第12話 勇者パーティと行進
アレンたちはミチャロフ三世を殺害するために結成された暗殺部隊だ。当然、バルト皇国の秘密警察に存在が露呈すれば、アレン達を辿ってドラカルトにたどり着く。
すでに両国の緊張関係は極限にまで高まっており、アレン達の存在が引き金となって戦争が引きこされる――戦争の口実にされる可能性は当然あった。しかしバルト皇国の情勢はそう簡単ではない。
西から――アルレリア王国、ドラカルト、ヴォルフス帝国と国境を接している。
王国とは互いに不干渉を貫き、現状は穏便なままだがドラカルトとは緊張状態であり、ヴォルフス帝国とに至っては小競り合いが発生している状態だ。ドラカルトがバルト皇国に注力すれば帝国に攻め立てられる可能性があるのと同時に、バルト皇国もまたドラカルトとの戦争を始めてしまえば帝国の横やりに合う可能性があった。
バルト皇国はアレンたちのような暗殺部隊に対処しなければならないが、同時に帝国から送られた密偵にも気を払わなければならない。秘密警察側の動きを見るに、アレン達がミチャロフ三世を殺害するために派遣された部隊だとは気が付ていない様子だ。
よくある密偵だと思っているのだろう。
もし本当に暗殺部隊だとわかっていれば、アレン達を確実に殺すためさらに多くの人員を割いていたはずだ。先遣隊は口封じのため自爆用の魔術を起動し、最低限情報が漏洩するのを防いでくれたようだ。
ただ、秘密警察に存在が露呈してしまった以上、ここからは時間との勝負になる。
帝国とバルト皇国のいざこざが終結するよりも早く、バルト皇国が本格的に戦争を始める土台を整えるよりも早く、ミチャロフ三世を殺す。
不幸中の幸いか、秘密警察に存在が露呈したおかげで、必要以上の隠密行動を取る必要がなくなった。
これからは、限られた時間を有効活用するために必要ならば敵は殺すし、民間人も殺す。
その上で、最善のルートを辿ってミチャロフ三世を殺害するだけだ。
「しかし、どうしましょうかね」
薄暗い森の中を歩きながらミケが呟く。
本来の予定であれば、先遣隊と情報交換を行い事前の作戦通りに勧める予定だった。
しかし、先遣隊が殺され、さらに先で待機している部隊の安否も分からない今の状態では用意していた作戦を実行することができない。これから先はアレン達が考えた作戦で進んでいくしかなくなった。
ミケの横で歩いていたセルバンテスは生い茂った葉の隙間から見える空を見上げながら作戦を考えてみたが、うまく思いつかない。
「うーん、真っすぐミチャロフ三世のところまでいけないのかな」
半ば無理だとわかりつつ、セルバンスは意見を口にしてみる。
アレンは一度その案も考えてみてから、その上で結論を返す。
「さすがの俺らでも、真正面からじゃちときついな」
ミチャロフ三世を殺害する上で必ず――皇帝直属の十二人でのみ構成される直轄部隊が障害となる。真正面から挑めば人数的にも環境的な不利な状況での戦闘を強いられる。それでも勝てる可能性こそ残されているが、最後の局面で仲間を失う可能性があった。
そのため事前に数人を仕留めて間引いておく必要がある。
五人程度殺せれば、残りの人数が一丸となって挑んできてもまず負けない。
そのため、アレンたちはまず直属部隊を殺す寄り道をしなければならない。
加えてミチャロフ三世を殺害するためには要塞とかした宮殿に忍び込む必要がある。
直属部隊が待機しているのは当然のこと、秘密警察の実力者が警備している中を対策なしに進むのは難しい。
「っつうことで、当面はこの二つの課題を解決するために動くことになる。遠回りになるが、必要なことだ」
短くても一か月、長ければ半年程度がかかる任務だ。
長引けば彼らの帰還が遅くなる。残した者たちがいる。今か今かと帰還を待ちわびる者たちが三人にはいる。その中で足踏みをするのは嫌だろう。
しかしそのような懸念を抱いている者は、この場に誰一人としていなかった。いや、いるはずがなかった。
「分かった。じゃあ作戦を聞かせてくれ」
◆
バルト皇国は貴族制の国ではないが、貴族の国だ。制度上は中央集権国家だが、実のところ旧体制の貴族も力を持っている。これはミチャロフ三世の父、ガルモア四世の体制改革が中途半端な形で終わってしまったためだ。
国内では依然として貴族が力を持ち続け、バルト皇国を牛耳っているといっても過言ではない。最近ではミチャロフ三世の手腕によって力が削がれているものの、大貴族は変わらぬ影響力を有している。
そういった皇家への反乱分子がドラカルトとの戦争に否定的な立場を保っているおかげで直接的な戦争はまだ起きていない。バルト皇国がドラカルトとの戦争に踏み切れないのは、帝国の影と貴族たちの反対という二つの力によるところが大きいのだ。
中でもオボレンスキー公爵は貴族の筆頭株であり、皇家とのつながりも深い。
国内の様々な情報が集まるオボレンスキー公爵のもとに集まり、大抵は定期的に開かれる舞踏会で情報の交換や収集が行われる。その舞踏会に潜入し、オボレンスキー公爵のもとに忍び込み情報を盗む。
「それが俺たちの作戦だ」
アレンは簡単に作戦を説明した。
オボレンスキー公爵の舞踏会に忍び込み、懐で情報を盗む、盗み続ける。
「それは……できるのか?」
ドランクが訝し気な視線を向けていた。
オボレンスキー公爵の舞踏会は当然誰でも入れるものではなく、招待制だ。その上で厳しい検査を乗り越えなければ舞踏会に参加することすらできない。そしてもし参加できたとしても、乗り越えるべき関門が幾つもある。
「それに情報を盗むったって、どうやってやんだよ。ミケの催眠魔術か?」
「それもいいが、オボレンスキー公爵は自動防御魔術を側近の魔術師に仕込ませてるからな、万が一気づかれるって可能性もある」
じゃあどうすんだ、といった疑問を含ませた視線をドランクがアレンに向けた。
「オボレンスキー公爵には一人娘がいるらしい。どうも溺愛してるらしくてな、ご息女の前だと腑抜けになるって噂だ」
「じゃあなんだ、その娘をどうにかするのか」
「ご息女は筋肉が好きらしい」
「は?」
アレンの返答が理解できずドランクが聞き返す。
それだけではなく、セルバンテスも驚きで声を漏らしていた。
「ちょ、アレン。そんな作戦成功するわけないよ」
「セルバンテスの言う通りだ。そんなバカげた作戦に意味はねぇ」
最初は場を和ませるための冗談をアレンが言ったのかと思った。しかしアレンの表情は至って真面目で、真っすぐにドランク達を見ている。その異様な雰囲気を感じ取って、ドランクやセルバンテスから笑みが消えた。
「ドランク、これは真面目な作戦だ」
アレンは今までで一度も聞いたことのない低い声で、ドランクに告げた。
「そして、お前の決意にすべてがかかってる」




