1ページ:いざ冒険へ!
とぅ〜るる〜♪
今日は待ちに待った大冒険の始まりの日だぞーーーーぅっ!
と、語尾に音符マークがついてそーな鼻歌まじりに俺は、真っ白のフード付きローブ(お気に入りの冒険物語の表紙絵を参考にした!)にソデを通す。
ううう、やっぱりかっこいーよなあ、この偉大なる魔法使い感がいい!
なんせこの日のために、かーさんのあらゆる命令に従ってよーやく手に入れた特別な一品だっ。
ああ、冒険を決めてからの、この一年間の苦難の日々の記憶がまぶたの裏に飛び込んでくる。
毎日のお風呂掃除はもちろん、夕飯後のマッサージや皿洗いに裁縫係。
最近ちょーーっとお肉がついてきたかーさんのお腹を後ろから“ぶるぶるぶるぶる”っと揺らす振動係。
――最後のがしんどかったぁぁぁぁぁ。
ぶるぶる、とゆーよりぷるぷる、だったもの!あの肉感!
そんで、何故かじっさいに痩せてるんだからなんとも言えないこの気持ち。
じっさい、このローブの購入に決定打を与えたのは、数値を下げた針の目だったのではないか?
と、恩体重計への感謝をいだきながら、俺は意気よーよーと家を出る。
すると隣の家からちょーど、緑⋯⋯エメラルドグリーンて感じの髪色をした、俺の相棒が出てきた。
自然とお互いを指さす。
「おーーデン、お前も似合ってんじゃねーか」
「ヒョンキチもいい感じじゃん!とゆーかやっぱ黒もありだなー」
「なるよな?明日は交換すっか?オレも白着たいし」
「そーする?」
ははっ、こんな時だけは背丈がおんなじくらいでよかったなーて思う。
むかしから『田舎村の双子』とか『悪ガキさくらんぼ』とか、変なあだ名で村の大人たちから呼ばれてたから。
だけど、これで明日は俺も黒ローブを着た魔法使いだ!
「うっし、んじゃまあ行くか。村のれんちゅーもカーちゃんらも、門のとこに集まってんだろ?」
「みたいだね?」
ヒョンキチがクイっと親指で後ろをさして、俺はそっちを見る。
それから、ひとけのない村の通りを見る。
「とーさんたち“街に買い出し組”は間に合わなかったみたいだけど、他はみんな門にいるっぽいね」
「ったく何企んでんだろーな。ぜってぇロクなもんじゃねーだろ」
「だね〜。かーさんたちが動くと俺の羞恥心はだいたいメーターをふりきるから」
「オレもだ」
なんて悲しいことにふたりで地面を見つめてから、俺たちは村の入り口にある門に向かって歩きだす。
ここ数日、村のみんなの様子がおかしかったんだ。
何かを隠してるのはバレバレで、毎晩集会場にあつまっては、次の日の朝にニヤニヤした顔で俺たちを見る。
この小さな田舎村には赤ちゃんひとりをのぞくと、子供が俺とヒョンキチしかいないから。
そんな俺たちふたりの門出ってことで、村中がおおはしゃぎしてるみたいなんだ。
ってもまあ、それは嬉しいし、感謝もなくはないんだけど。ちょっとした懸念もあったりして⋯⋯。
おもに、村人たちの個性の強さについて。
「やっぱ止まれデン、ストップ!オレはものすごくイヤな予感がしてきた」
歩き出して6歩目くらいで、ヒョンキチが俺の腕をつかんで引き止めた。
「えっ?」
「隠れていくぞ。【透明化】」
それからヒョンキチは問答無用で、ヒョンキチの持つスキルの名前を唱える。
俺たちふたりの姿が景色と同化する。
横を見ると、ヒョンキチん家の窓ガラスには砂利道と花壇しかうつってない。
「どーしたの急に?」
「なんかよ、真っ正面から行くと取り返しのつかない傷をおうことになる、
そんな予感がしてきたんだよ」
「マジで?」
ヒョンキチの勘はよくあたるからなー。
それにぽりぽりと頬をかくその顔を見てると、なんだか俺もそんな気がしてきた。
だから、足音を消して慎重に足を進める。
ヒョンキチの“透明化”は、姿を隠すことはできても、音や砂ぼこりなんかを透明にすることはできないからだ。
と、そのまま無言で30秒くらい歩いて、角にある村人の家を曲がって、村の中央にある門まで続く道にでた。
すると、
「ほらみろよデンなんだよアレ!?
オレらあんなかを通って村を出るんだったんだぜ!?」
「さすがにアレは。俺たぶん出発1秒で、『冒険を引退して余生は部屋でこもって過ごそう』って決意すると思う⋯⋯俺まだ8歳なのに」
数秒硬直したあと、ヒョンキチがこそっと耳打つ。
「⋯⋯⋯うし、横から出よう。このままバックれるぞ!」
「りょーかぃーーーー」
俺たちはくるっとキビスを返した。まるで、いやまるでじゃなくても逃げ出すようにして。
それは背後の、風船やらフリルやら足つき大根やらがいっぱいついた(大根は2本)アーチ型の門の下で、
『ビバッ!悪ガキさくらんぼ!』
『この田舎村から伝説は始まる!』
『英雄の卵、いまカラをわりてここに巣立つ!』
なんて書かれた、三本の大きな白幕を広げて並ぶ村人たちと。
その両脇で柵の上に立って、一段高い場所から、
『我が息子よ⭐︎栄光の階段を駆け上がれ!』
『アッパレ♡わたしの、た・か・ら・も・の♡』
とラメ入りピンク文字で書かれた大旗と、涙をふりしきるふたりのかーさんたちから、目を背けるように。
「よしケツおしてくれ!」
「おっけー、次はそっちから引っ張って!」
俺たちは、家と家の間にある細道を駆け抜けると、冷や汗でびっしょりな手を取り合いながら村を囲む柵を乗り越えた。
そんでいよいよ、そのときは来た。
「出発だな。⋯⋯いってくるわ」
「うん! またいつか⋯⋯帰ってくるからね」
村を見てぽつり呟く。
それから、俺たちは大冒険の旅に出た。




