後輩ちゃんの絶叫
同じ学校に通っているというのだから、校内ですれ違うなんてことはよくある。
今日も同じで、下校時間は三年生から一年生まで一緒なので、あおと生徒玄関で会った。
しかし、人の目があるところでは他人のふりをするようにしているので、挨拶も交わさずに知らんぷりをする。
あおも俺の顔を見て何か動揺した様子だが、話しかけることなく下を向いた。
生徒玄関から校門に向かって歩き出す。
そこには何十人も生徒が居て、俺とあおが仲良く一緒に下校しているようには見えないだろう。
お互い適度な距離間で歩く。
すると、俺の名前を呼ぶ生徒の声に、足を止める。
「よぉ」
「………」
俺があからさまに嫌な顔をして見上げた生徒。笹山だ。
ここは校内なので笹山に会う事なんて当然だ。
しかし、今まで笹山からこんな人目のある場所で話しかけられてことがあっただろうか。
こういう時はきっと、嫌なことを企んでいるに違いない。
「お前、一年の一ノ瀬と付き合ってるらしいな」
やはり、その話題か。
笹山があえて言ったのであろう大きな声で、たくさんの生徒の注目が集まる。
すぐ近くにいたあおも足を止めた。
「はぁ、それは単なる噂です。それに、もしそうだとしたらなんですか?」
ここで今まで通り「付き合ってないです」だけで切り捨ててもよかったのだが、相手が笹山だ。
見るだけでもムカつくので、なるべく笹山の機嫌を損ねるように返答した。
期待通り、一瞬イラつきを見せた笹山は、すぐに笑って大きな声で話す。
「一ノ瀬も見る目無いよな」
その言葉に、後ろのあおがわずかに反応した気がする。
なるほど、とにかくこの人は俺に嫌がらせがしたいらしい。
「というと?」
俺の質問に笹山は得意げに話す。
「だって、明かに釣り合ってないだろ。お前みたいなやつと一ノ瀬が付き合うなんてどんな手を使ったんだ?」
あくまでも、他の聞いている生徒には仲のいい先輩の後輩に対するいじりの会話に聞こえるように、笹山は的確に俺の機嫌を悪くしにくる。
俺も、笹山の言葉に押し潰されそうな気持ちになる。
この疑問は、きっとみんなが思った事だろう。
なんで俺みたいな男が、なんで学園のアイドルと付き合っているんだって。
分かっているさ、俺とあおが釣り合わないってことは。
かなり、惨めな気持ちになった。
でも、あおの見る目が無いって言うのは訂正してほしいな。
俺の事は我慢できるが、関係ないあおの悪口を言われたのでは気が済まない。
ここはあおの名誉を挽回するために………と言うより、さっさと笹山から逃げたいので、「付き合ってないです」とハッキリという事にしよう。
なんで最初からこう言わなかったんだろうと後悔しながらも、俺は口を開こうとした。
「いやー。実は俺と一ノ瀬は付き合ってなんて――
「先輩はっ!!!」
俺の声を、後ろから聞こえた声が遮った。
声の主はやはり、あおだ。
顔を真っ赤にして、笹山に向かってだけではなく、その場に居る生徒全員に大きな声で言う。
「先輩は!凄くカッコよくて、優しくて!いい人で!たまに意地悪だけど、その分甘やかしてくれるし、いつも面倒見てくれて、凄く頼りになって!私なんかといつも一緒に居てくれるから………だから………だから………」
頭が追い付いていないのか、何を言えばわからない様子のあお。
しかし、意思は曲げないようで、笹山の前から、その場に居る生徒の視線の先から逃げるつもりは全くないようだ。
一方、俺や笹山は驚きで声が出ない。
「と、とにかく!先輩が釣り合ってないとか、そんなことないです!むしろ私が先輩に似合うくらいの素敵な人になりたいと思ってます!だから!先輩をバカにしないでください!!」
最後まで言い切ったあおの絶叫は、その場に居た誰よりも俺に響き、心に染みた。
なんで、俺なんかのために………
「っ!?!?!?!?」
理性が戻ったのか、あおはただでさえ真っ赤だった顔をさらに真っ赤にして、慌てて走り出す。
そんなあおの後ろ姿を、生徒たちは無言で見送る。
誰もが困惑する中、笹山が口を開いた。
「え、今の告白じゃね」
「「「うんうん」」」
その場に居た生徒全員が大きくうなづいた。
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