぞこちらへ」
家の中に座るとお茶を出してくれて、お茶を飲みながら室内を見回した。
高価なものはまったく置かれていない。苦労して生活しているみたいだな。
「それで村長。何があったのですか?」
しばらくして、村長のジークが口を開いた。
「はい。実は、突如この村にウロボロス教団という盗賊が現れ女を人質に男を鉱山へ連れて行ったのです」
「それはなぜですか?」
「はい、この村は最近レアメタルという貴重な鉱石が発掘されたのです。それが貴重な資源らしく、市場で一キロ百万円で売れるのです。その噂を聞きつけたウロボロス教団が我々の村に目をつけ、鉱石をすべて持っていこうとしているのです」
一キロ百万円!! そりゃ、すごいな。
「で、そのウロボロス教団とやらはどこにいるのですか?」
「この近くの洞窟をアジトとして住み着いております。ただ気を付けてください。奴らの護衛に異世界の勇者となるものが付いているという噂があります」
「異世界の勇者?」
「はい。名前は確か……、レンとか言った若い男だとか」
レンぉぉぉぉぉぉ!!
お前、クソ野郎だとは思っていたが悪にまで手を染める奴だったとは。
「女を人質にして男に強制労働させるなんて……そんなの、勇者のやることじゃない……!」
そう言ったのは、植物族の少女マリアベルだった。
彼女の緑の瞳は怒りに震え、絡んだ蔓が硬く絞りあげるように揺れていた。
「助けに行こう、ミツボシ様……あたし、絶対に許せない!」
「もちろんだ。弱き者を搾取するような“英雄”を、俺は認めない」
そして俺たちは、鉱山へ向かう決意を固めた。
だが、そこに待ち受けていたのは、ただの鉱山ではなかった。奴隷たちが叫び声も上げられないほど酷使され、地底深くには「呪われた黄金」が眠っていたのだ。
* * *
黄昏が山々の稜線を染める頃、俺たちはルリア村の裏手にある古い坑道跡へ着いた。
「ミツボシ様、乗り込むです」
「そうですわ、早くボコボコにして皆殺しにしましょう」
おいおい、お前ら殺す気でいるんですか。相手は人間なのでほどほどに頼みますよ。
俺たちは警戒しながら洞窟内をゆっくり進む。
「空気が……重い。まるで命が吸い込まれてるみたい」
マリアベルが小さくつぶやいた。
坑道にはかすかな瘴気が漂っていた。魔物ではない、もっと人の怨念めいたもの。重く、苦しく、心を蝕むような気配。
「これが……レンが作った“牢獄”か」
しばらく進んでいくと、複数の明かりが見えた。
坑道の奥には、薄汚れた男たちのうめき声と、鉄を叩くような音が響いていた。
――ガン、ガン、ガンッ。
俺たちがそっと覗いたその先には、村の男たちが無表情のままツルハシを振るっていた。
顔はやせ細り、目は虚ろ。それでも彼らは、やめることも、逃げることもできない状況だった。
「水が……水が足りねえ……」
「もう……もう限界だ……」
男の一人が倒れ込む。
「おい、お前、休むんじゃない」
騎士団の一人がムチで倒れた男を叩く。
ひ、酷い。
そしてその奥――監視台に立つ黒衣の男。鉄仮面をかぶり、銀の槍を携えたその姿。
その背中を見て、俺は確信した。
「あれが、レンか……」
「む…、オッさんじゃん? ひっさびさじゃねー」
俺は奥歯でギリっと歯ぎしりした。
「オッさん、生きてたんだ」
「お前、帝都のどっかで訓練を受けてるんじゃなかったか?」
「ああーそれな、とにかく訓練がキツくてさ。追い込まれて血のションベンを出した奴までいてよー、流石にヤベェと思ってBランク位まで強くなったら途中でバックれて逃げちまったぜ。努力って言葉大っ嫌いだからな。そこそこ強くなったし、まぁいいかなって思ってよ」
コイツ、元々クズだと思っていたがクズ中のクズだな。
「んで、その後街に出たんだが逃亡者扱いになっててよ。ギルドも誰も雇ってくれなくてよ。そこでウロボロス教団の存在を知ったんだよ」
「ウロボロス教団?」
「まぁ、ざっくり言うと犯罪者集団の集まりだな。そこで違法薬物やら人体実験をやっててよ。俺を高い金で雇ってくれるって言うから、その教団のメンバーに入ったわけよ」
ウロボロス教団。犯罪者集団の集まり。
確かウィンリーのエルフ国も襲われたとか言ってたな。
自分たちの利益のためなら殺人やら奴隷やらなんでもありの集団か。
「オッさんにいいこと教えてやるよ」
ヒョイヒョイっとレンは近くにいた男を呼び寄せると強烈な蹴りを入れた。
「かはっぁ!!」
男はゲホゲホと咳込みその場に倒れ込む。
その後もレンはその男に蹴りを入れまくる。
「ははは、オモシレーだろ。この世界は金と力が正義なんだよ! どんなに蹴ろうが殴ろうが。なにがあっても逆らわねー。俺のためにもっと働いて貰わないとなー」
こいつはクズ中のクズとかじゃねー。
コイツは鬼畜だ。
人間じゃねー。俺ははじめて人間を殺したいと思った。
「ところでオッさん。そこの超絶美人は誰だ?」
「イリーナと申します。ミツボシ様に雇ってもらっております」
「お姉さんよぉ、どんな弱みを握られてるのか知らんが、そのオッさんはダメだ。顔も見た目もオッさん、オマケに料理スキルしか持ってねぇ。ハッキリ言ってカス中のカスだ」
「選ぶなら絶対的な勇者で若くてイケメンの方がいいだろ、なっ?」
おーおー、言ってくれるね。この鬼畜は。
俺の料理スキルでお前をみじん切りの細切れにしてカラっと揚げてやろうか。
「ミツボシ様、この人殺してもいいでしょーか?」
「えっ? いや、いくら鬼畜でも殺しはまずいだろ」
「仰せのままに」
「なぁ、こんなオッさんより絶対俺の方がいいよ。一緒に暮らそうぜ」
ブチギレ寸前のイリーナ。
「レン、お前のしてることはただの搾取と支配だ! 勇者でもなんでもない」
「オッさんよぉ、そんな正義なことなんてこの世界にはないぜ」
あきれ顔で語るレン。
「誰かの犠牲の上に立つ正義なんて、認めない。ましてや、俺を追放してまで成し遂げた“英雄ごっこ”に、意味なんてあるか!」
レンのこめかみに太い血管が現れる。
「じゃ、その正義。証明してみせろよ」
彼は槍を構えた。
次の瞬間――
「囚人たちに警戒を! 外敵侵入!」
金属の咆哮が坑道中に響きわたった。
「ミツボシ様、来ます!」
ウィンリーの叫びとともに、坑道の両側から武装した衛兵たちが現れた。
重装備に身を包み、目は血走り、まるで正気ではない。
「奴隷共が反抗を企てていると聞いた。処分せよとの命令だ!」
「くっ……!」
俺は即座に前へ出て、包丁――で敵の斧を受け止める。
料理人としては場違いな戦いかもしれないが、守るためなら、振るうことも辞さない。
「マリアベル、援護を!」
「うん……“蔓よ、絡め取れ《ヴィネ・グリッサンド》!”」
植物族の少女・マリアベルが両手を広げた瞬間、足元の地面から無数のツタが伸び、衛兵たちの足に絡みつく。硬くしなやかな茎が一斉に巻きつき、動きを封じた。
「な……動けねぇ!」
「この子たちは、地下でも眠ってたの。瘴気に汚された大地の中でも、ずっと……人の悲鳴に耳をすましてた」
マリアベルの瞳に、怒りと哀しみが宿る。
「こんなところに、種を蒔かせない……! 人の涙が流れる土に、芽は育たないからっ!」
その言葉に、坑道の奥で作業していた男たちの手が止まる。彼らの目に、微かな光が宿った。
「……ここから逃げる気力なんて、もうなかった。でも……」
「でも、まだ……俺たち、生きてていいんだな」
一人、また一人と、ツルハシを手に立ち上がる。
「反乱だ! 奴隷たちが暴れている!」
「怯むな! すべて処分しろ!」
怒号が飛び交うなか、俺たちは一気に攻勢に出た。
「ウィンリー! 光弾で照らせ!」
「《サンクティ・スパークル》!」
ウィンリーが詠唱し、光の弾が坑道を照らす。光の奔流が宙を舞い、衛兵たちの目をくらませた。
「行け、今だ!」
俺は男たちに叫ぶ。
「お前たちの家族が待ってる! 希望を捨てるな!」
彼らは頷き、長く重かった足を動かし始めた。地の底に響く足音は、まるで希望の鼓動のようだった。
そのとき、坑道の奥から、また別の声が響いた。
「“助ける”? それは弱者の妄言だぜ。守ってどうなる?」
仮面の男──レンが、槍を手に歩み出てきた。
「アンタには、まだ“本当の世界”が見えていないぜ」
「そうかもな。でも俺には、お前の後ろにいる人たちの苦しみが見える」
俺は一歩前に出た。
「この鉱山は、料理で変える。飢えた人の腹を満たし、疲れた心に力を与える。お前のやり方よりも、ずっと強いってこと、証明してやるよ」
レンは静かに槍を構えた。
「そこまで言うなら証明してみろよぉぉぉ、お前の“料理”が、俺の“信念”を砕けるならな」
レンの槍と俺の包丁が攻防を繰り広げる。
坑道にはまだ瘴気の残り香が漂っている。だが、仲間たちが少しずつ瘴気の結晶を破壊し、空気を変え始めていた。
マリアベルが土に語りかけ、植物の浄化が進んでいる。仲間たちは戦っている。だから俺も、逃げるわけにはいかない。
「レン……お前が奴隷にした人たちの顔、見たか?」
「希望を失った無様な連中だぜ」
「違う。希望を取り戻した、“人間”たちだ」
俺は足元の土を掬い、手のひらに乗せた。
「この土はまだ、生きてる。汚れても、踏みにじられても、ちゃんと育つんだ。──料理人なら、知ってるさ。命は繋がってるってことを!」
「綺麗ごとだッ!」
レンの槍が獣のように鋭く突き出された。だが、俺は一歩踏み込んで斜めに包丁を振るう。
「ぐっ……!」
血がほとばしる。だが、レンは倒れない。彼の目がギラリと光った。
「仕方ねぇ、力で黙らせるしかないようだな……《黒槍・終焉穿ち(アビス・スピア)》!」
レンの周囲に黒い瘴気が渦巻き、巨大な漆黒の槍が形作られる。その気配だけで、坑道の岩が悲鳴を上げるように軋んだ。
「ッ──ミツボシ様、下がってください!」
ウィンリーの声と同時に、俺の背後にマリアベルが手をかざす。
「“光あれ……《ソレイル・ハーベスト》!”」
金色の蔓が天井から伸び、瘴気を引き裂きながら降り注ぐ。天井から差し込んだわずかな光が、植物の葉を反射し坑道を照らした。
レンの漆黒の槍が、光を嫌うように揺れる。
「クソぉぉぉ、こんなオッさんごときにやられるなんて」
レンは槍を地に突き立てた。
イリーナが近づいていく。
「ミツボシ様を侮辱したのはこの口ですか?」
バシィィィン!
イリーナの怒りはおさまってはないらしい。
往復ビンタがレンの顔に入る。
「地獄の業火に焼かれるべきはこの口ですか?」
「やべ、もうやべて………ぐべら」
顔が腫れあがり自称イケメンの顔が台無しだな。
「イリーナ、そこらでやめておけ」
「かしこまりました」
グェッ
「主に感謝するのですね。本当なら殺してましたから」
レンの返答がない。もう気絶していて言葉がでないみたいだ。
「よし後の連中は縄で縛って男たちを連れて村に戻ろう」
残りの残党も縄で縛って、俺たちは村に戻った。
──それから数時間後。
地上に戻った俺たちは、村の広場でささやかな宴を開いていた。
奴隷にされていた村人たちと、仲間たち。笑い声と、湯気の立ちのぼる食卓。
「今日の炊き込みご飯は、坑道で取れた《燻銀茸》と、マリアベルが育てた“野菜”入りだ!」
「うおおお、香りだけでごはん三杯いけるっ!」
「……この味、忘れないよ。俺たちが、もう“奴隷”じゃないって思える味だ」
人々の目に、涙がにじむ。
「ミツボシ殿……ありがとう」
皆俺を見つめ感謝する。
なんだか照れくさい。
ウロボロス教団──これから奴らとの戦いは続くだろうか?
でも今夜だけは、この一杯のごはんで、笑い合っていよう。
料理で人を救う。それが俺の戦い方なんだから。
* * *
「ミツボシ様、お疲れ様です。依頼達成の報告は受けております」
情報が早いな。
さすが世界中に情報網があるギルドだ。
「今回は『緊急依頼:レッドホーンの暴走』に加え、『リュミエール村の救出』、『逃亡していた元勇者レンの捕獲』を達成して頂きましたので、その功績として、金貨二百五十枚、ランクを三つアップさせて頂きます」
よっしゃ!一気にランクCランクになったぞ。
「では、カードを出して頂けますか?」
ミレイユに言われた通りカードを出すとなにやら詠唱を始める。そして紫色に光だし、ランクの記号が変化していく。
「はい、これで完了です」
俺はカードをみるとFランクからCランクに変化した。
俺はありがとうとお礼を伝え、ギルドを退出しようとした時、ギルドマスターが話しかけてきた。
「ミツビシ殿、折り入って頼みたい案件があるのですが………」
「なんですか?」
「ここではあれなんで、私の部屋で話をしよう」
俺はロッドの後を付ついていった。




