☀️21
「もしもほんとうに」律子さんは唇を舌で濡らし、ゆっくりと言葉を紡いだ。「もしもほんとうに涼ちゃんが知りたいというなら、きっとわたしに断る権利はないわ」
わたしは目を瞬いた。どうして、という質問が喉元から出かかった。律子さんにないというのなら、いったいほかのだれが、その権利を所持しているというのだろう。どこに存在しているというのだろう。
律子さんは顔を上げて、わたしを見ていた。手で抑えていた箇所に血流が戻って、彼女の顔には朱が滲んでいた。それなのに、表情は虚ろだった。瞳には色の抜けた空洞が生じ、そこでなにかが息をしている。わたしはいつものように微笑みかけてほしかったけれど、彼女はそうしてはくれなかった。しばらくして、律子さんはわたしの返事を待っているのだと気づいた。
「律子さんはいやじゃないの? つらいなら、大変なら、あたしのしゃべったことは忘れてよ」
「わたしはべつに構わないのよ。大変なのは、わたしじゃないから」
わたしは悩んだ。なにもかも知りたかったのは言うまでもない。でもその結果、わたしはなにを失ってしまうのだろう。引きかえに、なにを手に入れるのだろう。
わたしは律子さんの目をまっすぐ見すえ、ためらいながらも言った。
「それじゃあ、聞かせてくれる? 律子さんたちのお話を」