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雫物語~鳳凰戦型~  作者: クロプリ
12騎士選抜トーナメント
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12騎士選抜トーナメント6

「ジルちゃん……相手の戦い方、頭には入ってる?」


「ええ……始めて見た時は驚きましたが、なんとかなりそうです。1人が攻め、1人が守りと分かれているから、それさえ分かっていれば……」


 ジルはティルヴィングの柄を握り締め、異質な格好の2人に目を向ける。


「ニホントウって言ってましたよね? 美しいですけど、それ以上に恐ろしい剣ですね。耐久性を削ってでも、攻撃に特化させている様に見えます。それに流れる様な刃は、斬り払った時に威力を発揮しそうですね」


「正解だけど、日本刀の鞘は攻防一体。軽い鞘は刀を抜きやすく、扱いが容易い。日本刀の鞘はバスタード・ソードとかの鞘と違って、攻撃から防御まで幅広く使えるわ。そして彼は、鞘の扱いが上手い。全身に注意して」


 智美の緊張感のある言葉に、ジルは頷く。


「智美さん、お久しぶりです。あの……以前はお世話になりました。何も知らなかった私に、色々教えてくれて……今は、なんとか生活出来てます」


「美羽ちゃん……見違えたわ。凄く逞しくなった。だから、今日は本気でいかせてもらうわ!」


 美羽は微笑むと、智美に向かって軽く一礼した。


 その立ち振る舞いは、余裕すら感じられる。


「智美さんのお知り合いの方……魔法使いなのでしょうか? 剣も持たず、魔法の杖の様な物しか持っていませんね……」


「ええ……でも、魔法って簡単に習得出来るモノなのかしら? ルナちゃんも数ヶ月の間に凄い魔法使いになっていた。でも……何の知識も無い女の子が、短い期間で強敵集まるトーナメントを勝ち上がれるぐらいの魔法を使える様になれるモノなの?」


 智美は、ルナが大事そうに抱える魔法の杖を凝視した。


 先端には魔法の杖らしく、丸い宝玉の様な物が付いており、反対側の先は鋭く尖っている。


「杖の反対で突く事は可能だと思うけど……これまで、彼女が戦っているシーンがないから分からないわね。ジルちゃん……これまで通り、油断しないで1人づつ倒していくよ!」


 智美の言葉にジルが頷いた瞬間、試合開始の合図が鳴った。


 これまでの試合と同じ様に美羽は後方に跳び、日本刀を構えた男が前に踊り出る。


 これまでの試合を研究していた智美は、その動きを読んでいた。


 一瞬、智美の背中に水の翼が現れ……羽ばたく。


 水の翼が消えると同時に水飛沫が舞い上がり、智美の身体は一瞬で男の脇を通り過ぎて美羽に迫る。


「美羽ちゃん……悪いけど、先に倒させてもらうわ!」


 草薙剣が水の刃を纏い、地面に杖を突き立てた美羽の腹部目掛けて振られた。


「な……剣が止められた?」


 草薙剣が……水の刃が美羽の腹部に到達する事はなく、赤い光に剣が絡みとられている。


 魔法の杖に取り付けられた赤い宝玉が光り、その光りの膜が美羽の身体を護っていた。


 草薙剣から発していた水の刃は光に当たると消失し、赤い膜は物理的な攻撃を防ぐ。


「やっぱり……智美さんは凄い! これまで、私に剣が届く事なんてなかったのに……悠くん、言った通りでしょ? 智美さん達は、油断出来ない相手だって」


「ああ……とんでもなく早い。アーサー様やゲフィオン様に稽古をつけてもらってなければ、混乱していたと思う。けど……俺達だって聖凰を護る剣と盾、無名の聖凰騎士ですら強い事を証明する。その為には、まだ負けられない! 美羽、この戦いからは全力でいく!」


「そうだね……緊張するけど、やるしかないよね……」


 大きく息を吐いた美羽は突き立てた魔法の杖に腕を伸ばし、宝玉に手を掲げる。


 突き立てられた魔法の杖から赤い光の線が地面を無数に這回り、闘技場の端まで到達すると輝きが増す。


「これは……魔法陣? 智美さん、範囲魔法です! 一度戻って下さい! 効果を確認しないと……」


 危険を感じていた智美は、ジルの声を聞く前に後退を始めていた。


「こんな大がかりな魔法……何をするつもり?」


「本人の力か、杖の力か分かりませんが……範囲魔法であれば、敵にバフがかかるか、私達にデバフがかかるかのどちらかです。どちらにしても、その効果を見極めないと危険です!」


 智美達が後退した事を確認した美羽は、静かに目を閉じる。


 そして、その口が開き……綺麗な音が溢れ出す。


 と同時に、その手に赤い宝玉から流れ出た光が6本の弦を備える弦楽器を形作る。


 細く可憐な指が弦を弾き、綺麗だが力強い歌が闘技場内に響く。


 闘技場の舞台に張り巡らされた赤い光は、いつの間にか虹色の光に変わり輝き出している。


「歌? 知ってる曲だ……強大な敵に立ち向かう為者に……そんな勇者を応援する為に作られた……歌」


 智美にとっては、聞き慣れた曲だった。


 オリンピックやワールドカップなど、大きなスポーツの大会の前に必ずといっていい程流れる曲……聴いているだけで勇気や希望を感じ、与えられるような……そんな曲。


 その曲は当然、日本刀を持つ男の背中を押す。


 智美達には、逆に圧力がかかる。


 スポーツをしている時に、相手側の応援の迫力が凄い時の感覚に似ていた。


「これ……戦い辛いですね。凄く良い曲なのに、明らかに私達に向けられていない事がわかってしまう……なんだか、気力ごと奪われて行くような……」


「ジルちゃん! 気持ちを強く持って! 何が始まったのか……最初は分からなかったけど、これが敵の神剣対策……神剣の力は、精神力に左右される。このままじゃ……」


 鋭く振られた日本刀の斬撃を紙一重で躱した智美は、更に後ろに下がって距離をとる。


「歌をこんな風に使うなんて……けど……」


 神剣使いに、神剣の能力を発揮させない戦略は間違いないと思う。


「けど、こんな戦法……使えるのは私達ぐらいよ……神剣の力を封じたって、カズちゃんとかオルフェさんとか……剣の達人には通用しない。神剣が無くても強い人なんて、沢山いるのよ……」


 それこそ身近なところで言えば、航太とゼーク相手に通用するのだろうか?


 歌を歌っている美羽に、日本刀で戦う男……


 仮に日本刀を使う男がゼークと互角ぐらいの力があったとしても、航太分で負ける。


 それに……


「悪いけど、私の力は神剣だけじゃない。まだ制御しきれてないけど、この力なら!」


 智美の背中に、水の翼が現れる。


 閃光の如き動きで日本刀を持つ男の前に移動した智美は、2本の剣を同時に振るった……


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