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3ページ:ふたりの王

 魔王――マオ・ミルフィーユ・ストロベリー。

 それはいうまでもなく、ここ魔族領のトップで、普通に生きてるだけじゃ姿をおがむこともできない高貴なおかた。


 とくに魔王城のある魔都は魔族領の最北端にあるから、最南端にある田舎村出身の俺たちとは、立場的にも位置的にも遠くかけ離れた存在。


 ⋯⋯なはずだったんだけど。

 

「わたしが今代魔王のマオだ」


「「――ま、魔王様ああああああああ――ッ!?」」


 いま俺たちは、そんな田舎村から早足で歩いて15分の場所で、そんな魔王様にエンカウトしてた。



「ど、どうしよヒョンキチ? 頭をさげる、ひざまずく、もういっそ土下座するぅ!?」そう言いつつも、思わず後ずさる俺。


 だって気安く話しちゃったし!

 なんなら事故とはいえその体に触れちゃったしっ!


 魔王様は想像よりずっとキレイで優しかったけど、とはいってもこれ以上の無礼を働くと⋯!と、パニクって慌てふためく俺に対して、


「落ち着けデンうろたえんな!オレが横にいる」クールな顔で、堂々と仁王立つヒョンキチ。


 こいつはいっつもそうだ。

 どんなときだって平然としてて、誰が相手でも動じたりしない。


 その姿に俺はちっちゃいころから――と思いつつも。


 そう言ったあいつの横にいるのは、当の魔王様ッ!?


「俺こっちィィィ!」俺は絶叫した。


「んなもん知っとるわあッ!」しかしヒョンキチは怒声をあげるように言う。


「魔王がどうしたってんだデン!マオちゃんは⋯⋯マオちゃんじゃねえか!」


「だ、だけど!そんなこと言っても!」


「うるせえ!現にオレは肩並べて立ってるだろ?」


 まっ、しょーしょー身長はたんねーーけどよォ、とその腰より低い位置でじぎゃく的にはっと鼻を鳴らして言葉を続けたあと、「そうだろマオちゃん?」とヒョンキチは魔王様の腰を横からぽんっと押す。


 それはまるで、数年来の知り合いにじゃれかけるよーに。


 俺は焦った。

 ヒョンキチにもしものことがあったら⋯⋯(あんのバカァァァァァ、誰にでもそんなノリが通用するわきゃないじゃんかぁぁあぁあ!)と。


 そして気づけば、このバカで気のいい相棒の小さな体めがけて、その体を守るようにして俺はダイブしてた。


「ヒョンキチィッ!」


「んな!?何しやがんだデン!?」


 おでこどーしがぶつかる。どんっ、と後ろに倒れ込む途中、ヒョンキチのイヤそーな声がきこえる。

 それでも俺はその顔を抱きしめる。

 だけど次の瞬間、俺の頭によぎったよーな、目をつむるような展開にはならなかったんだ。


 だって、魔王様は、優しく微笑むと、


「ふっ、そうだな、魔王といえども特別扱いワァァァァァァア――ッ!」


「マオちゃんんんんん!?」


「魔王様ァァァァァ!?」


 しゅんっ、と足元から地中に消え去ったんだもの!?


 俺は言う。


「あッヒョンキチ!?だからその草のラインはこえちゃダメだってさっきも言ったじゃん!」


「や、や、やっべぇよデンどーしよう! オレ、魔王様を、落とし穴に落としこんじゃったあーーーー!」



 そう、あれは昨日の夜のこと――。



『もーちょい深めの方がよくね?』


『たしかに。こないだも巨大グマが大根食べに来て畑荒らしてたし、できるだけ掘っといたら?』


 なんて、村のみんなへの置き土産として、俺たちふたりが仕掛けた害獣対策の落とし穴。


 その数なんと二十穴で、目印は他よりちょっとだけナナメった草の生え際のライン。

 その角度はほんのわずかだけど、田舎村の村人ならじゅーぶん見分けがつくからまあ、俺たちなりの恩返しのつもりで。


 なんとゆーか、“背にした村に、人知れず置かれた、子供たちからのプレゼント”。

 なんて、我ながら心あったまるいいアイデアだなあ、と思ってたんだ。


 そしてそのぬくもり穴のひとつに、ヒョンキチは、魔王様を。



 突き落としたのだあ――――!



「し、しっらなーーーーい!俺は関係ないからねヒョンキチ!そもそも穴掘ったのおまえの土魔法だし」


「なッ、きたねぇぞデン!おまえも風魔法で手伝ったろが!つーかいま思うとこれおまえのダイブが原因じゃね!?オレじゃなくねッ!?」


「あーーーまた裏切る気もしかして!? 

 こないだの、集会場の村長のイスにオナラの音がするクッション仕掛けたときだって俺のせいにしたの俺、ゆるしてないからねーーーー!」


「おまっ、タヌキじじいと魔王じゃ釣り合うわけねーだろがァァァァァァァアッ!」


 と、日常通り、罪のなすりつけあいをしてると。


「ふむ。これはもしや、民の子の遊び方なのか?」


 とんっ、と地面を軽く蹴る音がして、地中深くから魔王様が草原に降り立った。


(⋯⋯よかった怪我とかはなさそうだ)


 俺は目を正面から合わさないよーに横目で見た。

 そしてここで、ヒョンキチが俺に耳打つ。「はい集合、いったんむこーで話そう」、「うん、いまならまだ許してもらえそーだし」


 ヒョンキチがくいっと背後をさして、俺たちはそろってくるっとキビスを返す。


 なんだかんだいっても俺たちは生まれつきの相棒だから。 

 ちょっとだけ裏切ったりすることもあるけど、最後にはふたりでどんな困難も乗り越えてきたもんね。


 そーして一歩目を踏み出そうとしたとき、


「「――犯人はこいつですから魔王様ッ!⋯⋯ておまっ、裏切ったなこんにゃろーーー!」」


 俺たちは流れる動作で互いを指差していた。

 それから、((もうこーなりゃやけだ!))とばかりに俺たちはもう一度声をそろえる。


「「そもそもこんな世界のはしに、なんで魔王様がいるんだよォォォォォォォ!」」


「そ、それは――」


 と、困った顔の魔王様が、何かを口にしかけた。


 そのときだ。



『女⋯⋯この俺様を足蹴にして、この世界に存在することを許されると思うな』



 男の声が聞こえた。

 それは心臓をわしずかむような、鼓膜をこえて脳を、全身をふるわすような声。


 俺の体の神経すべてに向かって、『ふるえて止まれ』と脳が号令を出させられるような声。

  

 俺とヒョンキチは反射的に上を向いた。

 上半身がむき出しのムキムキほそマッチョがひとり。太陽を背にして雲の隙間に、堂々と立ってる。下には真っ黒でタイトな赤いファー付きのズボン。


 背中には黒と白が対になった羽色の大きな翼が。切れ長な赤い瞳を持つ目は、さらにかっと血走らせて開かれて、その小さな美顔は怒りで歪んでるように見える。


「まさかここまで――、ヒョンキチ、デン」魔王様は言う。そして、


「逃げるのじゃあッ!」


「「ええッ!?」」


 突然、俺たちふたりの首根っこを掴むようにして魔王様が走り出した!


 体が、地面を背中にして宙に浮く。


『まだ逃げるつもりかァ!散れ【天魔の雷】』


 男が何か、魔法の名らしきものを叫んだ。

 それと同時、いまこの瞬間まで晴れ渡っていた草原に夜の帳が下りる。


(そ、そ、空が。月のない夜になった)


 俺は目を疑った。

 だけどそれ以上に、その暗闇よりも黒い雲が男の周囲に集まると、あたり一面の大地めがけて数多の雷が、うなるような轟音が空間を埋め尽くす。


「目をつぶっておれ少年らあ――」魔王様の逃げる足は早まる。


 そして、


(何が起きてるの!? あの翼はホンモノ!? それになんで逃げてるの!?⋯⋯魔王様なのにィ――ッ!?)



 俺はもう、大パニックぅぅぅ!



 だって世界の頂点に出会ってクライマックスと思いきや、さらなる終焉が俺たちの冒険を襲ってきたぁぁぁぁぁぁあ!


「すまぬ少年ら、巻き込む形となった!

 しかし、必ずわたしが安全な場所まで⋯!」


「「マオちゃん!(魔王様)」」


 落雷が俺たちのワキをかすめかけた。

 その音がうしろの地面から響くと同時、顔は見えないけど、きっとひっしの形相で、なんとか言葉をつむぐおねーさんの声が聞こえた。


「魔王様!あーーもういーーやマオちゃん!!

 この先に森があるから、そこまで、とりあえず逃げ、ようよぉーー!きっと、あそこなら、空からは見えずらいはずだからぁぁぁあ!」


「森!?

 そうか、もう少し速度をあげるぞ!」


 マオちゃんの声が耳に届くよりも早く、体が風にのった。

 いや、風になった。

 そう錯覚しそうなくらい、とんでもなく速いスピードで俺たちは景色を置き去りにする。

 

 そしてその直後。

 暗闇がいっそう深くなる森の土を、マオちゃんの足は強く踏み鳴らす。



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