第10話 あの夏の冒険④
人間の中には稀に未来を見ることができる者がいる。
朧げながらに未来が視える者。
正確に未来を見ることが視える者。
数分先の未来だけだが、鮮明に未来を捕えることができる者。
数年後の未来を視ることができるが、おぼろげながらにしか視えない者。
未来を視ることができる――とは言っても、視え方は人それぞれだ。
人によっては視えても変えることのできぬ未来に苦しみ、無力感に打ちひしがれ、首を吊るの者もいた。
一人だけではない、未来視を持つほとんどの者が将来に諦観を持っていた。
それは世界の行く末が、戦争や貧困、餓死にまみれていたからだ。
だが、未来は絶対の不変ではない。
未来視を持つ一人だけでは変わらないかもしれないが。
散らばった未来視を持つ人々が集まれば世界を変えることができる。
「そうしてできたのが、私達『統制機関』というわけです」
黒装束の男は、私にそう自己紹介をした。
未来視を持つ者達を集め、世界をより良い方向へと歩ませる。一人の未来視だけでは、世界に干渉するほどの力を持たぬかもしれないが、集まれば最悪の未来を回避することができる。
『統制機関』の存在理由も目的も明確だ。
「あなたの持つ未来視は、成長すれば遠い先の……それこそ何百年という先の未来を鮮明に捕えることができる。アレンさん、あなたは我々が待ち望んでいた人なのです」
だが、正直なところ彼らを信用することはできなかった。
言っていることは、自分も未来を見ることができるから理解できた。
しかしどうにも胡散臭い。
私の顔色や態度から難色を示していることを読み取ったのか、男は続けて説明した。
「そうですね……確かに、いきなり言われても信用しずらいとは思います。なにせ、あなたは未来に絶望していないですから」
男の言葉の意味を、私は少しだけ理解していた。
私が見える未来の中に、戦争が飢餓にまみれた世界線というのは確かに存在している。しかし現状、その未来にたどり着く可能性は低い。男の説明に対して、私は自分でも驚くほど、素直にそのことを告げた。
すると男は『わかっていました』と言わんばかりに、食い気味に返答する。
「それはあなたがまだ未来視の使い方を完全に理解していないからです。どうだろうか、仮にでも私達と手を取り合ってみないかい。まず私達のことを知って欲しい。そして君にはその力の使い方を理解して欲しい。私からの提案はそれだけです」
男が窓枠越しに差し伸ばした手を取ることはなかった。
しかし男の話を一部承諾するのはない話ではない。
刺激の乏しいこの辺境の村で、飛びつかずにはいられなかった。
今思い返してみると、あれは仕方のない選択だったのだろう。
◆
いつの日かを思い出す。
燃え盛る民家や木々の中で、叫び声が響く絶望の中で、ドランクやミケ、セルバンテスが泣き崩れていた。
ドランクの手には妹が抱かれ、手は血にまみれていた。
あるいは両親の遺体の一部が握られていたのかもしれない。
結局、些細な違いだ。
それは、彼にとって初めての殺人であったのだろう。
そしてこれから、彼は、いや彼は傭兵として人を殺し続けるのだろう。
私はそれがわかりながら、ただ黙って眺めていた。
彼らの功罪を、私の身勝手な理想の代償を。
だから、もう引き返すことはできない。
私が俺であるために。
彼らの人生のすべてを贖うために。




