ダンジョンを、進む
場に白けた空気が満ちる。
「と、とにかくさ、そういうわけだからあまりオーバースペックっていうわけじゃないんだよ」
「そういうこと。さ、行こうぜ」
何もなかったかのようにマーツは歩きだし、さも当然のようにアークさんが続く。
「…強いな、アークは」
ヘイルが思わず、といった風に呟く。
「僕はむしろマーツの方に感心するよ」
「どうしてだ?隠し事は誰にもあるはずだぞ?」
「確かに、隠し事は誰にでもあるよ。正直、僕にもあるし、多分ヘイルにもあるでしょ?ってか、あるよね」
「まぁな。でなければあの時口止めしに行ってない」
「だよね。でも、僕には『何か隠してる?』と聞かれたときにあんな風に答えられない。あそこまで堂々としていられない」
「確かに、そう言う意味では凄いかもな」
そう言ってヘイルは笑う。
どちらかというと苦笑に近い感じで。
「普段の言行のせいで未だにマイナスだよ、あいつの評価は」
今度は二人して笑う。
「アレがマーツだから。あの能天気さに救われたこともあったしね」
「できればそんな場面には立ち合いたくないものだな」
「違いないな。さて、その能天気が待っているから行こうか?」
遠くの『空』の入り口の門の前でマーツが手を振る。
「おーい、早くこいよ!」
素直に従うのは癪だったのでわざとゆっくりと歩いていった。
「でもさ、ここってあんまりポイント入らないよな?」
マーツがぼやく。
「そうなのか?アークは何か知ってる?」
「私もあまり知らないよ。でも、みんな『貯まらない』って言ってたよ?」
そう。この『空』は高いポイントを徴収する割に高いポイントを落とすモンスターが少ないのだ。
「そうだよ?だからみんな『海』に行くんだろ?」
どちらも150Fまであるダンジョンだが、『空』はあまりモンスターが湧出しないかわりに宝箱が多くて、一時期は多くの探索者がいたが、あまりに高い入場ポイントのせいで今や閑散としている。
かたや『海』はあまりのモンスターの湧出量が多く、当初は敬遠されがちだったが、攻略法が確立されてからは一気に人が増えて、今ではモンスターの湧出を取り合っているらしい。
らしい、というのは、僕やマーツ、ヘイルにアークさんは滅多にダンジョンに行くことはなく、基本的に高レベルのモンスターが湧出する草原などでポイントを稼いでいるからだ。
「それでも、ボスを倒すと多くのポイントが手に入るし」
「だが、ユウ。いくらボスのポイントが高くても、手間と報酬が一致しないぞ?」
「そんなことはないよ。だからここに来たんだし」
そう
ここでもポイントを稼ぐ方法はある。
誰にも知られてないだけで。
まずは、一番最初のボス部屋に着く。
「んで、どうすんの、ユウ?」
「どうするって、倒すよ?」
「知ってるよ!そうじゃなくて、どう動けばいいんだよって話」
「普通にどうぞ。ただ、ノーダメで倒せるくらいまで見切ってね」
「普通にきちぃよ!つか、普通じゃねぇ!!」
「なぁ、ユウ、マーツ。話しているところ悪いが、相手サンはやる気満々だぞ?」
「大丈夫。こっちから攻撃しない限りあっちから動く事はないから」
「そうなのか?ならいいが」
「じゃあ、作戦としては普通のボス戦と同じ感覚で。目標はノーダメクリアね。時間は大丈夫だから」
そして、この面子で何回起きたかもわからないボス戦に、自ら踏み込む。




