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65. ミックスフライ




「サクラさん、『コロッケ』の作り方を 教えてもらえませんか?」


家につくと、イシルがサクラに聞いてきた。


「明日、ラルゴくんに持たせようと思いまして」


ラルゴは明日、早速町へ出かける。

武器、金物、冬野菜の納品と、組合長として、一応ギルドに挨拶に行くのだ。


「あ、そっか、ラルゴさんって営業力ありますもんね」


『コロッケ』を持たせれば、前回同様宣伝になるはず。


「そうですね。期待しましょう」


と、いうことで、今夜は


『ミックスフライ』


コロッケを作りながら 他のも作ろう。

仕込んでしまえば 揚げるのは一緒だ。


「コロッケ、メンチカツ、白身魚フライ、エビフライ……かな」


「フライ、ですか?」


「全て材料に小麦粉を薄くつけて、卵にくぐらせ、まわりにパン粉をつける料理なんですけど、肉だと『カツ』で、魚介だと『フライ』なんですよ」


「天ぷらに似てますね」


イシルさん、天ぷらは知ってるんだ。

シズエさんが和食好きだったからかな?


「材料につける()()()が違うだけです」


「成る程、では、野菜でも肉でもなんででも出来ますね」


「はい」


イシルにはパン粉を作ってもらう。

パンを崩して乾燥。魔法ですぐだ。


ジャガイモ、卵を茹でておく。

卵はタルタル用。


魚は切り身がある。

エビは皮をむき背わたをとる。

水で洗ったら水気をとり、何ヵ所か斜めに切り込みをいれ、エビの筋を切っておく。

揚げたときに丸まらないように。

両方塩コショウで下味をつければ 下ごしらえはおわり。


メンチカツは今回鶏ひき肉にした。


「イシルさんお豆腐を一丁もらえますか?」


「挽き肉の中にお豆腐、ですか?」


「はい。鶏肉だけでもいいんですけど、入れると ふわふわになりますよ~」


考えただけで美味しそうだ。


玉ねぎをみじん切りにしているイシルに 豆腐をだしてもらい、水切りする。

異世界は便利だ。魔法ですぐ。

現世ならキッチンペーパーで包み、重しを乗せて冷蔵庫に30分ほど放置だ。

ちなみに 木綿豆腐で。


イシルが玉ねぎを塩コショウで炒める。

半分はもらって とりメンチに。

半分は挽き肉をたして コロッケにつかう。


鶏ひき肉、とうふ、玉ねぎをあわせ、塩コショウをし、粘りけがでるまでよくこねる。

丸めて形成したら鶏メンチの下ごしらえはおわりだ。


「あ、ジャガイモはつぶしすぎないで、少しつぶを残してください。」


今回はマッシュじゃなく、粗めにつぶす。

冷めたひき肉玉ねぎを加えて 塩コショウと混ぜたら丸めて成形だ。


「揚げていきますよ」


薄力粉、溶き卵、パン粉の順に衣を付け、揚げていく。

糖質をオフるために、コロモは薄めに。


ちなみにこの村の油は オリーブオイルか菜種油。

今回は菜種油であげる。キャノーラ油てこと。

あっさり揚がります。

キャノーラ油やオリーブ油には、アボカドと同じく一価不飽和脂肪酸が含まれていて、悪玉コレステロールを低下させてくれる。


ウインナーといい、菜種油といい、ドワーフ村は現世でいうと ドイツっぽいな。


″ジュワワッ……″


いい音をさせて 油がはねる。

黄金色の液体の中で、ひっくり返しながら キツネ色に仕上げる。


「ランは調子悪いんですかね?」


今日は部屋から出てこない。


「今夜はブラックムーンですからね」


「ブラックムーン?」


「月が姿を消す日ですよ」


「?」


「月に影がかかり、完全に見えなくなります」


月食、てこと?


「終わるまでは 体が(うず)くようです。呪いのせいですかね……月の影響を受けやすいのは」


「そうなんだ……」


イシルは出来上がったフライを見繕うと、出来立てを異空間ボックスにしまう。

時間が停止するから、出したときも きっとサクサクだ。


「ラルゴさんの分ですか?」


「いいえ……明日の昼にでも ランディアに……食べさせようか、と……」


ちょっと口ごもりながら イシルがこたえる。


「そうですね」


笑っちゃわるいが、思わず笑みがでる。

イシルさんのそういうとこ、好きですよ。


山盛りキャベツにフライを盛り付ける。

サクラの分にはコロッケは盛らない。

コロモで糖質をとっているから、ジャガイモは遠慮しておこう。気休めですが。


「「いただきます」」


サクラはエビフライにかぶりつく。


「あぐっ、ザクッ」


サクッとしたコロモの歯触りの後に、ぷりっぷりのエビの食感。


「んふっ」


香ばしい香りと、揚げたことでエビの水分が蒸発し、旨味が凝縮されてる。

ちょっぴりレモンをしぼってさわやかに、タルタルソースでも味わう。


イシルがコロッケに手をつける。


「あぁ、店のものとは また違った味わいですね」


店のはマッシュだから滑らかに。今日のはゴロゴロ食感に。


「ジャガイモの味自体がして、僕はこっちの方が好きです」


「サンミさんにも食べ比べてもらったほうがいいですかね?」


「ええ。是非」


イシルがもう一口


「……これは?」


コロッケの真ん中にタマゴサラダが入っていた。


「あ!イシルさん、当たりですね」


タルタルを作るときに、タマゴサラダ風のもつくり、コロッケの何個かに スプーンひとすくい真ん中にいれておいた。

ロシアンコロッケだ。


「こんなことも出来るんですね……魚も美味しいです」


「魚はアジにしても美味しいですよ。サーモンフライもいいなぁ~」


そして鶏メンチ。


「カリッ、はふっ」


サクッとした歯触りのあとに、今度はふわっふわの食感が癖になる。優しい味。

イシルが珍しく 表情をかえる。


「僕はこれが一番好きですね。シソや大葉でまいて揚げても美味しそうです」


「そうだと思ってました。それだと、おろしポン酢が合いそうですね。中にチーズ入れても美味しいですよ」


イシルの好みに作れて 心の中で ガッツポーズ!


美味しい会話は それだけで 心が満たされる。

平和で幸せな時間だった。





◇◆◇◆◇





ベッドの上で丸くなり 身体を震わせ

子猫のランは 鈍い(うず)きに耐えていた。


侵食されている。そんな感じだ。


闇にのみ込まれそうな不安定な感覚と

身体を(むしば)まれるような嫌悪感。


早くブラックムーンが過ぎて欲しい。


″ふわっ″


不意に痛みが和らいだ。

誰かが優しく背中を撫でている。


ランの中に 癒しが広がる。


少し 楽になった。

ランはその手に自分を(ゆだ)ねる。


温かいものに包まれ、いつの間にか眠っていた。





しばらくして目が覚めた。


頭をあげると ランはサクラの腕の中にいた。


起き上がり サクラの顔を覗き込む。


(無防備な顔しやがって……)


ランは顔を寄せると サクラの唇に そっとキスをする。


子猫なのが残念だ。


忌々しいブラックムーン。


サクラの首の所で丸くなると ランはまた眠りに落ちていった。






次に 目が覚めると サクラの姿はなかった。


「もういいんですか?」


人化して ダイニングにおりていくと、イシルが声をかけてきた。

無言でイスにすわる。


目の前には温かな料理。


(なんだコレ?)


見たことない料理。


ランはがぶりとかぶりつく


″ザクッ″


「……うまいな、コレ」


イシルが笑った気がした。




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