245 冬の生活
さて、本日はずっと後回しにしていた植物オイルの石鹸の検証を行おうと思う。
ぶっちゃけこっちは廃油を使っていないので今回の廃油処理問題には一切関係が無い。
ただの興味本位で作った代物である。
今だって廃油石鹸の量産で担当者達がヒーヒー言っているんだ。
出せるわけ無いよね。
とはいえ、せっかく作ったんだから効果が気になる。
バタバタしていて休暇も代わる代わるでしか取れない (ほとんど自分のせいみたいなもんなんだけど)為、今まで確認もできずに【アイテムボックス】に塩漬けになっていた。
そしてやっと俺の番の休みが来たので、息抜きがてらちょこっと検証してみようというね。
こちらは本当に数が無いので端っこを少しだけ削って粉石鹸みたいにしてみた。
粉石鹸と言うには粒が粗いけど、まあ良い。
人目が気になるので自室で鍵を掛けてからこっそりと行う。
「タライにお湯を張って〜くるくるくる」
器の様にした左手の中の削りカスに、少しお湯を掛けてこちょこちょ掻き回す様に泡立てる。
予想通り、あっという間にもっこもこの泡が立った。
ふわりと広がるハーブの香り。
吸い付く様なもっちもち、ふわっふわな泡。
左腕で試してみた。
結果は言わずもがな。
甘くてスパイシーな香り、汚れ落ち。
肌のウルツヤ感。
全てにおいて満点だと言わざるを得ない出来だった。
牛乳を入れた物は肌がしっとり、蜂蜜を入れた物は肌の色の明るさが上がった。
しかもなんだろう、肌のハリが良くなった様な?
地球でよく聞いた「マイナス五歳肌」と言うやつではないだろうか?
当然全てにおいて廃油石鹸ザイフェ配合のものより効果が高い。
これはちょっとやべえモンを作ってしまった気がする。
お肌に悩む女性達が殴り合いしてでも奪い合うのではないだろうか……?
こっちは材料費が高いのもあるし、『女神の雫』行きにしようか。
いや、でもしばらくは皇宮に近寄りたく無いから店に直接持ち込むべき……、いやいや、店に顔を出したら速攻で城まで連れて行かれそうだな?
皇妃様まで一直線最短コース的な。
……。
…………。
い、一旦保留で。
念の為作り方のメモと実物を【アイテムボックス】に封印しておこう。
それぞれの効果も念の為メモしておいたし、いつか万が一見つかった時はこれをばら撒いて逃げよう。
うん。
ないない。
ないないだ。
エレオノーレさん達に見つかってもいけない気がするから、誰にも見つからない所にないないするしかない。
俺はそっと植物オイル石鹸を【アイテムボックス】にしまいなおした。
ここ最近は雪も沢山降る様になり、積もった日には、拠点の前や孤児院の前の雪かきを行うのが日課に加わった。
廃油回収の日は回収コースの雪かきも一緒に朝一で行う。
これをやっとかないと子供達がリヤカーなんて押せないからね。
勿論裏道は土が剥き出しの所もある。
そこがぬかるんでタイヤが嵌ったりしない様に乾燥させたり、割れている石畳みやレンガの修正をしたりもした。
廃油回収してる店の店主達には「店の前もやってくれ」などと言われるけど、それは自分達で頑張って下さい。
その帰り道で、以前農村やアルスフィアットでもやっていた様に、高齢者宅の雪かきを有料(格安)で受けたりもした。
とはいえ、あまり沢山は受けない。
この雪かきはハンターになりたての人達の仕事なのだ。
貴重な冬の収入源を俺が掻っ攫って良いものではない。
何事も程々に済ませることが大事だと学んだのだ俺は。
そうやってあちこち雪かきして時間がかかる為、どうしても朝食の時間には間に合わない。
拠点に帰って避けられた朝食を温めて一人で食べる。
自分が勝手にやっていることとはいえ、ちょっとだけ寂しい気持ちになるのは仕方ない。
そんな俺を見かねて、デイジーがお弁当を作ってくれるようになった。
作業しながら食べられる様にサンドイッチが主になるけれど、中に挟む具が被らない様に色々工夫されていて、全く飽きがこない。
なんと言う気遣いだろう。
きっとデイジーは将来良い奥さんになると思う。
雪かきが終わり、拠点に帰ると一日のノルマ分の廃油を酸化還元する。
それさえしておけば石鹸にするのは誰でも出来るからね。
魔法の使えない薬師達が頑張って作ってくれている。
あ、でもグレーテさんはお触りNGね。
油断するとすぐに手を出そうとしてくるものだから監視が必要である。
レオンさんに引きずられながら「もう火にかけたりしないからさー!」と叫んでいるグレーテさんを眺めながら、彼女の過去の逸話を思い出す。
ステーキを焼くのに塩ではなく石英を削ってかけたり、シチューを作ると言って絵の具をぶち込もうとしたりなんて、都市伝説レベルの料理を実際に作っちゃう人なんだよなぁ……。
絶対に触らせられない。
なんだったら石鹸工場や実験室への侵入禁止にしてしまっても良いくらいだ。
「さてと。今日はどうしようかな」
忙しく走り回っていた準備や段取りも一区切りついて、あとはとにかく量産するだけ。
回収された廃油がなければこれ以上やらなければならない事はない。
うちのクランは、基本はやるべき仕事と訓練さえ終わって仕舞えば、比較的のんびりと過ごしている。
天気が良い日は気まぐれに市場に露店を出したりもするけど、商売自体は雑貨屋でもできるし、訓練する者もいない訳ではないが、うちの訓練場は屋外。
寒い中では訓練効率も悪い。
なので、毎日行う最低限の訓練以外はランニングくらいしかやっていない。
今日はランニングという感じでもないからお休みである。
露店も今から向かうのもなんだかな、と頭を悩ます。
冬の間商売の基本はオイゲン達にお任せで、店頭在庫が足りなくなったり、特殊なお問い合わせが来た時だけ【アイテムボックス】の出番という感じ。
俺自身は店頭に立たなくても良いのだ。
むしろ邪魔になったりするし、「責任者が気軽に店頭に出ていては有り難みが減る」とオイゲンに追い返されたりもする。
悪ガキ軍団達も廃油回収が終わったり、休みの日はウチの暖炉の周りで字や計算の勉強をしている。
彼等の両親も兄弟も文字は読めないらしいので、学ぶのが嬉しいんだとか。
真面目に学ぶ不良って不思議な感じがするけど、勉強するのは良いことだ。
先生はエレオノーレさんで、勿論生徒にはジャックもいる。
美人で優しくて素晴らしいボディのエレオノーレさんに悪ガキ達が手を出さない様、あからさまにイチャイチャしながら教えている。
うーん……目の毒〜。
悪ガキ達も「これさえなければなぁ〜」と苦笑いしてたりする。
もうすっかりジャックナイフからバターナイフになってしまったな、ハハッ。
他のメンバー達も武器の手入れをしたり、読書をしたり、毛糸でマフラーやセーターを編んでいたり思い思いに過ごしている。
チェスっぽいボードゲームをしている人もいるな。
せっかくしだし、お弁当のお礼にデイジーに何か作ってあげよう。
こっちでは見たことないけど、ニットワンピなんかどうだろう?
部屋着にしたらあったかくて良いのではないだろうか。
俺も編み方を色々教えてもらったし、ちょっと凝った模様も編めるようになった。
少しダボっと着れるデザインとピッタリ着れるデザイン、どちらにするか悩んだが、デイジーはダボっと着れるタイプの方が似合う気がする。
萌え袖にしても可愛いだろうな。
袖に親指の穴開けておこうかなぁ。
「ここで二目拾って……と、んで、次が……」
メモした編み図を確認しつつチマチマと編み進める。
周りの程よいざわめきが集中力を高めてくれ、気が付いたら夕方だった。
半日で前身ごろの半分、普通のセーターだったら丁度良い長さまで編めている。
夢中で編んでいたせいでお昼を食いっぱぐれてしまった。
きゅうきゅうと鳴く腹の虫を宥め、食堂に向かうとジャックとエレオノーレさん、そしてデイジーが楽しそうにご飯を作っていた。
ジャックが俺に気付いて奥の煮込み用竈門を指差した。
そちらに視線を向ければでっかい寸胴鍋が三つコトコトと煮えていた。
「収納 頼む」
「おっけー」
こうやってジャックが小まめにスープストックを作ってくれるから出先でも時短で美味しい料理が作れるんだよね。
ありがたやありがたや。
野菜や肉の旨みが凝縮されたスープを鍋毎収納した。
【アイテムボックス】の中に入っていた以前のスープストックは、若干残っていた為、小さな鍋に移し、クリーン魔法で洗浄後竈門の上に乗せる。
いそいそとやってきたジャックが大量の玉ねぎのみじん切りを放り込んだ。
幾つか指定された食材を取り出して作業台の上に置くとグッとサムズアップされる。
食事が終わったら皿洗いを魔法で終わらせて再びニットワンピに取り掛かる。
夜は暗くなるので部屋に戻って光の魔法を使って編む。
そうして合計五日掛けて、ニットワンピは無事出来上がった。
袖も身ごろも全体的にたっぷりめに編んである為、丈さえ気にしなければエレオノーレさんも着ることができるだろう。
一部パツパツになるだろうけど……。
出来上がったニットワンピをラッピングして、夕食の後にデイジーに贈る。
「毎朝お弁当作ってくれるお礼だよ。部屋着にでもしてくれると嬉しいな」
「……っ!!」
デイジーはぱぁっと音がする程の素晴らしい笑顔で受け取って、すぐに着替えて見せてくれた。
うん。
自画自賛だけど、めちゃくちゃ似合う!
太めのオフホワイトの毛糸にアイボリーの毛糸でほんの少し、胸元にだけ雪の結晶のような模様が入れてある。
ドルマンスリーブっていうんだっけ?手首でキュッと締まっているけど、たっぷり膨らんだ袖に、ゆったりとドレープを描く裾、シンプルなハイネックと、その上に編み込んだ広口な飾り襟。
編み方を色々工夫したおかげで縄をくるくる巻いたようなアラン模様が全体に入っていて、それが動きに合わせてもったりと流れるのも可愛い。
勿論袖には親指用の穴を空けてある。
大変可愛い萌え袖になっていて、大満足の出来だ。
デイジーの清純で可愛らしい雰囲気とピッタリである。
「いいね。よく似合ってるよ。ちくちくしたり、キツかったりするところはない?」
「だ……っ!大丈夫っです!と、とっても可愛くて!この袖の穴は、親指用で、合ってます……?」
真っ赤になりながら上目遣いで見てくるその姿は、かなり攻撃力が高い。
ちょっとだけ照れた俺はそれを隠すようにデイジーの頭をくしゃくしゃにかき混ぜてその通りだと話して視線を逸らすと、そこには鈴生りになった女性陣が。
ニヤニヤしている人もいれば、デイジーの着ているニットワンピを注視している人もいる。
「キリトキリト!アレ!あれ、私にも作って!」
「え?!ずるい!じゃあ私も欲しい!」
エレオノーレさんの言葉に、他の女性陣も自分のも作ってくれ!と大騒ぎになったのは誤算だった。
皆分作ってたら間違いなく春になってしまう。
そう言って、自分の分は自分で作ってもらうように説得したら、何故か俺が教えることになっていた。
普通にセーターを長くするだけじゃん。
ブツブツ言いながら皆で談話室に向かえば、ジャックや暇を持て余したレオンさんも付いてきていた。
ジャックは言わずもがななんだけど、レオンさんは例のあの娘に贈りたいらしい。
結構真剣に皆と一緒に編んでいる。
そのレオンさんの贈った一着のせいで次の冬にニットワンピが爆発的人気になるのはまた別の話ーー。
いつも俺不運を読んでいただきありがとうございます。
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次はアルスフィアットの例の件に入ります。
結構長くなる予感がしますが、どうぞお付き合いくださいますようお願い致します。
作者は今編み物に夢中です。
アイパーさんみたいになりたいです……




