121話 それだけで御飯三倍はイケます!?
何時の間にか投稿を初めて一年が経っていました。
これ程までに続けられたのは一重に読んで下さる皆様のお陰です。
これからも宜しくお願いしまっす。
ここはドルアーク王国から遠く離れた大森林地帯に存在するエルフの大集落だ。
そのエルフの大集落は今、滅亡の危機と言っても良い状況に瀕していた。
とある幼女と美少女の手によって。
「おい! 貴様はやはり邪竜の信徒だったのじゃなー!」
「違うっての!」
「ならば何故貴様の娘や部下とやらは我々エルフにとって掛け替えのない大森林を破壊しまくるのじゃー!」
「多分あいつ等は俺の事を探しに来ただけだと思うぞ。いやぁ、愛されてるなぁ、俺」
アイラの凄まじい剣幕に若干押され気味の次郎衛門。
だがその姿は何処となく嬉しそうだ。
地球では邪険にされる事はあってもわざわざ次郎衛門を探してまで会いに来る者はいなかったのだ。
それが義理とは言え愛らしい娘と、人外とは言え美少女が環境破壊をも顧みずに探しに来てくれているのだ。喜ぶのも仕方がない事だと言えるのかも知れない。
だが実際に故郷を蹂躙されまくっているエルフ達にとっては迷惑この上ない状況だと言えた。
「さっさと出て行けーと言いたいところなのじゃがそう言う訳にもいかないのじゃー! 盗んだ物をさっさと返すのじゃー!」
「盗んだもの? 何のこっちゃ?」
「…… 惚けるではないのじゃー! この位の大きさの宝珠を盗んだ事はお見通しなのじゃー!」
「いや、知らんけども?」
「…… 惚けるではないのじゃー! この位の大きさの宝珠を盗んだ事はお見通しなのじゃー!」
「いや、知らんけども?」
「…………惚けるではないのじゃー! この位の大きさの宝珠を盗んだ事はお見通しなのじゃー!」
「いや、だから知らねぇって言ってんだろが!」
エンドレスに同じ質問を繰り返すアイラにイラついた次郎衛門はアイラのエルフ耳を引っ張ったりクニクニと弄びだす。
「ぬお! 何をするのじゃー! 止めるのじゃー!」
「いいから結界を解け! じゃないとこの集落の全てが灰燼に帰す事になりかねんぞ!」
「くぅ! わ、分かったから手を離すのじゃー! これ以上されたらお嫁に行けなくなってしまうのじゃー!」
次郎衛門のテクニックの前にあっさりと屈っするアイラ。
次郎衛門のしている事と言えば単純にアイラのエルフ耳を弄んでいるだけなのに息も絶え絶えな状態で艶っぽい声を上げている。
ちなみにエルフの集落を今正に滅ぼし掛けている者はぶっちゃけると次郎衛門を追ってきたアイリィとピコの二人である。次郎衛門は己の意志と無関係に飛んできただけなのでエルフの集落に辿り付けてしまったのだが、彼女達は次郎衛門の魔力を追ってここまでやって来たものの集落を覆っている方向感覚を狂わせる類の結界によって次郎衛門が滞在しているエルフの集落には辿りつけないのだ。
その結果ピコは次郎衛門を目指して木々をなぎ倒しながらも何度も突撃を繰り返している。
アイリィに至ってはいっその事邪魔な障害物を焼き尽くしてしまえば良いとばかりに森を燃やし始めてしまったのである。何とも短気な幼女もいたものである。
結局アイラは次郎衛門の要求に応じ結界を解いた。
このままでは集落を覆っている森林が喪失してしまう。
いくら方向感覚を狂わせる結界だと言ってもあたり一面が荒野になってしまったりして視認性が増せば結界自体が無意味になってしまいかねないからだ。
それと同時に周辺の木々をなぎ倒す音がドンドンと近づいてくる。
そして火を吐き出し続けていたアイリィも結界の解除に伴い次郎衛門の魔力を感知したようで一目散に次郎衛門を目掛けて飛んで来る。
「パパー!」
「おーい。アイリィたんこっちこっち! って、ゴフ!」
目に涙を浮かべて次郎衛門へと飛び込むアイリィ。
そんなアイリィを受け止めた次郎衛門の目にもほんのりと涙が滲んでいる。
まぁ、次郎衛門の浮かべた涙とアイリィの浮かべた涙は全く意味合いは違っていたりするが。
そして次郎衛門の魔力を正しく認識したピコもやって来た。
ちなみにその辺で次郎衛門に愛でられて足腰立たなくなっているエルフ達を容赦なく跳ね飛ばしたりしてるので周囲はちょっとした阿鼻叫喚地獄に陥ったりしている。
「マスター! 探しましたよ。あまり心配を掛けさせないで下さい」
「おお…… ピコか、悪い悪い」
「いえ、マスターの涙だけでも頑張った甲斐がありました。それだけで御飯三倍はイケます」
「いや、お前って飯食わんだろ。しかも三倍ってなんだよ、三倍って」
どうやらピコは次郎衛門の涙を己の都合良いように解釈したようだ。
照れているのか妙にクネクネとしている。
ただ、基本的に食事の必要がないピコが御飯三杯ではなく三倍と言ったところは気にはなったらしく次郎衛門が思わずツッコミを入れていた。普段はボケ重視の次郎衛門であるがフィリアとパンダロンが居ない状況の今、極自然にツッコミサイドにクラスチェンジしていた。
意外とその辺のバランス感覚は優秀な男なのである。
まぁ、次郎衛門としてはアイリィもピコも真剣に次郎衛門の事を探してくれていた事は疑いようもない為にあまり厳しいツッコミは出来ないっぽいが。
「私にとって御飯といえば魔力の補給に決まっているじゃないですか。本日の補給は普段よりも三倍は濃密な口移しでお願いしますよマスター!」
そう言って唇を突きだすピコ。
美少女にキスをせがまれる。
男なら垂涎もののシチュエーションだ。
いや、男でなくてもこういう場面が気にならない者はそうはいないだろう。
それはエルフであっても同様だった。
固唾を呑んで状況を見守るアイラ及びエルフの若者達もとい少年少女達。
次郎衛門もピコの要求に応えるように構える。
そして力いっぱい振りかぶりピコの顔面に向かってガラス製の瓶に入った魔力ポーションを――――
投げつけた。
ピコと次郎衛門との距離は1mもない。
それなのに次郎衛門ってば躊躇う素振りすら見せずに全力投球である。
当然の如くガラス製の瓶は粉々に砕け散る。
ドロっとした液状の魔力ポーションがピコの顔面及びに胸元にこびり付く。
「ぶっかけるだなんて鬼畜ですね」
ピコはガラス瓶が砕け散るほど思いっきりぶつけられたというのに大したダメージもなさそうだ。
平然と魔力ポーションを舐めとりながらのたまうピコ。
ぱっと見はドロっとした液体をエロティックに舐め取る美少女の図なのでその場にいたエルフの少年達は一斉に前屈み状態に、少女達は後学の為に食い入るように見つめている。
その姿は次郎衛門に思春期の日本の中高生を彷彿させた。
何だかエルフという種族の未来は大丈夫なのかと心配になってくる光景だった。
「うるせぇよ! 微妙に卑猥な方向へ持って行こうとするんじゃねぇよ。第一お前とキスしてもカッチカチだからむしろテンション下がるんだよ!」
相変わらず卑猥チックなボケしかしないピコに次郎衛門は辛辣に言い放つのだった。




