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●46

 それから二十日ほどが経った。防波堤に座って、空と海の狭間を眺めながらランチを食べていた。雲の多い日で、釣り客はまばらだった。少し古くなったクリームパンにかじりついていると、遠くで防波堤によじのぼって立ち上がる人影を見つけた。シロさんだった。ぼくに気づいてるのかどうかはわからなかった。彼は細い幅の上でバランスをとって歩きながら、ぼくのいるほうへ近づいてきた。


「お疲れさまです」先にぼくから声をかけた。昼休みにこんなところへくる奴はぼくしかいないはずだった。


 彼は頷いた。「いつもひとりで食べているのですか? 相沢さんが外へ向かうのを見かけました」


 ぼくは目を(しばたた)いた。おかしくはないはずなのだけど、彼がぼくの名前を記憶していることに違和感をおぼえたのだ。


「ええ。ぼくはひとりで食べます」ぼくは言った。「周囲にひとの気配があると落ち着かない性質なんですよ」


「そうだったんですね。食堂でお会いしたことがないので、いつも気にはなっていました」


 そう言って彼はぼくの背後を通りすぎ、両手を左右に広げながら歩きつづけた。彼が防波堤の端に建つ、ひとの背丈ほどの灯台まで進み、引きかえしてくるのを、ぼくは手を止めたまま呆けたように見つめた。やがて彼はぼくから少し離れたところで立ち止まった。ぼくは海に向かって座っていたのだけど、彼は反対のホテルや街があるほうを向いていた。ぼくはパンを食べるのを再開した。


「駐車場に停めてあったバイクは相沢さんのものだと聞きました」しばらくの無言のうち、立ったまま彼は言った。


 唐突なしゃべりには慣れている。ぼくはそうだと言った。


「カバーがかけてあったのでわかりませんでしたが、中型ですか?」


「はい。二五〇ccです」ついでにメーカーと車種も教えてやった。彼は得心したように頷いた。


「二五〇ccではそれ以上の性能は望めませんよ」と彼は言った。


「ええ。おかげで安くない買いものになりました」


「大丈夫です。法律が変わって四気筒の生産がされなくなりましたから、あと数年もすれば、相沢さんのホーネットの価値もぐんと上がっているはずです」


「ほう」ぼくは自分のバイクのことなど、ろくに知らなかった。摩耗した部品はバイク屋に持っていけば交換してくれたし、ぼくのバイクは滅多に故障しなかった。知識など必要なかったのだ。

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