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ぼくは彼が落ち着くのを待ってから、近くの自販機へ缶の緑茶を買いに行った。精神状態がひどいときはあたたかいお茶に限るという持論があった。戻って一本渡すと、彼は照れたように取り乱したことを詫びた。ぼくらは波打ち際を歩いた。狭いビーチだったのですぐに端っこまで辿り着いた。靴に入るのも構わずに砂を撒き散らしながら歩いていたら、隣の背の高いほうもそれを真似しはじめた。暗闇の向こうにはほかにも何人か観光客の人影があった。折りかえし、半ばまで進んだところでぼくは立ち止まった。
冷たくなった缶を傾けながら、ぼくは彼の望む言葉を言ってやった。彼は表情には出さなかったけれど安堵していた。それで彼にとってぼくの利用価値はなくなったようだった。そろそろ寮へ帰るとぼくが言うと、もう少しひとりで散歩していくと彼は言った。別れ際にぼくに投げた感謝の言葉は本物だったと思う。鍵はわかりやすいところに置いていけばいい、とぼくは言って、きた道を戻った。
変わったのはなにもひとの出入りだけではない。二月から大浴場に備えつけられていたボディソープとシャンプーが、安いものから高いものへと変わった。まったく泡立たない、と客からクレームが入ったのだ。古いボトルと新しいボトルを入れ替える作業で、その日は残業だった。客室には女性用の化粧水が新たに置かれるようになったし、荷物用のエレベーターは故障で三か月ほどつかえなくなった。こうして日々の作業には微々たる変化が訪れ、ぼくのパターン化していた生活に小石を投げ入れてきたけれど、その波紋は直に収まる程度のものだった。ひとの出入りは相変わらず流動的だった。知っている人間が減り、見知らぬ人間が増えた。元々ぼくに声をかけてくる人間は、まだ小夜がここに居場所を持っていた頃に知りあったひとたちだった。変わらぬ関係は徐々に減りつつあった。




