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不運な俺は異世界に行っても不運な様です  作者: 試験管
シェッテ王国騒乱
280/281

250 事前調査 3


 第一回情報共有会議が始まる。

 集まったのはゴットフリート様とベンヤミンさん、そして領所属の騎士達が六名、アルスフィアットの影と呼ばれる暗部から一人、情報屋から三名、飛竜の槍(ウチ)から五名だ。

 オーランド、ヤンスさん、レオンさん、グレーテさん、そして俺。

 ぶっちゃけ俺は地位的にこの場に相応しくない。

 でもこの問題には一番関わっているのは俺だ。

 孤児が増え続け、苦しみ悲しむ子供達が増えるのなんて見たくないし、許したくない。

 なので、誰よりも強い意思を持ってここに立っている。

 ぶっちゃけそうでも思わないと、分不相応だと足がガクガク震えてしまう。


「まずは軽く自己紹介から進めましょう」


 ベンヤミンさんの司会進行で一人ずつ所属と名前を言っていく事になった。

 とはいえ学生の新学期というわけではないので、代表者が自分の所属メンバーの名前を紹介していくスタイルである。

 領主代行のゴットフリート様と執事のベンヤミンさんは皆が知っているのでサラリと流す。

 今回のトップであるとだけ説明された。

 ちゃんと事情や経過報告は帝都にいる領主のヘルフリート様 (クラーラ様のお父さんでゴットフリート様のお兄さん)にされるらしいが、今回の最高指揮権はゴットフリート様にある。

 また、この件は機密情報の為、俺たちからはクラーラ様にも流してはならないと付け加えられた。


「では次はダーフィリート様からお願い致します」

「アルスフィアット領騎士団団長のダーフィリートだ」


 ダーフィリート様はゴットフリート様の従兄弟にあたる方で、勿論お貴族様だった。

 騎士爵という領地などはなく、貴族の子が貴族でいる為の爵位などと揶揄される形式上の爵位らしい。

 勿論権力など無いに等しい。

 まあ平民がこれを騎士爵本人に一言でも言ってしまえば不敬罪で首チョンパであるので、絶対に口に出してはならない。

 爵位的に言えば俺達の“準貴族”のすぐ上、貴族の中の最下位といったところだ。


 ダーフィリート様は、騎士団長という立場上この問題だけに囚われるわけにはいかない。

 その為、中隊長のチェーザリオ様がこの件で主戦力として動かれるそうだ。

 波打つミルクティー色の髪と、青い瞳は少女漫画にでも出てきそうな程に甘い。

 しかし、身体はしっかり鍛え上げられていて、肩幅もある。

 パウルさんやイェルンさんみたいなマッチョとはまた違う、均整のとれた体つきというやつだろうか?


「チェーザリオだ。これからよろしく頼む」


 居丈高にならないが、高貴な雰囲気の挨拶をされてぺこりと頭を下げて返す。

 その後ダーフィリート様からチェーザリオ様が引き継ぎ、他のメンバーを紹介してくれた。

 チェーザリオ様率いる三個小隊がこちらの専任となるらしく、その小隊長三人だ。

 それぞれツァーベル、ディーター、ドミニク、で叩き上げの平民騎士だそうだ。

 それぞれ名を呼ばれるとぺこりと頭を下げてこちらを見ている。

 真面目そうな人ばかりで安心した。

 物語とかだとここにいる人が俺達を死ぬ程嫌っていて「ハンターの力を借りるなどと!私達だけで充分です!」とか言って問題を起こしまくるんだよね。

 俺の勝手なイメージだけど。


「そして最後に彼がナータン、治癒魔術師だ」


 そうして最後の一人と紹介されたのはこのアルスフィアット一の治療の腕を持つ治癒魔術師だった。

 彼は元は教会出身の神官だったが、身を立てる為に転職し、騎士団に入ったそうだ。

 見た目はプロレスラーかな?と思うくらいにゴツくて、頭は見事に剃り上がっている。

 顎も割れていて、なんか一人だけ世界観が違う様に見えるのは気のせい?


「ナータンと申します。帝都のオーク殲滅戦にて活躍された“小さな聖女ちゃん”様に会えましたこと、光栄であります。本当にお小さく可愛らしいお嬢さんだったのですね」

「ふぇっ!?」


 俺をキラキラとした目で見つめてくるナータンに背筋がぞわりとする。

 コイツ俺とデイジーを間違えてる?


「ナータン殿、()()は別人です。小さな聖女ちゃんと呼ばれるのはうちのデイジーです」


 フハッと苦笑をこぼしながらオーランドがフォローしてくれるが、ナータンは不思議そうな顔をする。


「おや?人違いでしたか?私が聞きましたのは“戦場を駆け回りながら回復を飛ばしてくれる小柄な黒髪の少年”との事でしたが……」


 混じってる混じってる!

 小首をかしげるその姿は全く毒気が無いにも関わらず視線だけは俺から外れない。

 ゾワゾワゾワっと嫌な感じが下から上に駆け上る。

 全身に鳥肌が立っていく。

 なんだコレ!


「それは情報が混ざってますね。丁度良い、コチラも自己紹介させていただいても?」

「ああ、良いだろう。ナータン、口を(つぐみ)なさい」

「はっ。失礼いたしました」


 ナータンの勘違いに気付いたオーランドは肩を震わせて笑い出し、代わりにヤンスさんがびっくりするくらい綺麗な笑みで貴族の様な受け答えをしていた。

 その言葉を受けてダーフィリート様がナータンを嗜める。

 ありがとうございますと軽く頭を下げて、プルプルと震えているオーランドに肘打ちするヤンスさん。

 ドスの効いた小声で「ちゃんとしろ」と言っていて、俺も背筋を伸ばす。


「し、失礼……いたし、ました……」


 少し笑いを引きずっているオーランドが自らの非礼を詫び立ち上がる。


「わたしはクラン『飛竜の槍』のクランマスター、オーランドと申します。ハンターパーティは『飛竜の庇護』コチラの二人がパーティメンバーの斥候のヤンスとポーターのキリトです」


 俺とヤンスさんは自分の名前が出たところで軽く頭を下げる。

 レオンさんとグレーテさんを紹介したオーランドは、今回俺達がこの討伐隊に参加することになった経緯を説明した。

 俺が孤児を保護した事、教会の孤児院の不正、情報屋からもたらされた犯罪組織の情報、その全てに関わった俺をクランとして支持し、犯罪組織の討伐を請け負った事。

 殆どは騎士団のメンバーへの説明だった。


「微力ながらみなさんのお力になれればと思っております」


 爽やかでいて力強く、誠実。

 そんなオーランドの言葉だから相手に気持ちが伝わる。

 ダーフィリート様も微笑みを湛えて頷いていた。

 その後、影の人と情報屋の人達も自己紹介をしたが、皆覆面をして顔出しNGで、名前も偽名丸出しだった。

 ヘッダさんは最初こそチラリと俺に目配せしたが、そのあとはいかにも初対面でござい、といった雰囲気でしかも名前は“アー”と名乗っていた。

 その後の二人が“ベー”と“ツェー”でABC(アーベーツェー)になっていて誰が聞いても偽名だとすぐに分かる。

 まあ、影の人も「シャッテン()と呼んでください」とか言っててどっこいどっこいなんだけどね。


 そんな感じで自己紹介は終わり、情報を集める前の擦り合わせに入った。

 既にわかっている事としてはハンターや旅人、隣国へ引っ越す者、旅商人などこの街に縁の無い者で、そこそこ金を持っている人物を狙うアウトローな組織がある事。

 その組織は隣の国から来ているらしく、一月に一、二度程荒稼ぎしては去っていく事。

 女子供を不正に奴隷にするツテは無さそうな事。

 旦那を暴行した後、金目の物だけ奪って人は放置していく事の四点である。


「この事以外に詳しい情報を手に入れた者は挙手を」


 ベンヤミンさんの声に影と情報屋から手が上がる。

 それぞれに手に入れた情報を開示し、以下の事が共有された。


 元凶の犯罪組織がねぐらにしているのはフォーグレノスッテ、シェッテ王国の端、エーアスト帝国との境にある街らしい。

 情報屋の人が後をつけて手に入れた情報だ。

 街に着いたところで撒かれてしまい、拠点までは突き止められなかったそうなのだが、何度かその街で張って確認した為、その街に拠点を置いている事は間違い無いそうだ。


「シェッテ王国……?」

「シェッテ王国は国土のほとんどが半島の小国で、フォーグレノスッテはその更に端、エーアスト帝国と隣接する海の街だ」


 ポロリと口から溢れた言葉にヘッダさんがシェッテ王国の説明をしてくれる。

 陸側はほとんど農地に使い、塩害に強い作物を育てているが、収入は海の恵み頼り。

 製塩は国の事業で、平民にはその利益は還元されていないそうだ。

 小麦などを購入に頼っている為、国内のお金が外に流れやすく、塩を売っているというのに貧乏な国なのだそう。


「潮風のせいで作物が育ちにくく、海軍と海賊、そして漁業で成り立っている」

「海賊が主産業なんですか?!」

「ああ。だが多分君が想像している海賊とは少し違うと思うぞ」


 驚く俺に今度はチェーザリオ様が優しく説明してくれる。

 海賊と聞くと「オレはなる!」ってセリフが出てくるけど、勿論それとは別物である。

 シェッテ王国の海賊とは、強奪でお金を稼ぐ賊、というばかりでは無く、海軍ではない自治組織や戦闘能力を持つ船持ちの事を総称してそう呼んでいるらしい。


「なんかヴァイキングみたいだな……?」

「ゔぁ……?」

「いえ、なんでもありません。ご説明ありがとうございます」


 お礼を言って話を進めてもらう。

 こちらの知識がない為いちいち話の腰を折ってしまうので心苦しいが、こればっかりは如何ともし難い。

 帝都にいるうちに図書館とかで調べておけばよかったな。

 まあ、図書館の場所すら知らないんだけどね。

 俺、まだまだ知らないことばっかりだな。

 自分の至らなさ加減にしょんぼりしていたらヘッダさんが爆弾を投下した。


「犯罪組織の首魁はアルスフィアット出身の元貴族かもしれません」

「「「何だと?!」」」


 ガタッ!

 大きな音を立てて立ち上がる貴族の面々。

 恐ろしい形相で睨む貴族達にヘッダさんは事も無気に一つの家名を告げる。


「ゼクス、という家名はご存知ですよね?」

「「「!!」」」


 ここでちょっとアルスフィアットの成り立ちを説明しよう。

 なんとこのアルスフィアット、意外と最近出来たばかりの領地なんだとか。

 元々この土地(アルスフィアット)はとある不正を行っていた貴族が治めていた土地だった。

 その不正を行っていた貴族というのが先程出てきたゼクス家。

 その不正が明るみになり、事態を重く見た皇家によりお家取り潰しになる。

 ほとんどの親族は処刑され、土地をヴァイツゼッカー家が治める事になったのが一世代前。

 クラーラ様のお祖父様の時代だね。


 アルスフィアットは立地的にも情勢が不安定で、ダンジョンがあってもあまり旨味の少ない土地で、更にハンターなどの流れ者が多く、トラブルは尽きない。

 そんな土地なので誰も管理などしたくないのが実情だったそうだ。

 結果、新進気鋭の騎士爵、初代ヴァイツゼッカー様にお鉢が回ってきた。

 男爵にしてやるからこの問題の土地を治めろ、問題が起こったら処刑な?みたいな感じだったらしい。

 とんでもないその命令を出したのは前皇帝なので、俺の知ってる皇帝の父親だ。

 現皇帝の年齢から考えたらもう鬼籍に入っている方かな?


 今でこそこの街は穏やかではあるが、当初はそりゃもう大変だった模様。

 街中の問題を解決していく間に、領地や農地を周辺の領主に奪われたり、言われなき罪を被せられたりしたらしい。

 それってこないだ通ってきた村の話かな?

 そんな環境の中、ハンター達を取り込む政策を組み立て、無実の証明をし、なんとか「ハンターの街」と呼ばれる程に育て上げたのだそうだ。

 初代ヴァイツゼッカー様すっご。

 そんな有能だったから任せてもらったのかな?

 とはいえ、まだまだ落ち着かないのは教会の管理が出来ていなかったり、横領が横行していたりっていうのを見たらわかるよね。


 おっと、ちょっと話が逸れてしまった。

 とにかく、その時に処刑を免れて国から追い出された女性がいた。

 産まれたばかりの赤子とその乳母である。

 産まれたばかりで殺すのは忍びないと、国外追放に留められたそうだ。

 乳母は追放された赤子をかかえて彼女の親族の元へーーフォーグレノスッテへと向かった。

 おそらくその二人が今回の首謀者ではないかとのこと。

 その逃げ延びた赤子が、お家再興だけではなく、アルスフィアット領自体を狙っているのではないかと推測していた。


 曰く、エーアスト帝国の言葉で話す者が指示している。

 曰く、こちらの貴族家とも繋がりがある様だ。

 曰く、若い女性が海賊の指揮を執っている。

 曰く、襲撃犯がシェッテ王国からも協力を得ているらしい。


 どうやってそれを知ったのかわからないが、影の人も同じ様な情報を得ているところを見れば可能性は高くなる。

 そんな中、俺達といえばさっぱり役立つ情報は持っていなかった。

 なんかごめんなさい。

 帝都では廃油石鹸にかまけてました。

 いつも俺不運を読んでいただきありがとうございます。

 いいね、リアクション、感想、ブックマーク、評価沢山ありがとうございます。

 誤字報告も本当に助かってます。


 火曜日に腰をやりました。

 ぎっくり腰まではいきませんが、きっくりこしくらいには痛いです。

 本業の方でも恐る恐る動きながら働いていました。

 いつかきっとこの痛みを霧斗に味合わせてやろうと息巻いております。←


 ちょこちょこご指定いただいているのでここで言い訳をさせていただきたく…。

 ↓↓↓↓↓

 “領地からの依頼”に違和感を感じていらっしゃる方が多く、領主からの依頼では?とお言葉を頂きました。

 今回の依頼はゴットフリート様(領主代行)からの依頼で、クラーラ様のお父様ヘルフリート様(本来の領主)からの依頼では無いのです。

 領地の為の依頼なので“領主から”ではなく“領地から”を使用していました。

 ただ、わかりづらいみたいなので“領主から”に変更しています。

 漏れがありましたらお手数ですが誤字報告でご協力頂けると助かります。


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― 新着の感想 ―
これは下手を打つと国家間紛争になりかねない案件 被害者を救出しコレ以上の被害を出さないために早期の解決が必須ですが、国が関与していないか等を慎重に調べて有無を言わさず征圧する作戦が必要ですね
・そんな中、俺達といえばさっぱり役立つ情報は持っていなかった。 ・なんかごめんなさい。 〈鑑定〉が役立ちませんか。 アルスフィアットの要所に内通者が居そうな気がしますので(アルスフィアットの旧家・有…
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