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「まったく参っちゃうよ」船橋さんは開口一番そう言った。「あのじいさんのせいで、今日も休憩時間がほとんど残ってないよ。のんびり昼飯も食わせてくれねえ」勢いは止まらない。「何度おんなじことを言っても、おんなじミスばっかりするんだ。それで上の人間に責任を負わされるのはわしなんだ。こんな理不尽なことってあると思うか?」
ぼくは白髪混じりの角刈り頭を見下ろした。少し近すぎると思って、壁際に一歩後退した。そのまま彼の愚痴を五分ほど聞いていた。時々脇に避けて、食堂を出入りする人間のために道を空けた。桧山さんは片足に体重をのせ、適度に相づちを打っていた。彼がなにも言わないときは、ぼくが相づちを打った。
やがて勢いが収まると船橋さんは口をつぐみ、ぼくらの顔を交互に見た。まるで、ぼくらがなにもせずこの場に突っ立っている理由がわからない、とでも言いたげな目だ。船橋さんは言った。「二人とも、昼飯を食べ終わったところ?」
「はい。ついいましがた終えたところです」とぼくは言った。
船橋さんは頷いた。「きみたち二人にはいつも助けられているよ。アルバイトだっていうのに、社員のだれよりもよく働くし、小さなミスにもすぐ気づいてくれる。本来であれば逆でなきゃいけないんだけどね。うちの社員はお世辞にも仕事に熱心とは言えないものな。まったく。こんな場末のホテルじゃ、わしら社員だけでやっていくのは無理なんだ」そこで船橋さんは桧山さんのほうを見た。「たしか桧山くんは、今月いっぱいで契約が切れるんだったかな?」
「はい。あと十日ほど出勤したら、それでおしまいです」と彼はこたえた。
「そうか。できることならきみたち二人には、ずっとここにいてもらいたいと思ってるよ」そう言って船橋さんは桧山さんの顔色をちらっとうかがった。桧山さんはなにも言わずに微笑んだ。船橋さんは言った。「ここを出ていったら、つぎにどこへ行くかは決まっているの?」
「いいえ。それがまだなんですよ」




