241 廃油石鹸実験・販売準備 2
ちょっとキリが悪くて長めです。
「使用感や肌に変な影響がないか、使って教えて欲しいです」
「わかったわ!」
「しっかりと確認しますね」
そう言って廃油石鹸の試作品一式を渡すと、女性陣は皆大喜びで受け取ってくれた。
去っていく足取りの軽いこと軽いこと。
字が書けないメンバーはアガーテ達が代筆してくれるらしいのでお任せしよう。
そうして返ってきた感想は以下の通り。
・通常の廃油石鹸は酸化還元プラスハーブの物が良い。
・他の物は臭いや使用感が気になる。
・ザイフェ配合品は最高。
・いっぱい作って。無くなる心配しないで良いくらいにいっぱい。
・お肌がとても綺麗になった。
・吸い付く様な肌、もうこの石鹸は手放せない。
などなど。
言葉の差異はあれど、大体皆おんなじような意見だった。
クラン用の在庫の確保が必須なのは間違いないかな。
必要な物なら全部買ってくると言われたし、材料の確保が必要かもしれない。
オーランドのよく行く唐揚げ店に話を付けて、廃油を回収した。
はじめのうちは無料で回収していたが、何度か貰いに行くと、近隣の店々も「廃油を回収してくれるならうちも頼む!」と幾ばかりかの賃金と共に依頼が殺到した。
やはり廃油の処理に皆悩んでいたらしい。
回収費という形で料金をいただきつつ、試作品の材料を集めていく。
廃油を入れる為の一斗缶やドラム缶みたいな金属製の入れ物を複数作り、それに入れて回収していった。
高価な植物油も色々な植物から油を絞ったりして研究が進められているらしいので、きっとそのうちもう少し安くなるのではないだろうかと思っている。
回収した廃油を使って大量に石鹸を作りつつ、商品ラインナップを考える。
ザイフェ配合のものだけにしようかと思っていたけど、皆から待ったが出た。
制作費用はほぼ変わらないにも関わらず、ザイフェの方を高額ラインに置き、通常の廃油石鹸を通常価格で販売するべきだとの事。
廃油石鹸の酸化還元モデルが安価ラインで、一つ上のメインライン酸化還元プラスハーブ。
ザイフェ配合の酸化還元モデルが高級ラインで、酸化還元プラスハーブが最高級品ラインらしい。
正直、ザイフェの価格を考えたら暴利も良いところなんだけど、効果的にはそれくらいあっても全く問題ないっぽい。
まあ、それが商売か。
そうだよね、元手タダの水だって、誰か別の人が汲んできてくれるなら有料だもんね。
細かい価格については追々考えよう。
うん。
材料費はカウッシュとハーブ、魔法の技術料くらいなんだけどね。
廃油に至っては回収費用をもらってるくらいだし。
とりあえず、足りないザイフェの実を採取に山の中へ向かう。
『緑の手』のメンバープラス女性メンバーと俺、そして安定のジャック。
【アイテムボックス】がある為、ガッツリと大量に採取する。
地面に落ちている物もそこそこあるけど、やはり足りない。
ザイフェは一本の木にものすごい数が生っているので、幹を押して揺するだけで簡単にばらばらと落ちてくる。
ーーー実と共に虫が大量に。
一度背中に毛虫が入ってしまい、情けない悲鳴を上げて飛び跳ねた。
ザイフェは森に入ればすぐに麻の大袋いっぱいに採れたが、俺の被害は甚大だった。
「どうしてキリトさんのとこだけ虫が落ちてくるんだろうな?」
「私達の所はほとんど落ちて来ないのにね」
『緑の手』が不思議そうに言いつつ笑っている。
ふんだ、勝手に笑ってたら良いさ。
あー気持ち悪い!
早くお風呂に入りたい。
魔法で綺麗にしたとはいえ、やはりお風呂に入ってスッキリしたいものである。
虫に懲りた俺は一案を考えた。
ザイフェを採取するのに危険は無い。
現に普通の家庭では薪拾いや採取のついでに自分の家で使用する分を拾って帰るのだ。
なのでそれを利用する。
うちに来ているバイトさんやお客さんの子供達に薪拾いのついでに配布した小ぶりな麻袋にいっぱいザイフェを拾ってきてくれないかと依頼したのだ。
小ぶりな麻袋ひとつで大銅貨一枚。
他の素材や薪を集めに行くついでに集めてくるには丁度いい量と価格である。
袋は一人一枚だけ。
それにいっぱい詰め込んで持ってきてくれたら中身だけ回収して大銅貨を渡す。
そのお金は子供のお小遣いにぴったりだ。
数日後にはザイフェの採取は街の子供達のお小遣い稼ぎになった。
最初はバイトのお姉様方のお子さん達だけだったのだが、そこから口コミで広がりあっという間に街中に広がった。
大人達からは購入しない事、金額はわずかばかりな事もあり、話を聞き齧って大量に持ち込んできた大人達もすぐに手を引いた。
どうせなら子供達にお小遣い稼ぎして欲しいもんね。
帰り道でおやつを買ったり肉串を買ったりして喜ぶ子供達を見ると嬉しくなる。
そうやって素材を手に入れるシステムを確立していった。
最近は雪の降る日も少なくない。
日課に雪かきが増えた。
朝一に拠点周りの雪かきを皆で行う。
これに【アイテムボックス】は使わない。
全身の筋肉を意識してザクザクと雪を掬って避けていく。
避け終わったら雪だけを【アイテムボックス】に収納して孤児院と街壁門までサクサク収納雪かきを終わらせる。
ちょっとした朝の散歩気分であっという間に終わるのは【アイテムボックス】さんのおかげです。
ありがたやありがたや。
「おー今日もありがとうなー」
「いいえー皆さんもお疲れ様です」
門番さんと挨拶を交わして拠点へ戻る。
収納した雪を道脇に少しずつ落としてゆき、手でかき分けました風を装う。
まぁ、あんまり意味ないけどね。
拠点に着いたらすぐさま食堂へ向かう。
建物に入っただけで一気に寒さが和らいだ。
「おう、おかえり」
「ただいま〜」
「ほら、こっちに来なさい」
ドアの音に気付いてオーランドが食堂のドアを開けて迎えてくれた。
一足先に戻った温まっていた皆が、暖炉の前を開けてくれる。
「いっつもありがとうなぁー」
「いえ、勝手にやってるだけなんで……」
ワシワシと頭を撫でられつつ暖炉前の椅子に座らされる。
少し申し訳無いけど寒さには勝てないので、好意に甘えて座った。
周りが温かいのはわかるけど、自分の周りに寒さの膜がある気がする。
置いてあったブランケットを肩から羽織り、手を暖炉にかざす。
かじかんでいた指先が火に炙られてじんじんと痛痒くなっていく。
「キリトさんもどうぞ」
「わっ!ありがとう!」
手のひら全体を揉み擦りながら身体が温まるのを待っていると、デイジーがホットミルクを持ってきてくれた。
ホットミルクに口を付けると、胃の中からポカポカと温かくなっていった。
少しだけジンジャーが入っているみたいだ。
ふぅ〜あったまる〜……。
そうやってのんびりほのぼの出来るのは朝のこの時間くらいだ。
天気が良い日は近場へ狩りに出たり、薪作りをしたり、商売をしたりと仕事があれこれある。
特に今日は大事な予定が入っている。
「いよいよ今日ね!」
「そうですねぇ……」
フンスフンスと鼻息荒く拳を握るエレオノーレさんはとても可愛い。
見た目年令相応と言ったら良いのかな?
チラッとジャックに視線を送れば「ウチの嫁さん可愛いだろう?」と言わんばかりのドヤ顔が返ってきた。
今日は廃油石鹸の作り方講座の日である。
まずはクランの上層部とうちの錬金術師達、魔法が使える者たちに作り方を説明。
酸化還元の説明は諦めました。
元素記号など無い世界で、簡単に科学的な事を説明するのはとても難しい。
どんなに説明しようとしても上手く説明できなかったのだ。
ただ、油を長く放置しておいたり、揚げ物をあげたりすると悪くなるという事は経験則で理解していたので、以前使用した“雷の浄化の力で油を綺麗にする”という言葉が一番皆にわかりやすかったらしい
「雷に浄化の力があったのね」などと言われたりもしたけど、なんとなく伝わったので良しとしよう。
まずは黒板にやり方を書いて手順を説明。
一度目の前でやって見せて、雷魔法の使えるエレオノーレさんにチャレンジしてもらう。
何故か俺よりも酸化還元スピードが早く、そして綺麗である。
解せぬ。
まだ雷属性へ魔素の変換ができない人には手を繋いで魔法を発動し、魔素の変換を練習してもらう。
上手く酸化還元できているものは魔法の使えない物達が次々に石鹸に加工していく。
カウッシュは危険薬剤なので、必然的に外での作業となる。
女性陣は嫌がるかな?と思っていたが、そんな事はなかった。
むしろ先を争って外へ出ていく。
目の色がやべえ。
「ねえ、キリト!なんだかブクブクしてるんだけど?!」
「ぎゃー!なんで火に掛けてるんですかー?!」
「え?だって熱くなるって…「とにかくすぐ降ろしてください〜!!」
三本の槍の槍士グレーテさんがとんでもない事をやらかしていた。
慌ててビーカーを回収し、空気の清浄と目の前の危険物を収納する。
【アイテムボックス】内で【鑑定】すると“溶解液”となっていた。
皮膚に付くと大きく爛れ、継続的な痛みを引き起こす劇薬なんて、危なすぎて女性の周りには置いてはおけない!
満場一致でグレーテさんの石鹸作り参加不可が決まった瞬間だった。
「グレーテは荷物運びだけ!」
三本の槍の魔法使いオットマーさんが目を三角にして言い放つ。
むくれて頬を膨らませるグレーテさんは可愛らしいけれど、危なすぎて任せられない。
大人しく酸化還元の終わった廃油や、精油、ハーブ、砕いたザイフェなどを運んでもらう事にする。
基本の作り方を皆がマスターしたら今度は配合を少しずつ変えて作っていく。
配合のメモを貼り付けて風通しの良い場所に並べておいていった。
「キリト、コレ、見た目どうにかならない?素っ気ないんだけど」
カトライアさんが四角い箱を見ながら聞いてくる。
石鹸なんて汚れ落ちさえしっかりしてれば見た目とか気にならないんだけど、やっぱ女性はそういうのも気になるんだな。
「(なんかの漫画で)ドライフラワーを封入したり、型に入れるとオシャレになるって見た気がします」
「「「「それよ(だわ)(です)!」」」」
ふんわりとした説明だったけれど、弾かれた様に顔を上げた女性陣が、競い合う様にして自分達の分を作っていく。
まあ、練習試作品だし、材料費さえ出してくれればそれで良いか。
エレオノーレさんはジャックにおねだりして抜き型を作らせていた。
勿論ジャックは嬉しそうに木を彫っている。
あの二人は幸せそうだしそっとしておこう。
自分の分を作っている女性達はさておき、錬金術師達は黙々と作業を続けている。
作業の難易度を確認したが、魔法が使える者に俺が魔素の変換を指導すれば魔力に応じて簡単に作れるとの事。
残りの作業は錬金術師や薬師などの薬物を取り扱える者がいれば問題ないそうなので、孤児院から人を雇っても問題なさそうである。
「いや、本当にキリトさんは規格外ですね。あんなやり方で変換を教えるなど聞いた事も無いですよ?」
「大昔はああやって教えてたみたいだよ。俺が考えたわけじゃ無いからね?」
妙に感心されるけど、それはちょっと勘違いだと思う。
昔やってた方法を復活させただけだからね。
そうして石鹸を作りながら皆で相談した結果、廃油石鹸は雑貨屋で夏以降に販売する事になった。
冬の間に皆で作り溜めをして、春はアルスフィアットに向かって、大掃除。
それが落ち着いたらその後に石鹸の販売をしようという事になった。
できたら夏が一番石鹸を使うしそこで売りたいとの事なんだけど、それは大掃除の状況次第かな。
とりあえず、大量のハーブとカウッシュを購入。
量が量だけに、カウッシュを作っている人達にも話を通しておきたい。
そうヤンスさんに相談すれば「確かにその方が良いな」と呟いて薬師ギルドを通して連絡してくれた。
いつも俺不運を読んでいただきありがとうございます。
いいね、リアクション、感想、ブックマーク、評価、誤字報告とても嬉しく、助かっています!
最近誤字報告が多く、確認不足に凹んでいます……。
いつも本当にありがとうございます。




