249 事前調査 2
キリが悪く少し長くなってしまいました。
先触れを出していた事もあり、領主邸の門番に依頼を受けに来たと声を掛ければ、クランマークを確認するとすぐに通してくれた。
この早さは兵士からの報告もあったんだろう。
アルスフィアット滞在中の馬車は領主邸で預かってくれるらしく、水や飼い葉も与えてくれるらしい。
今は孤児院に一時的に預けていることを話したら引き取りに向かうと言ってくれた。
取りに戻ったり、孤児院や貸し馬車屋に預かってもらわなくて済むのは有り難い。
孤児院に一筆書いて、よろしくお願いしますと頭を下げておいた。
門まで騎士と文官が出迎えに来てくれていて、待合室まで案内してくれた。
そこで軽く自己紹介や前回の孤児院騒動についてお礼を言われる。
前回拘束された三人の他にも数名捕まったらしく、今は再発防止の仕組みを作っているのだとか。
各部門が擦り合わせや抜けた人員の埋め合わせで忙しいらしく、なんだか少し申し訳ない。
二人は俺達にお茶を出すとしばし待つ様にと言い残して部屋を辞した。
部屋に案内された時点でガッチガチに固まってる『烈風』の四人に、お茶を飲んで少し肩の力を抜く様に話す。
ブルブル震える手でお茶を取り、口に運ぶ。
途端に四人揃ってカップをソーサーに下ろす。
「これ、絶対高い茶葉だ……」
「カップもめちゃくちゃ高いヤツだよね?」
「扱いが丁寧すぎない?」
「むしろ怖い」
リラックスして欲しかったのに逆効果だった様だ。
手だけでなく、全身をガタガタ震え出させた四人に木製のコップと普段から飲んでるハーブティーを渡したら部屋の隅にしゃがみ込んでちびちびと飲みだした。
部屋の隅に固まった『烈風』の面々がボソボソと会話する声が聞こえるが、もうこれは放っておくしか無い。
お貴族様に慣れないうちは大変だよね。
うん、早めに慣れてね。
そんな彼等は置いておいて、この後ゴットフリート様と会った時の挨拶などを皆でおさらいする。
エレオノーレさん監修の元、少し練習をしてみたり、簡単な受け応えの仕方を確認している内に、部屋の扉がノックされた。
「はい」
「失礼します」
現れたのはベンヤミンさんだった。
シワの深くなった顔を見て胸がツキンと痛くなる。
少しだけマチルダさんのことを思い出して痛んだ胸を抑えて、頭を振る。
軽く挨拶を交わし、早速執務室へと案内された。
本当は緊張で吐きそうな四人にはここに待機していてもらおうかとも思ったが「こんなところに置いていかないで!連れてって!」と泣きつかれた為全員一緒である。
ぞろぞろとベンヤミンさんの後をついて行く俺たちに使用人達が目を奪われていた。
なんかごめんね。
「随分早かったな」
「少しでも早く解決したいですからね」
執務室に入ればゴットフリート様が迎え入れてくれた。
彼は驚きの表情を隠してはいない。
貴族は感情を表に出さないと言えど、予想外のことが起これば流石に驚く。
なんと今朝「そろそろ俺たちが帝都を出発した頃だろうな」と二人で話していたのだそう。
ザ・タイムリー。
まあ、普通ならそうだよな。
そろそろ出発する時期だよね。
到着するなんて思わないよね。
オーランドが苦笑しながら応じ、勧められた席に着く。
席に着いたのはオーランドとヤンスさんとグレーテさん。
その他の俺達はオーランドの背後に立っている。
軍隊みたいに足は肩幅、手は軽く拳を握り背に回して腰のあたりに沿える、所謂休めのポーズだ。
『烈風』は俺達の後ろ、二列目で震えながら同じポーズを取っている。
ジャックの背後にいるマックスは一息ついているが、俺やデイジーの背後に立つフーゴは冷や汗をいっぱいにかいていて少し可哀想であった。
そんな俺達全員に視線を巡らせたゴットフリート様はうっすらと微笑んで、オーランドに視線を戻した。
「相変わらず季節は関係ないのだな」
「ウチにはキリトがいますからね」
「成程」
「人を非常識の代名詞みたいに使わないで」
オーランドの言葉にも、それに納得している二人にも全く納得できず、思わず抗議の声を上げると皆が笑い出した。
さっきまで「領主代行とはいえ貴族に会うなんて……!」と度緊張していた『烈風』のメンバーさえ笑っているのだ。
解せん!
そんな多少の雑談の後、依頼内容の擦り合わせを行うが、元々ヤンスさんが取り決めておいてくれた為スムーズに話が進んだ。
報酬や雇用期間、職務範囲など細かく相談していた。
そこで役に立ったのがまさかのグレーテさん。
料理や物作りでは大惨事だったが、流石Bランクハンターを長くやっているだけある。
お貴族様との交渉に慣れていらっしゃる。
ヤンスさんよりも丁寧で腰低く、しかし確かな意思を持って対応し、ガッツリと色んなものをもぎ取っていた。
そのうちの一つがこの犯罪についてのみの“特殊限定捕縛権”だ。
普通は現行犯であろうと捕縛する権利は一般市民には無い。
現行犯の場合のみ、それ以上は被害が広がらぬ様に抑え込み、兵士や騎士が来て引き渡しというのが許されるが、それでも捕縛は彼等にしてもらわないといけない。
縛り上げることは問題では無いが、「こいつが犯罪者です」と勝手に捕まえて牢に入れる事は出来ないのだ。
それがこの一件に関しては可能。
言い掛かりをつけて全く関係ない人間を犯罪者に仕立て上げることもできる為、本来はそうそうもらえる権利ではないと横にいるエレオノーレさんが教えてくれた。
その他にも追加報酬とか追加報酬とか追加報酬とか経費とか経費とか経費とか。
そこまでむしり取るか?ってくらいに相手側に出させる。
しかも、「出してくれませんか?」ではなく「貴族からの依頼なら出すのが当然ですよね?当然出してくれるとは思いますが、出してくれないケチな貴族もいるので念の為確認させてください」っていうちょっと脅しの入ったものであった。
上位ハンター半端ねぇ〜……っ!
そうしてそこそこ話が決まったところでゴットフリート様が大きく咳払いをした。
「ところでキリト殿、クラーラには伝言してくれたのかね?冬だったので仕方ないとは思うが」
ぎらりとした視線に勝手に背筋が伸びる。
クラーラ様が帝都に出ることになった原因である為、お返事を待つゴットフリート様には弱い。
「はいっ。こちらにお返事を預かってきておりますっ!」
【アイテムボックス】からクラーラ様から預かった手紙を取り出してベンヤミンさんに渡す。
それはそこそこの厚みを持った便箋。
薄い桃色の用紙に花が箔押しされて、良い香りのするそれ。
俺は知っている。
あの手紙の中身はほとんどがお店の経営情報だということを。
売り上げの推移や、人気商品、送って欲しい素材や、錬金術師や店頭人員の追加希望等。
つまりは報告書である。
「ク、クラーラ様からのお手紙ですし、私達はこ、この辺でっ退室させていただきましょう?!」
「うむ。そうだな。店舗情報などもあるかもしれんからな。ベンヤミン、部屋に案内してやれ」
「はい。かしこまりました」
俺の言葉に手紙から視線を外さず、ベンヤミンさんに指示を出すゴットフリート様。
姪からの手紙に笑み崩れる己の姿を見せない様に、と思っているんだろうな。
中身を見て愕然とするだろうから一秒でも早くこの場から逃げ出したい。
ベンヤミンさんを急かす様に執務室を出る。
パタリと扉が閉まり、ニコニコと封を切るゴットフリート様の姿が見えなくなった。
足早にその場を離れ、声が聞こえない距離まで来ると、ベンヤミンさんがくるりと振り向いた。
「キリト殿、お手紙はあれだけでしょうか?」
「……はい。一応一枚はお返事を書かれていましたよ」
「ああ……」
クラーラ様の性格を把握しているベンヤミンさんは俺の行動から中身を予想している様で、他の手紙の存在を確認してくる。
しかもクラーラ様のお返事が一枚と聞いてその内容にも察しがついたらしい。
そう。
その中身は時候の挨拶や、沢山手紙が届いたというお礼、身の回りは特に問題無いという程度の当たり障りの無い報告、そして早々に訪れる結びの言葉。
ビジネス文書も真っ青な、味も素っ気も無い義理立てしただけの返事である。
お付きの侍女のエラさんに散々やり直しを食らっていて、「もうこれ以上書かないから!」と拗ねて客室から飛び出して行ってしまったので、比較的まともで長めな物を選んでおいた。
だってゴットフリート様がお返事もらえなくて悲しんでるからこまめにお返事してねってお願いしたのに「めんどくさいですわ」って返ってくるんだよ?
新しいデザインとか、アイディアと引き換えにお手紙を書いてもらった俺、頑張ったと思わない?
結局ペラっとした一枚だけでは見栄えがしないということで、お仕事頑張ってるよ、こんなに成果出てるよ、おじ様にこういう風に助けて欲しいなって内容書いたらどうですか?と提案して、エラさんが書き出した素案を元に清書してもらったのがアレである (遠い目)。
俺達が滞在する場所は離れになる為、ベンヤミンさんに案内されしばし歩く。
中庭には椿や梅に似た花が咲いており、この時期でも花が楽しめる様に手入れされていた。
流石貴族の庭だなぁ。
渡り廊下を通り過ぎ、東の離れに入る。
豪華は豪華なんだけど、どちらかといえば質実剛健な印象を受ける。
強くて硬い素材を貴族が使える様に整えましたって感じ。
装飾は最低限だ。
建物に入り、すぐのエントランス、食堂、大浴場、会議室と案内され、最後に客室だ。
大階段で二階に上がり、隣り合う二つの部屋。
その両サイドにはおそらく側仕え様の部屋も見える。
「さて、こちらが皆さんのお部屋です。こちらを女性、こちらを男性が使用して下さい。何か足りない物がありましたらご遠慮なくお申し付け下さい」
そうベンヤミンさんが口にすれば彼の背後に控えていた男女がスッと前に出て膝を折る。
足りないことがあればこの二人に言えという事だろう。
今回は領地からの依頼の為、宿などには泊まらずアルスフィアットの領主館で歓待される形になる。
普通なら宿を取ってそこの代金を持ってくれるくらいのはずなんだけど、それだけ今回の事を重く見ているのか、俺達を信用してくれているのか……。
(どちらにしても、全力で頑張るだけだよね)
そっとヤル気を高めて部屋の扉を潜った。
室内は思ったよりも狭かった。
狭いと言っても貴族の部屋と考えたらの話である。
平民からしたら十分に広い。
セパレートタイプと呼べば良いのだろうか?
入ってすぐのリビングには大きな暖炉と、ソファ・ローテーブルが並び、ゆったりと過ごせる様になっている。
壁にはいくつもの扉が並び、それぞれトイレ、バスルーム、各種寝室となっている。
部屋は二〜四人部屋で一番広い部屋はキングサイズのベッドが一つだけ置いてある。
多分ここが主人の部屋になるのだろうけど、体格の問題でジャックの部屋となった。
他は二人部屋にオーランドとレオンさん、ヤンスさんと俺が入り、四人部屋に『烈風』という無難な部屋割りである。
それぞれの部屋に荷物を置いてリビングに集まると、そこにはメイドさんが一人立っていた。
「わっ!いつの間に!」
「最初からいただろ」
「え?!」
ヤンスさんが事もなげに言ってこちらを睨む。
うう視線が「テメェまた探索魔法の確認忘れてやがったな?」って言ってるのがわかるよぅ!
にしても気付かなかったな、このメイドさん気配が全然ないよ?
え?メイドの嗜み?
いや、え?
メイドというよりは暗殺者では?
使用人は置き物と思え……いやそうですけどね?
ええ〜?
困惑する俺を放置してメイドさんはこの後の予定を伝えてきた。
「本日はこの後に晩餐会を予定しております。それまではごゆるりとお休みいただき、旅の疲れをお取り下さい。大浴場の方もご用意が出来ております」
にこりと笑顔を見せるメイドさん。
お風呂用品などは浴場にご用意しておりますと付け加える。
お風呂好きのレオンさんがいそいそと着替えを用意し出した。
「また、明日各組織より代表者を募って報告と情報共有を行う様手配致しております」
「了解した」
オーランドにだけそう言うメイドさんに感心してしまう。
そして気づいた。
この時期に急に増えた人員に合わせて晩餐会なんかしたら食材が足りなくなるんじゃないかな?
特に準備なんかもしてなかったはずだよね?
今から色々買い集める予定だったのでは?
俺達に材料を使って末端の人達のご飯が減ったりしたら申し訳ない。
俺はそそそそ、とメイドさんに近寄り小声で話し掛ける。
「あの、少し現金化を行いたくて、食材類を購入いただく事って出来ませんか?」
「……!少々確認して参ります」
貴族の面子を保つ為、こちらが現金化したいと申し出た事を察して、メイドさんはベンヤミンさんに話に行った。
程なくして俺とヤンスさんが別室に呼ばれて料理長とベンヤミンさん相手に沢山の食材を販売した。
料理長の希望する食材を希望するだけ出して、現在購入するならこれくらいっていう適正価格で販売した。
食材と量はすぐに決まったものの、価格設定に予想外に時間が掛かったのだ。
こちらが急に押しかけてお世話になるのだから出来るだけ安く販売したい俺と、時期的にこの量を用意するのはお金があっても難しいのだから高額販売一択なヤンスさんで揉めた。
結果、間を取ってこの時期に購入する定価での販売となる。
仕方ないので“お土産”と称して季節外のフルーツを渡した。
料理長には美味しいデザートを期待してると伝えてみたが、言い訳だとバレている様子だったのは致し方ない。
新鮮豊富な食材を駆使した料理長渾身の晩餐は涙が出るほど美味しかった。
こぼれ話
そういえばヤンスさんが一緒に居たら食材の値段が上がるのはわかってたはずなのになんで一緒に呼んだんだろうね?
そう思って商談後ベンヤミンさんにそっと聞いてみた。
「ヤンスさんも一緒に呼ばなかったらもっと安く買えたんじゃないですか?」
そう聞いた俺の言葉に目をぱちくりさせたベンヤミンさんは、一つ笑ってこう答えた。
「ヤンス殿をお呼びせずに食材を購入すれば確かにお安く手に入った事でしょう。ですが、その後その事を理由に何倍もの出費を余儀なくさせられるかと」
「ハッ!確かに……っ!」
「しかもこうやってお呼びした事によって彼の信頼も得られた事でしょう。今回の僅かな、と言うよりも当然の支払いでこの先の大きな出費を抑えたのですよ。こちらには大きな利となりますのでキリト殿はお気なさらず」
ふふふ、と笑うベンヤミンさんにこれが“損して得とれ”ということか?とポカンとしてしまった。
貴族の考え方怖い。
入れようかなと思いましたが、どうにもバランスが悪くなった為こちらにて。
いつも俺不運を読んでいただきありがとうございます。




