141話 当らないな!?
「それで人魚ちゃんは何であんな所に一人で居たんだ?」
人魚娘改め人魚ちゃんに問いかける次郎衛門。
人魚達は海底に結界を張りその中で暮らしており、その結界内から出て来る事はほとんどない。
もしも出て来る事があるとするならば結婚適齢期を迎えた人魚が恋人を探す場合くらいなのだ。
しかし人魚ちゃんの未発達な胸を見る限りまだ恋人探しには多少早いように思える。
まぁ、既に人魚ちゃんの胸がピークを迎えている可能性もなくはないが、そこは追及しないのが男の優しさだろう。
そんな次郎衛門の不躾な視線に気付いた人魚ちゃん。
ムッとしながらも頬を赤らめながら胸を隠す。
「じろじろ見てんじゃないわよ!」
「痛ぁ!」
人魚ちゃんの態度に気が付いたフィリアが次郎衛門の頭を引っ叩く。
頭を擦る次郎衛門の様子を見て気を取り直した人魚ちゃんが口を開く。
「実は私の姉を探しにやってきたんです」
人魚ちゃんによれば3年前に適齢期を迎えた姉が恋人探しの旅に出たまま音信不通になっているのだという。
この世界では基本的な連絡手段は手紙か通信用魔道具くらいしかないので音信不通が当たり前ではあるのだが、流石に3年もの間何の音沙汰もないというのは帰りを待つ家族が心配をするには充分な期間であるらしい。
そんな訳でいよいよ我慢が出来なくなった人魚ちゃんは結界から一番近くにあるこの街へと情報を集めに来たのだという。
「ほむほむ。なるへそ。となると人魚ちゃんの姉さん、略して人魚さんで良いか。人魚さんの今について考えられる事は幾つかあるな」
「幾つかですか?」
「おう。パッと思いつく限り上げて行くぞ。
1、恋人を見つけて上手くやっている。
2、恋人が見つけれず今も婚活中。
3、誘拐された。
4、魔物に食われた。
5、人間に食われた。
ざっとこんな所かな」
1や2はまともな意見だが3から先がかなり酷い。
特に5は最悪だ。
「何ですか。人間に食われたって…… 」
「俺の生まれた世界では人魚の肉って食べると不老不死になれるって言い伝えがあるんだよ。他にも性的に食べちゃうって事も考えられるな。最悪の場合、性的に食べちゃった後で食事として食べるって事もあり得るかも知れないなぁ。魚肉も秘肉も御一緒にってところか。そうなると食事として食べる時は白いドレッシングがぶっ掛けられてるのか…… うん。俺なら吐くな」
何だか無茶苦茶鬼畜な事を言い出す次郎衛門。
これには人魚ちゃんどころかその場にいる全員がドン引きである。
特に人魚ちゃんの顔からは血の気が失せている。
どうやらその状況を想像してしまったっぽい。
実の姉がそんな末路を辿っているだなんて想像ですらしたくはなかっただろう。
「そ、そんな事は絶対にあり得ないんだから! 水魔法を自在に操れる人魚は水中なら無敵なの! 特に姉さんは一族でも一番強かったし。3、4、5は絶対にあり得ないわ!」
気丈に声を振り絞って主張する人魚ちゃん。
何時の間にかタメ口で声を張り上げている。
しかし水中で無敵状態であった筈の人魚ちゃんはあっさりと次郎衛門に捕獲されている。
説得力はかなり微妙なところだ。
「3、4、5以外となると2の可能性が高そうではありますね」
魚肉も秘肉も御一緒にの衝撃から立ち直ったシグルドが言う。
シグルドの言う通りだった。
1で上手く行っていたのだったのならば音信不通になる理由がない。
逆に2ならば人魚さんのプライドが家族に連絡をとる事を躊躇わせていると考える事も出来るからだ。
となると人魚さんのルックスが悪いか内面が悪いという考えに辿りつく。
「ほむほむ。つまり人魚さんは見た目がブスか性格ブスという可能性が高いのか、いや、その両方という可能性もあり得るか…… うん。まぁ、人魚ちゃん。あれだ…… 人魚さん探し頑張ってな!」
そう言いながらあからさまにテンションの下がって行く次郎衛門。
どうやら人魚さんがブスかも知れないという時点でこの話題はどうでも良くなってきたっぽい。
「ちょ!? 何で急にフェードアウトしようとしてるの!?」
「だって他人事だしさ。俺は一応立場上はこの辺を荒らす魔物を何とかしないといけないんだよ。だからブス探しは手伝えないんだ」
どうやら次郎衛門の中で今回の方針が決まったようだ。
「逃がさないわ! 私を傷者にした責任とって姉さんが見つかるまで付き合いなさいよ!」
必死に縋りつく人魚ちゃん。
確かに傷を付けたというのは嘘ではない。
嘘ではないがその言い方だと少し誤解を招く可能性がありそうだ。
ただ、女性としての価値は傷だけでは決まらないと思いたいところだ。
まぁ、海産物としての価値ならば傷の有無で凄い差が出るとは思うが。
「こら、離れろって! 色々と柔らかい部分が! …… 当らないな。 何だかヌメッてるし生臭ぇ。…… まじで離れてくんね?」
普段なら喜びそうなシチュエーションだというのに珍しく嫌そうな次郎衛門。
そんな次郎衛門の態度が余計に人魚ちゃんを逆上させていく。
「ああ! それ言っちゃうの!? 気にしてるのに! 人魚にそれ言うのはタブーなのに! もう絶対離して上げないんだから!」
どうやら人魚に対してヌメッてるとか生臭いといった話は禁句のようである。
がっちりと次郎衛門にしがみ付いて離れない人魚ちゃん。
そんな二人に一人の幼女が歩み寄る。
そして――――
「この阿婆擦れが! 馴れ馴れしくパパに触るんじゃない!」
「ぐふ!?」
アイリィの腹パンが人魚ちゃんの鳩尾に突き刺さる。
どうやら人魚ちゃんの次郎衛門への過剰な密着がアイリィの嫉妬心を刺激していたようである。
ちなみに実はフィリアも表情にこそは出してしないが密かに拳を握りしめていたっぽい。
もしアイリィが動いていなかった場合はフィリアが動いていた事だろう。
勿論その場合の矛先は次郎衛門だ。
紙一重の差で実は次郎衛門はアイリィに救われたのである。
そして吹き飛ぶ人魚ちゃん。
派手に砂柱を上げ、バウンドを繰り返し、海へと飛び出してゆく。
水きりの要領で数百m程の間何度も海面で跳ねた後に、一際大きくバウンドして巨大な水柱と共に着水し、海面に浮かんだのだった。
8月14日に「生際防衛隊のちょっと小話」という作品も二カ月ぶりに一話だけですが投稿しました。
おっさん作者の体験を元に一話完結型のショートコメディです。
一話が3000文字程度なので瞬発力はあると思います。
身近に起こり得る小さなファンタジーで笑ってみたいという方は是非どうぞ!




