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143話 釣竿だけど!?

「この街に出没しているという魔物と人魚ちゃんが探している人魚さんは同一人物だ!」


 主張する次郎衛門。

 何故その結論に辿りついたかと言えば切っ掛けは人魚さんの足が8本あるという情報だった。

 8本足と言えば思いつくのは地球、というか日本ではタコ焼きの具材として名を馳せているタコと呼ばれている生物だろう。

 しかし9話でも説明しているがこの世界ではイカやタコといった生物は魔物として認識されているらしい。触手プレイという単語に惹かれるものがあった次郎衛門はその事をしっかりと覚えていたようだ。

 そういった面から次郎衛門はタコの下半身を持つ人魚さんが魔物として認識されてしまっているのではないかと思い至ったのである。 

 こうしてようやくブルックス伯爵の依頼と人魚ちゃんの姉である人魚さん改めタコさん探しに本腰を入れ始めた次郎衛門達。

 

「ほむほむ。つまりカップルが襲われやすいという事か」

「ええ。そうなりますね」


 ブルックス伯爵から魔物改めタコさんの情報を聞きだす次郎衛門。

 タコさんは主に幸せそうなカップルを妬んで襲っているらしい。

 被害者の80%はこれに当り、残り20%は若い男性が一人きりになったところを襲われているっぽい。

 前者は妬みによる犯行で、後者は至って真面目に結婚活動しているといったところだろうか。

 被害者の数の割には怪我人は出るものの死者は出ていないようだ。

 ギリギリのところで踏みとどまれる理性はまだタコさんに残っているのかも知れない。

 しかしながらこのビーチに訪れたカップルの破局率は脅威の98%に達するらしい。

 その話が口コミで広がり観光収入が激減した結果、ブルックス伯爵の嫁も実家に帰ってしまい破局率を僅かながらも上昇させていたりする。

 まぁ、甘いロマンスを期待して旅に出てみれば魔物扱いされて婚活どころか異性どころか人ふれあう機会すらまともに持てなかったであろうタコさんの気持ちも分からないでもない。

 その他の情報は上半身が美しい女性の姿で下半身が気味悪げな触手だという事や、おっぱいが大きいといったようなのばかりで人魚ちゃんから得られた情報と大きな差は見られない。


「出て来る情報にちょいちょいおっぱいが大きいってのがあると男としては気になる部分ではあるよな」

「そ、そうですかね?」

「私もその辺りの事は何とも言えませんよ。ハ、ハハハ」

「マルローネの胸は小さい。それ故に大きな胸というものに余も多少の興味は…… ないのである」


 呟く次郎衛門に対して男性陣は何とも言えない曖昧な表情で笑って誤魔化す。

 どうやら彼等は周囲に女性陣の目もあるので素直に賛成出来ないらしい。

 ダインに至っては脇腹に思いっきりナイフが刺さっていた。

 どうやら嫁のマルローネに抉られたっぽい。

 ただ刺したのではなく根元まで刺した後にナイフをきっちり捩じっている辺りにマルローネの本気度が伺えた。

 抉られたのがダインであったから良かったものの他の人間だったなら致命傷になっていただろう。

 といった様な談笑を交えながらタコさん捕獲作戦を練り上げて行く次郎衛門達。


 そして次郎衛門達が問題解決に向けて準備した物はと言うと。

 釣竿だった。

 それも地球で世界を釣ってた人が使っていた竿よりも太く丈夫そうな釣竿だ。

 巨大な釣竿には餌に当たる部分にはシグルドと人魚ちゃんが一括りに縛り付けられていたりする。


「ジ、ジロー殿ぉ!? 何ですかこれは!」

「釣竿だけど?」

「それは見れば分かりますって! 私が聞きたいのは何で私と人魚の少女が縛られているのかという事です!」


 我が身に押し寄せる嫌な予感に見ていて哀れになるほど必死なシグルド。

 対照的にイケメン王子と密着という展開にここぞとばかりにシグルドにしな垂れかかる人魚ちゃん。

 そんな人魚ちゃんに静かに嫉妬の炎を燃やす僕っ娘と魔女っ娘。

 ちなみに騎士っぽい少女はこの場にはいない。

 「どんぱい!」事件の影響で寝込んでいるらしい。 


「なぁ、シグルド。本当に分からないのか?」

「……」


 次郎衛門の問いかけに沈黙するシグルド。

 彼も本当の所は分かっているのだ。

 己と人魚ちゃんがタコさんを釣り上げる為の餌であるという事は。

 人選が何故にシグルドと人魚ちゃんであるかと言えば。

 普通の人間のカップルよりもイケメソ王子x人魚のカップリングの方がより人魚さんのプライド効果的に刺激するだろうという事なのである。

 相手の人魚が実の妹であるなら尚更だろう。

 そういった意味では餌の人選は間違ってはいないと言える。

 まぁ、仮にも一国の王子を餌扱いして良いのかという疑問はあるし、事情を理解しているからと言って実際に餌にされる事に了承出来るのかと言えばそんな事はないのだろう。

 

「よっしゃ! 準備完了だ! それじゃ行くぞ!」


 そう言い放つなり次郎衛門はラインの部分を握るとイケメン王子&人魚ちゃんの塊を頭上で振りまわし始める。 


「うわあああああああ!? ジロー殿おおおおお!」

「うっぷ! これ気持ち悪いいいいいい!」


 二人の悲鳴もなんのその。

 次郎衛門は構わずに遠心力を利用しドンドン勢いを加速していく。


「も、だめ! 吐く! はぐうううう!」


 人魚ちゃんの悲鳴が響き渡ったところで二人は海の彼方へとフライアウェイ。

 何やらきらきらと陽光に光る物体を撒き散らしながら飛翔する二人の姿は幻想的だった。


 そして―――――


 釣竿も二人と一緒にフライアウェイ。


 どうやらラインの長さが足りなかったっぽい。


「クハハ。た、たまにはこんな失敗もあるわな」


 釣竿と二人とが消えて行った方角を見ながら誤魔化す様に笑う次郎衛門。

 当然の様にジトっとした視線が次郎衛門へと集まる。


「たまには? へぇ、ふ~ん?」


 フィリアの辛辣な言葉が次郎衛門に追い打ちを掛ける。

 ここぞとばかりに僕っ娘や魔女っ娘も非難めいた視線を向けている。


 このままでは次郎衛門は人二人を海に捨てただけになる。

 これは地球では勿論の事、この世界でも普通に犯罪である。

 その内の一人が人魚なので溺れ死ぬという事だけはなさそうなのが救いではあるが。


「よっしゃ! 一度仕切りなおすか! 拾って来るわ!」


 逃げる様に海面を走り出す次郎衛門なのであった。


「と、言う訳で回収してきた。何故かこいつ等死に掛けてるっぽいからフィリアたん治療を頼むよ」


 何事もなかったかの様に二人を担いで戻って来た次郎衛門。

 回収されてきた釣竿はボロボロで、イケメソ王子と人魚ちゃんと言えば何やら白目を剥いてぐんにゃりとしていて動かない。

 それも当然だ。

 何しろ凄まじい勢いで海面に叩きつけられたのだ。

 その結果全身を良い感じに釣竿は壊れ、二人は複雑骨折してしまったらしい。

 そしてフィリアに治療される事になったイケメン王子と人魚ちゃんなのであった。


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