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雫物語~鳳凰戦型~  作者: クロプリ
12騎士選抜トーナメント
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12騎士選抜トーナメント8

「皇の目を発動している相手への攻撃……いくら動体視力が優れていても、普通の人間に対応出来る筈がない。動体視力なんてモンじゃないんだから……攻撃を防ぐより、攻撃を仕掛ける方が数倍難しいわ」


「だな。オレは凰の目を使いこなせちゃいねーが、それでも相手は止まって見えるし、その中でコッチは普通に動ける。体力やら大切なモノやらが奪われていく気分にはなるが、それさえ克服しちまえば動体視力が優れている程度で攻撃が当てれる訳がねぇ! 智美さんは水の力で対策済み……逆に返り討ちにあって終わりだ!」


 悠の攻撃は早い……蒼穹の遊撃軍の騎士の攻撃より早いかもしれない。


 それでもゼークや航太の言う通り、やはり皇の目を発動している智美には掠りもしなかった。


 鋭い金属音が2回鳴った後、智美が反撃に転じる。


 2本の神剣の刀身に、水が纏っていく。


「皇の目を使い過ぎてる。この攻撃で終わりにさせてもらうわ!」


 剣を振った後に追従する水の刃が、攻撃範囲を倍増させる。


 後ろに体重移動させようが、後ろに飛ぼうが威力を軽減出来ない範囲の攻撃。


 会場の殆どの人が、その攻撃の残像程度しか見れていないであろう攻撃……


 神か、神と同じ領域に立った者しか見切れない攻撃……


 の……筈だった。


 高速に放たれる水の刃に斬り刻まれる悠の姿は、そこにはない……


 あるのは、朱い光を纏った男が水の刃を躱し、神剣を弾き、智美に迫っていく光景だった。


「……っだとぉ!」


「ありえないわ……彼が凰の目を持っているか、それと同等の力を持っていない限り……あんな正面から突っ込んで、無事で済む訳が……」


 航太達の驚きを他所に、悠は2本の神剣から繰り出される水の刃の嵐の中を進んでいく。


 無傷な訳ではない……掠り傷程度は受けている。


 それでも、その歩みは止まらない。


「うおおおぉぉぉぉ!」


 悠は叫び……最後の水の刃をボロボロになった鞘で防ぎ……血が流れる腕に力を込め……魂心の力で振り抜いた。


 水の加護の影響で致命傷にはならなかったが、悠の振った日本刀は智美の脇腹を抉っている。


 致命傷を告げる旗を審判が掲げ、智美は戦闘に参加する権利を失った。


「智美さん、大丈夫ですか?」


「ごめん、ジルちゃん。もう回復に入ってるから大丈夫だよ。それにしても、油断しちゃったのかな? 皇の目の発動時間を気にしちゃって、攻撃が雑になっちゃったのかも……」


 心配そうに駆け寄って来たジルに笑顔を向けた智美は、血が止まり始めている脇腹を見せる。


「良かった……智美さんが回復特化の神剣使いで……」


「ジルちゃん、まだ戦闘中だよ……油断しないで。でも、無理はしないで。命を賭ける程の大会じゃない。相手は、命を賭けてるかもしれないけど……」


 そう言うと、智美は促されるままに場外へ連れて行かれた。


 その様子を見ていた悠も、かなり疲労したのか膝を地面に付け、肩で息をしてる。


「大丈夫? コッチも被害甚大だね……休む時間、くれればいいんだけど……」


 額から汗を流し、覚束ない足取りで美羽は悠に近付く。


「大丈夫……って言いたいトコだけど、思うように身体が動かない。ロスト・ギア・システム……人が神の領域に手を突っ込むんだ。この程度で済んで良かったと思うべきなのかな? 相手からしたら、こんな絶好機を逃す筈がないが……」


 悠は言葉を止めて、残された力の限りで地面を蹴った。


 無駄のない動きで美羽との距離を詰めたジルは、ティルヴィングを上段に振りかぶる。


 息の整っていない美羽はジルの動きに対応出来ず、身体を固まらせた。


 振り下ろされるティルヴィング……押し出されるように後退する美羽……2人の間に割って入る人影……


 ティルヴィングの軌道に入った日本刀は粉々に砕け、悠の胸は斬り裂かれた。


「悠くん!」


 目を見開く美羽……


 驚きの表情を見せたのは、ジルも同じだった。


 いくら疲労が残っているとはいえ、騎士見習い如きの自分の剣撃を、今まで皇の目を相手に互角にやり合っていた人が対応出来ない訳がない……


 美羽を護りに入って来る事は予想が出来た……だからこそ……


「ジルちゃん! 美羽ちゃんにコツンってして! 早く!」


 智美の声を聞いたジルは、無意識に言葉に従っていた。


 ティルヴィングの柄で美羽を叩くと、力なく美羽は倒れ込む。


「勝者、智美、ジルヘルミナ!」


 勝利者のコールが終わるか終わらぬかのうちに、智美は瞳を蒼くして悠の元へ跳んだ。


 自分の治癒を中断し、皇の目で増大させた水の力を悠の傷に注ぎ込む。


「智美さん……」


「美羽ちゃん、絶対に助けるから……そんな心配そうな顔しないで!」


 笑顔を向ける智美……そんな智美を心配する視線が2つ……


「智美さん、自分の傷も塞がってないのに!」


 ジルは持っていた応急処置用の綺麗な布で、まだ血が滲み出ている智美の脇腹を抑える。


「ありがとう、ジルちゃん」


「ありがとう……じゃないですよ。自分の事も大切にして下さい」


 そんな2人のやり取りを上から眺めていたぜークは、首を横に振った。


「智美……貴女は、やはり戦闘に出てはいけない。戦場での優しさは、自らの悲劇に繋がる。そうならないように、護らないと……」


 誰に言う訳でもなく、ゼークは呟いた。

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