242 廃油石鹸実験・販売準備 3
ヤンスさんが連絡を取ってくれてから三日後。
カウッシュを作っている錬金術一門から「空いている時で良いので顔を合わせて話し合いたい」と返ってきた。
薬師ギルドを通してのお願いなのでうちと錬金術一門、薬師ギルドの三組での会合が決まった。
「団服着て行く必要性……」
ちらりと横目でヤンスさんを見れば、いつもの三倍くらいスマートかっこいい。
そして鏡に写った自分を見る。
服に着られている。
今日着ているのは団服の常装。
以前ハンターギルドに乗り込んだ時の服だ。
「身嗜みは大事だぞ」
「それはわかってますけど……」
違うのは髪型。
前髪をヘアワックスで整え、梳ってある。
前を少しだけ膨らませたポンパドールが今の流行りらしいよ。
こっちではポンパドールとは言わないらしいけど。
なんだっけ?昔のフランスのオシャレな人の名前とかだった気がするな。
ドライヤー代わりの温風を魔法で出してセットすると見事な『はじめてのぴあのはっぴょうかい』な俺の出来上がり。
恥ずか死ぬ……っ!
顔を隠してしゃがみ込む。
横で笑って俺を見ているヤンスさんをヤンキー座りで睨み上げる。
「とりあえず俺が作った見本をちょこーっとだけ持って行って、これからこういうの作るからいっぱいカウッシュ欲しいなぁ、おねがいしまーすって挨拶すれば良いんじゃないんですか?」
「そうそう。こういうの作るからヨロシクオネガイシマスってゴアイサツをするんだよ」
ヘラっと笑って返事をされたけど、一部言葉に妙な含みがあったな、いま。
ヤンスさんも普段つけているバンダナを外し前髪を撫で付け、オールバックにしている。
色素の薄いヤンスさんはバンダナが無いと途端に上品に見えてしまう不思議。
貴族だと言われても納得できそうな感じだ。
金髪碧眼の王子様……いささか捻くれているけど。
でも本当にそんな感じに見えてしまうよね。
「なんだよ」
「あ、なんでも無いです!」
まじまじと見ていたら睨まれた。
こっわ……。
身支度を整えてご挨拶品と共に廃油石鹸の見本品を携えて指定された食事処に向かった。
皇宮近くの高級レストランって感じの見た目からお高そうなお店で、ドレスコードとかありそうだなぁって思ってたらマジであったよ。
目の前で数人のハンター達が追い返されていた。
「せっかくお金を貯めてきたのに!」とか、「服の格ってなんだよ!」とか愚痴りながら帰って行くハンター達を横目に恐る恐る店の方に足を踏み出した。
「いらっしゃいませ。クラン『飛竜の槍』のヤンス様とキリト様でよろしいでしょうか?」
「は、はひっ」
「ああ、今日はよろしく頼む」
ウェイター?ギャルソン?なんか多分そういう立場の人が俺たちを笑顔で迎えてくれた。
さっきハンター達を追い返した時と対応が違い過ぎませんか?
思わず返事が裏返る。
ヤンスさんは逆に堂々と受け答えをしていて、格の違いを見せつけられた様な気分だ。
「皇宮に堂々と入るくせに、ンでこんなとこでキンチョーすんだよ」
「それとこれとは別物ですって!しかも別に堂々となんてしてませんし」
小声でやりとりしながら個室まで案内について行く。
辿り着いたのは立派な両開きのドア。
これまで通ってきた個室は普通のドアだったはずなんだけど。
ええ〜勘弁してぇ〜。
案内してくれた人が一言声を掛けて扉を開く。
中に入るとすでに他の人達は揃っていた。
指定された時間より早く来たはずなんだけどな?
「おお、流石やり手の商人だな。五分前行動というやつか?」
「いいえ、デニス翁彼等は商人ではなくハンターですよ」
鷹揚に頷きながら声をかけてくれたのが錬金術師のデニス。
あの錬金一門の長だそうだ。
中肉中背でつるりと剃り上げられた禿頭と、中々個性的な青い髭が印象的である。
青くてごわごとした髭は大きく三つに分かれて広がっていて、食事時や錬金時に邪魔にならないのだろうかと心配に思ってしまう。
もう一人、デニスをデニス翁と呼んで俺たちの情報を修正してくれたのが薬師ギルドのギルド長ルーベルト。
ビシッと三揃えのスーツを着こなして上品に座っている。
黄緑色の髪と糸目でずっと笑っている様に見えるけど目はちっとも笑っていない。
二人とも背後に護衛と秘書っぽい人を連れているが、基本は本人が対応してくれるらしい。
念の為の自己紹介とご挨拶の品を先にお渡しして会合は始まった。
「それで?ウチのカウッシュを使って石鹸を作るって?」
「石鹸は既に沢山の工房で作られていますのでこれからの参入は厳しいかと……」
にやにやと笑うデニスさんと心配げにこちらを見るルーベルトさん。
わかりやすく見えるが、二人とも見たままの感情や考え方では無いのは理解できる。
「えっと、そうですね。石鹸を売って沢山儲けようとは思っていません」
「「は?」」
俺の一言に二人は少し抜けた声を上げる。
ヤンスさんはニヤニヤと悪い笑みを浮かべて顎で話の先を促した。
それに一つ頷いて話を進める。
「お二人は今唐揚げが人気な事ご存知でしょうか?」
「いや、まあ、知ってはおるが……」
「そうですね。ウチの娘の好物です」
「その為現在帝都では廃油の処理問題が立ち上がっています」
そこまで話すと二人は俺が何を言いたいか理解したらしい。
「それを使って石鹸を作るつもりか?」
「そんなもの商品にはなり得ませんね。臭いがきつ過ぎます」
期待はずれだとでもいうかの様にあからさまに落胆して見せる二人に、そっと見本品を出す。
「お二人のおっしゃる廃油のその問題がございます。そして、それを解決したのがこちらです」
テレビショッピングを参考にしつつプレゼンテーションする。
二センチ角の小さな石鹸が六つとぬるま湯を張ったボウルを四つ。
実際に見て触って体験しない事には理解してもらえないだろう。
「石鹸は一番シンプルに作った物、メインで売り出そうとしている物、高額で売り出す予定の物の三種類です」
石鹸の色が微妙に違う為、説明がしやすい。
やり方は別に教える必要はないだろう。
一番シンプルなものは濾過しただけの廃油を使ったもの。
油臭いのであまり使えないやつだ。
まあ、これに関してはちゃんと廃油使って作ってますよアピールする為のものである。
そしてメインが酸化還元プラス匂い消しのハーブ入り。
これは使用に耐えうるとされた物。
最後がそれにザイフェを配合した物である。
「こちらのシンプルな物は濾過しただけの廃油ですのでお二人の懸念通り臭いがキツく、洗体には向きません。食器洗い、馬車の洗浄等ごく一部でしか使用できないでしょう」
二人は自分の前にあるシンプル石鹸を摘み上げ、臭いを嗅いだり、お湯を使い指先で試したりしていた。
表情はほとんど変わらない。
びくびくドキドキしながら二つ目の説明に入る。
「こちらは臭いの問題を解決させた物になります。獣人や匂いに敏感な方には普通の石鹸とは違うと感じてしまわれますが、普通に使用できるそうです」
「おお、これは……」
「本当に廃油を使っているのか?」
「ええ、先程試していただいた廃油と同じものに手を加えて使用しています」
鼻の下まで石鹸を持っていって何度も嗅ぐ二人。
濡らして泡立てるとほんのり油の匂いが立ち上がるが、ハーブの香りがより強く立ち、隠していく。
「ふむ、確かにこれなら平民の普段使いには問題なさそうだな。貴族からは嫌がられそうだが」
「そうですね。まだ平民には石鹸は高価な品物ですが、廃油が原料とあれば比較的に値段も抑えられるでしょう。手洗いの習慣がつけば感染症の対策にもなる……」
二人が販売層を考え始めている。
そうそう、俺ももとよりそのつもりだよ。
だんだんと緊張が解れていくのがわかる。
二人が石鹸を置くのを待って三個目の説明に入る。
「こちらがとある有効成分を配合した高額ラインです。泡立ちがきめ細かく、もっちりとしており、洗浄力が上がります。一度の洗浄に必要な量も少なく、結果石鹸が長持ちします」
ここぞとばかりに褒めちぎった。
そして二人の前でボウルと石鹸を取り出してモコモコと泡立てて見せる。
「「なっ?!」」
二人は焦りながら自分の前にある石鹸を手に取り、泡立てる。
瞬く間にもこもこと膨れ上がるきめ細かい泡。
「この泡はお肌に優しい為、洗顔におすすめです。ウチの女性陣からも肌が綺麗になったと絶賛されています」
「それは当然だろう……」
「有効成分……」
泡から目を離さない二人の呟きは小さ過ぎて聞き取れなかった。
しばらく待ってみたが二人とも自分の世界に入り込んでいる様で、秘書っぽい人が洗い流すよう促していた。
「…………」
「…………」
「…………」
しばし無言の時間が続く。
目の前のボウルや使いかけの石鹸を回収し始めるとデニスさんが慌てて俺の手を止めた。
「それをもらえんだろうか?」
「ダメだ」
俺が反応するより早くヤンスさんが答えてしまった。
別にこのサイズ一個くらいあげても良いんだけど?
「販売は夏以降だ。現物を一度でも使用したら『先に少量でも良いから融通してくれ』と言われる事がわかりきってるからな」
「わかりきってる……?」
「ああ、嫁さんとか娘とかな。持ち帰ったら絶対に使いたがって、追加を要求してくるだろうな。特にこんな美容関係の商品男に退けれるはずないだろ」
ヤンスさんの言葉に納得して二人に視線を向ければ、否定できないのだろう、視線を外されてしまった。
とりあえずその隙にシュシュっと【アイテムボックス】に収納しておいた。
いつも俺不運を読んでいただきありがとうございます。
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誤字報告の件で温かいお言葉を沢山ありがとうございます。
感謝の極み……ッ!
いつも本当にありがとうございます。
これからも頑張って書いていきますので、霧斗達、どうぞよろしくおねがいします。




