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6 ソファVSベッド 男たちの譲れない戦い!

「あの…、手…」

「手?」

 ――いや、絶対に分かっててやってるだろ!

 俺の言葉にニヤニヤと見てくるファイブに叫びそうになるが、グッと堪えた。俺の腰にはファイブの大きな手が掴んでいる。

 この人は第五王子…オリーブさまの大切な方だ…失礼のないように…穏便に切り抜けなければ…。

 しかし、考えてもいい考えが出てこない。

 俺はどちらかというと剣術に頼り、頭脳戦は得意な方ではない。転生前もゲームではパワーで押すタイプだった。

 ――って、そうじゃなくて!

「クソ…、アイツに聞いとけばよかった…」

 アイツ――妹ならこういう時の対処方法を知っているかもしれない。

「アイツ?」

 なんとかしようと考えを巡らせていたら、考えていた事がつい声が出てしまったらしい。訝しげにファイブがこちらを見ている。

 一気にピリッ、とした冷たい空気になり俺は身体を固まらせる。

「アイツって誰だ?」

 ファイブに目を細められ、俺はまるで蛇に睨まれた蛙のようになった。――怖いと思った。

 しばらく経ってから俺ははっとして、言葉を返す。顔は逸らし、ファイブの目は合わせられなかった。

「いや、何でもない!」

「何でもなくはないだろ」

 俺は何とか逃げ出そうとして身体を動かすが、逆にファイブに追い詰められた。さらに顔の距離が縮まり、そういった事に縁がない俺はどうしていいか分からない。目を右往左往させていると、ファイブの赤い目に射貫かれる。

「逃げるな」

「――」

 手をまるで恋人のように指を絡められ、俺はファイブの言葉の通りに逃げられなくなる。

 ここで誤魔化すとのちのち大変な事になる――。

 俺は本能的にそう感じて唾を飲む。

「妹が居たんだ…。そいつを思い出しただけ…だから」

「――!」

 俺の言葉に息を飲み、ファイブは絡めていた指を離した。

 そして腰を抱かれていた左手も外された。身体を起こしたファイブは俺を見て深い息を吐く。

「そうか。妹か。…」

 俺を見てどこか哀しそうにするファイブに『ん?』と思う。

「思い出させてしまったな…」

 そして頭を撫でられ、俺は困惑する。俺は両親から子供の頃にされた時を思い出し、身体を静止させた。

 ――えーと、これは…?

『完全に勘違いさせてますね! 妹が死んでしまったと思われてます!!』

 セーブたんの言葉に俺はやっと気づく。

 確かに俺は天涯孤独の身だ。しかしそれはこの世界だけの事で、今の俺には妹なんていない。居たのは前世の話だ。だが、ここでそれを説明いいのか判断がつかなかった。

『滅茶苦茶イイ感じのラッキースケベ展開だったのに、今凄くしんみりした感じになってます! 誤解を解くのです! そして朝チュン――』

「だ・ま・れ…!」

『ぎゃああ! ぼーりょくはんたい!』

 また好き勝手に言っているセーブたんを小声で文句を言いつつ握りつぶす。

 コイツ、恋愛脳すぎるだろ…!!

「えーと、あまり気にしないでくれ! 俺はもう大丈夫だから」

 なるべく何て事はないように俺は振舞った。

「…そうか」

 申し訳なさそうにするファイブに罪悪感を抱く。

 ――何だかこの件については、説明すればするほど誤解を生む気がする!

 セーブたんの言う通り、かなりしんみりとした空気になってしまった。俺は何とか話題を変えようと、ベッドを見て必死に言った。

「取り敢えず寝るか?! 俺はソファで寝るから! ファイブはこのピカピカのベッドに寝てくれ!」

 言いながら俺はパニックになっていた。

 そのままソファに向かおうとしたが、ファイブに肩を掴まれる。

「お前はベッドで寝ろ。俺がソファで寝るから」

「なるほど…ファイブがソファで…。って、何で?! 貴方は王子ですよ! ソファで寝るなんて…!」

 ファイブの顔は真剣で、冗談を言ってるように見えなかった。しかし、それは俺が納得出来る材料にはならなかった。

「…アレク、お前疲れてるだろ。さっきもフラフラだったし、護衛なんて初めてだったんじゃないか? ずっと俺を守るために気を張ってただろう。ソファで寝ても疲れが取れるわけがない」

 ファイブに言われて、俺は驚いた。

「そ、それは…」

 ――図星だった。

 こうして1対1で護衛というものを俺は初めてした。しかも王族という、高貴な立場の人を護衛することなど今まで無かった。失敗しないように、ファイブが危険な目に合わないように――俺は確かにずっと気を張っていた。だが、そんな事は騎士としては当たり前の業務だ。

 ここでファイブに折れるわけにはいかない。

「俺は平気だ。これでも体力には自信があるし…」

「さっきまでフラフラだっただろ。ソファで眠って疲れが取れなくて、上手く護衛が出来ませんでした。俺の事を守れませんでした。女王の任務を達成出来ませんでした。

 ――それは、ソーシード騎士として尤も恥ずべき行為じゃないのか?」

「ッ」

 ――その通りだ。

 騎士として主に与えられた仕事を満足に出来ない事が…どれだけしてはいけない事か――俺は良く知っている。

 そんな事は分かってはいるが、王子であるファイブをソファで寝させることは出来ない。

「だが…、」

「お前は頑固だな。流石はソーシード騎士のナンバー2か」

 ファイブにくくっと笑われて、俺は頬が火照るのを感じる。

「じゃあ――」

 その後ファイブに提案された事に仰天しつつも、俺は――結局それを受け入れるしかなかった。




『もっとくっ付いたらどうです? そんな端っこに居たら落ちちゃいますよ~~』

 俺を囃し立てるイケボを無視しつつ、俺はベッドの端に寄り縮こまる。

 俺とファイブは一緒のベッドに寝ることになった。かなりの押し問答の末、ファイブに言いくるめられた。

『貴方、すっごく寝相悪いじゃないですか! 私の事も蹴とばしてきて! 落ちても知らないですよ!』

「…」

 ――コイツに悪いことしてたな…。

 そう思いつつ、俺はかなり距離があるファイブを一瞥する。ファイブは天井を見詰めている。

『別に取っては食わない』

 そうベッドに入る際にファイブに言われたが。安心して身体を休めろ、とは言われたが。

 ――それでも、やはり緊張する。

 そもそもこうやって他人と同じベッドに寝ることは初めてだ。同室のシャープとは違うベッドだし、寝る時はこんな近い距離にいない。

「お前、そんなんじゃ落ちるだろ」

 ファイブにも言われてしまった。俺はさらに縮こまって口を動かす。

「気にしないでくれ。いつもこうやって寝てるんだ」

『え…? いつも大の字で腹出して寝てますよね…』

「嘘だろ、そんなの」

「――!」

 セーブたんの言葉にも、ファイブの言葉にも驚愕する。じわじわと恥ずかしさが顔に熱として集まってくる。

 俺の嘘はこうもバレやすいものなのだろうか? というか、腹って…そんなはずは…!

 悶々としてると、ファイブがもぞもぞと動いた。

「まぁいい。早く寝ろ。明日も俺を守ってくれ」

「…あぁ」

 俺は頷いた。しかし寝ようとすると、つい考え事をしてしまう。ふと気になったことがあり、俺は口を開いた。

「…アッシュ王国に何しに行くんだ?」

 俺はただオリーブ女王に護衛を頼まれただけで、どうしてファイブがアッシュ王国に行くのか理由は聞いていない。俺の言葉に、ギシ…とベッドが鳴った。ファイブが動いたのだろう。段々とファイブが近づく気配がして、俺は鼓動が早くなるのを感じた。

 ――もしかして、聞いてはいけない事だった?!

 俺は焦り、身体を硬直させる。

 ファイブの小さく笑う声が聞こえた。そしてファイブはそのまま俺の顔を覗き込んだ。

「魔女に会いに行く」

 ――目が合ったファイブはまるで魔女のように不敵に笑っていた。



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