12騎士選抜トーナメント7
ガキキキィィィ!
激しい金属音が会場に響き渡り、2本の神剣から繰り出された一撃を日本刀で辛うじて受けた悠は後方へ弾き飛ばされた。
「なんて力だ……皇の目を使うと、ここまでパワーも上がるのか! タフティ・ムジークで精神の活性化をしていても、防ぐのが精一杯だ!」
唄う美羽の隣まで転がった悠は日本刀を左手に持ち替えて、少し痺れが残る右手をユラユラさせる。
一連の動きを観客席から見ていたゼークは、目を見開いて驚いていた。
「ちょっと……どうなってるの? 智美の一撃、皇の目を使ってたわよね? 絵美の言う通り、あの刀が神剣じゃないのなら……なんで折れてないの? 歌の力は、スピードじゃなくパワーを奪うって事? でも、そんな風には見えなかった……」
「悠くんの刀は、神剣じゃないよー! それに、ミワちんの歌に力を奪うような効果は無いってー! 彼は2度、死のうとした。死にたくなるぐらい追い詰められた。パフォーマンスで自分を傷つけた訳じゃない。一度は本気で身投げをして、一度は同じ奴隷の娘が殺されそうになった時、自ら主の刃を受けた。あの時は、私達の到着が遅れてたらホントに死んでたかも。でも、絶望して……その後に希望に出会って、彼は立ち上がった。その時に覚醒した力……凄まじい程の動体視力が、彼の力だよ」
確かに皇の目を使った時のスピードは、普通の人間に追えるモノではない。
遠くから見ていても、姿が消えたと錯覚する程のスピードだ。
正対している状態であれば、瞬間移動しているようにも見えるだろう。
その状態から放たれる神剣の一撃……しかも、智美は二刀流だ。
無傷で躱すのは不可能に近い……更に、刀で2本の神剣の攻撃をガードするなど現実的でない。
いくら動体視力が優れていようが、ガードした刀は豆腐の様に崩れて、その身体に刃は吸い込まれる筈である。
「悠様……とおっしゃいましたね。彼、刀を後ろに引いて力を逃しましたね。更に自ら後ろに飛んで、ダメージを最小限にした。歌の効果としては、相手の攻撃による恐怖を緩和させて、冷静に対処出来る程度……ってトコでしょうか?」
「さっすがテューネ! 実は私も、詳しい事はよく分からないんだけどねー」
何も考えてない笑顔で豪快に笑っている絵美を横目に、航太も真剣な表情で悠の姿を視界に捉えていた。
智美は戦闘向きではない……それを考慮しても、皇の目を使った攻撃を生身の人間が防いだ事に、航太は衝撃を受ける。
悠が神話の世界に来て、一時期奴隷だった事を考えたら、戦闘訓練を受けたのは何日程なのだろう?
一真やガラードやフレイヤなど、超一流の騎士が在席している騎士団で訓練を受ければ、短期間で強くなる事も可能かもしれない。
絵美の言う通り、精神に異常な負荷がかかった後に解放された事で、何らかの特殊能力に目覚めた可能性だってある。
それでも、やはり異常だ。
一真の凰の目を使った状態とは差があるとはいえ、実戦経験を積んだ後に凰の目と神剣を使っていない一真に3人がかりで掠り傷1つ付けれなかった事を考えると、今の悠の実力は驚異でしかない。
皇の目を発動した相手の攻撃を、実戦経験の乏しい神剣も持たない人間が防いでしまったのだから。
「やりきれねぇな。死にそうな経験や、惨めな経験なんて星の数ほど受けてきたつもりだったが……それよりも、死を受け入れて死ぬ経験をした方が強くなるなんてよ……」
「もちろん、それだけじゃないんでしょうけど……自分を追い詰める事で得られる力、か……」
ゼークは、雲の無い蒼天の空へ視線を上げた。
意図的に自分を追い詰める事は、限界がある。
身体か精神が壊れる前にブレーキをかける命令が出せる様に、人間の頭は出来ているのだから……
でも、意図的じゃなく恣意的に最大級の負荷を自らにかけられるのなら……
「ゼーク、変な事を考えるんじゃねーぞ! 何の為に、ベルヘイムが2人組での大会を開催しているのか……オルフェ将軍が複数で戦う事を推奨しているか……個人の弱点を複数なら克服出来るからだろ? だからオレの神剣の力は、今はゼークの力でもあるんだぜ!」
「ありがとう……頭では分かってるのよ。無い物ねだりしても仕方ない。航太の言う通り、弱点は補ってもらえばいいって事も分かってる。でも……」
ゼークの視線は、再び舞台で戦う4人に向けられる。
皇の目による攻撃を、悠は防いだ。
ただ、防いだだけだ。
神剣を持つ2人に対して、悠はまだ攻撃を仕掛けられていない。
ゼークの思いを汲み取ったかの様に悠は日本刀を構えると、大地を蹴って智美に向けて動き出した……




