2ページ:15分後
ここは大草原。
俺たちの故郷の、魔族領の最南端にある“田舎村”から続くのどかな大草原。
そこを、イチミリでも早くあの悪夢の村から距離をとるように早足で無言で歩いてると、横のヒョンキチがぼそりと口を開く。
「はーと、ハートはキツいぜじっさい。 デン、お前のカーちゃん相変わらずイタッ⋯⋯ぶっ飛んでんな」
「そうだね我が息子。栄光の階段を駆け上ってね」
「すまん、オレがわるかった」
村を出て草原を歩くこと15分。
俺たちはまるで餅つきの『ぺったん!』『ハッ!』、『ハァァァ』『ぺったん!』くらいのリズム感で交互にため息をついてた。
そして、お互いの傷をえぐりあって肩を落としたところで、
「あっ、そこの草のラインはこえちゃダメ」
「ん?おお、きのーせっかく仕掛けた置き土産だもんな」
ヒョンキチが踏んじゃいけない場所に脚を踏み入れそうになって、あわててそのかかとを別の場所に着地する。
そして、「ふう」と短く息を吐き出す。
そのときだった。
「――<÷〆々|〆々!」
頭上から、よく晴れた天気の空の方から、何やら叫ぶ声が聞こえて俺たちはそろってバッと顔を上げた。
すると、
「――そこを!よけるのじゃぁぁぁぁぁぁあ!」
「「へっ!?」
「わたし、落ちる、そこをどけぇぇぇぇぇえ!」
「「おねーさんが降ってきブッハ――――ッ!!!」」
それは赤いイチゴをクリームに混ぜたような、やさしいピンク色の長い髪の毛先を空に向かって遡らせた、とびっきり美人のおねーさんが、俺とヒョンキチの顔におおいかぶさるように落ちてきたんだ。
このとき、俺は思った。
(やわらかい)
倒れ込んだ俺の後頭部を、ふかふかの大地と草が受けいれて、衝撃を吸収してくれた。
おかげであんまり痛くなかった。
しかも、いや、しかし。
それ以上にふかふかした感触が、いまも俺の顔をむぎゅっと押しつぶす。
(⋯⋯⋯やわらかい)
なんかもーよくわかんないけど、痛みとか吹っ飛んだ。
「け、怪我はないか少年ら!?」おねーさんが地面に両手をついて上半身をがばっとあげた。
その大きな瞳が、俺たちを鼻先でみおろす。
「うへへ――、ッ!? あいや大丈夫だ」と自分の惚けた声にびっくりしつつ、キリッ、ととりつくろうヒョンキチ。
「俺も怪我はないみたい、おねーさんこそ大丈夫?」
「わたしの心配は無用だ、なにせ城を抜け出すときはいつも塔の窓から――」
城?塔?と首をかしげると、「いや、いまのは忘れておくれ。それより少年らが無事でよかった」と目をほそめながら言って、おねーさんは俺たちの体から降りる。
それから草原にぺたんっと座りこむと、「ふぅぅ、散々な目にあったのじゃ」とそのほそい首すじを流れる汗をまっしろなティーシャツのスソでふく。
⋯⋯うわあ、かーさんと違って、お腹にムダな肉がない。
「わたしはマオ・ミルフィーユ・ストロベリーと申すのだが、少年らの名は?」
「俺はデン!8歳!で、こっちが同い年の」
「オレがヒョンキチだぜ!よろしくなマオちゃん!⋯⋯ん?ミルフィーユ、ストロベリー?」
おねーさんが挨拶したのにつられて、俺とヒョンキチも自己紹介を返したものの、ヒョンキチがその名前を繰り返したとき、俺もその名前によーーく聞き覚えがあることに気づいた。
だって、それは。
「ふむ?その顔は知っておるようだな。なら隠すのも時間のムダ」
立ち上がって、水色の生地に白のラインがはいったヒザよりずーーっと短いショートパンツのズレを腰でぱちんっとなおしながら、おねーさんは言う。
「そうじゃ、わたしが今代魔王のマオだ」
「「――ま、魔王様ああああああああ――ッ!?」」
冒険をはじめておよそ15分。
俺たちはさっそく、この世界の頂点に出会った。




