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海の緊急事態

 二つ目の宝玉が見つかった事をカイトが王城へ報告に行った。俺達はその間の時間に手記を開いて中を確認していた。




 伝説の地へとまた一歩近づいたようだな、そろそろ竜が何なのか気になってきたんじゃないか?父さんも何となくでしか理解していないが、書ける事は書いておこうと思う。


 サラマンドラ、ニンフ、シルフィード、ゲノモス、こいつらをまとめて四竜と呼ぶ。一癖二癖ある奴らだけど、人に害なす存在では決して無い。


 竜にとって何が大切なのかによって取る行動も変わってくるけどな、そこら辺は臨機応変ってやつだよ。昔エイラちゃんから聞いた事ある言葉だ、間違いない。


 人の為の存在って言っていいと俺は思う。捉え方はそれぞれかもしれんが、俺は奴らの事を気に入っているからそう信じているよ。


 ただ人を選ぶ事は出来ない。伝説の地を目指す者には必ず竜の印を授けるのが定めなんだ。いやまあ良い奴なのか悪い奴なのかなんて他人がちゃんと判断出来るかって言われるとそうでもないと思うが、兎に角、竜に辿り着いた者は必ず印が貰えるってのは覚えておいてくれ。


 竜は大きな力だ、絶対的な力、それだけにどう向き合うのかが重要になってくる。曖昧で悪いな、俺にも言える事と言えん事がある、もどかしいけど勘弁してくれ。


 じゃあな。




 読み終えた後アンジュが口を開いた。


「竜は絶対的な力か…」

「何か気になるのか?」


 俺がそう聞くとアンジュはうーんと唸った。その様子を見てレイアがアンジュに話しかける。


「そもそも魔法の世界では昔から力の象徴として捉えられていたんでしょ?」

「そうですね、確かにその通りでマナと魔法を結びつける象徴として考えられていました。実在するかどうかは別としてです」

「確かテオドール教授からそう教わったな。で、アンジュは何が引っかかってるんだ?」

「何故今まで竜という存在が世界から亡失されていたのかが気になるんです。細々とした伝承には残っていましたが、大きな力というのは隠しておく事がそもそも難しいです。アーティファクトがいい例だと思います」


 アンジュにそう言われて確かにそうだと俺は思った。冒険者になる理由は多々あれど、魔物のはびこる遺跡へ潜り、アーティファクトを手に入れるのは冒険者を目指す理由としては最も多いものだ。


 遺跡漁りだってそうだ、危険を冒してまでも力を得ようとする。直接的な武力だけでなく、圧倒的な財力や、燐命の錫杖のような特殊能力による支配力など、人というのは何かと力を求めてしまうものだ。


 勿論俺だってそれは例外じゃない、伝説の地へ向かう為の力が欲しいし、夢を達成する為にはまだまだ足りないものばかりだと自覚している。


 考えてみると変だなと思った。どうして今になって竜の情報が出回るようになったのだろう、今まで一部の人にしか見向きもされなかった事も何だかおかしいような気もする。


「うーん…、言われてみると色々不思議だな…」

「論ずるには材料が足りませんが、実際にサラマンドラを目にしたものとしては、竜の存在感が風化しかけていたのは不自然ですよね」

「…難しいわね。アンジュの言う事も分かるけど、全部偶然が重なったって可能性もあるかと思うな。そもそも歴史が古すぎて、人に伝わる間で自然と衰退していったって事もありそう」

「レイアさんの言う事も尤もなんですよねぇ…。自分で言っておいてなんですが、真実はちょっと分かりませんね」


 三人でそんな話をして首を傾げていると、バンッと大きな音を立てて扉が勢いよく開かれた。驚いて全員がそちらを見ると、カイトが慌てた様子で息を荒げている。


「ど、どうしたカイト?」

「大変だっ!シーアライド海軍と冒険者ギルドの合同討伐隊の船が沈んだ!あのクラーケンの仕業だ!」

「沈んだ!?大事じゃないか」

「それだけじゃあない、俺達にも関わる話なんだ。取り敢えず今から皆王城へ行くぞ、オリガ様が呼んでる」


 俺達に関わる話、一体どんな内容なんだと三人で顔を見合わせもう一度首を傾げた。




 王城内は色々な人は行き交っていて非常にバタバタとしていた。事が事だけに大きな混乱が見て取れる。


 以前訪れた時とは違い、俺達はすぐに玉座の間へと通された。オリガ女王は、俺達を見つけるとお付きの人が静止するのも無視して駆け寄ってくる。


「おお、待っていたぞ。すまないな、急に呼びつけてしまって」

「い、いえ大丈夫です」


 謝罪なんてとんでもないと俺は手をぶんぶんと振って言った。


「そんな事より一体何があったんですか?カイトから船が沈んだ事は聞きましたが…」

「そうだな、まずは説明が必要だろう。皆私についてきてくれ」


 オリガ女王自らに案内され別室へと通される。それぞれ席につくと、オリガ女王はごほんと一つ咳払いしてから話し始めた。


「ここ最近、何度も特殊個体のクラーケン討伐の船が出ていたのは知っているな?」

「はい、何度も港で見ました。でも失敗続きだってパットさ、いえパトリックさんから聞きました」

「うむ、実際討伐には何度も失敗していた。しかし着実にダメージは与えていて、我々の船団とギルドの戦力でクラーケンを追い詰めてはいたんだ」


 オリガ女王曰く、戦闘を繰り返してダメージを与えると、クラーケンはトドメを刺される前に深海へと逃げ出していたそうだ。そしてある程度体力の回復を図ってから、また暴れ出していたという。


 何とも厄介な性質をした魔物だ。深海に逃げられては手の出しようもない。トドメを刺される前に逃げ出すということは、引き際をわきまえていて知能も相当高いのが分かる。


「相当厄介ですね」

「ああ厄介だ。しかし以前の戦闘では大きなダメージを与えられた。本当にあと一押しという所まで追い詰める事が出来ていたんだ」

「では一体何が…」


 レイアが言い終える前に、オリガ女王は机の上にコトっとあるものを並べておいた。それは俺達が集めてきた白と青の宝玉だった。


「弱りきったクラーケンを追い詰める為の追撃が始まった。散々奴との戦闘経験を重ねていたからな、皆今回で仕留められると思っていた。ただ奴が逃げ込んだ先が…」

「もしかして」

「そうン・リニ遺跡だ」


 それは最後の宝玉があるとみなされている海底遺跡、これから俺達が挑もうとしていた遺跡、嫌な予感、というよりも嫌な確信があって聞いた。


「じゃあ今そのクラーケンが赤の宝玉を持っているんですね?」

「そうだ。しかも頭の痛い事に、体に宝玉が埋め込まれたクラーケンは、今まで蓄積されていたダメージがすっかり回復していて更に凶暴になり、とんでもない能力も手に入れていた」

「とんでもない能力?」

「奴は今、水流を自在に操る事が出来る。沈められた船は、クラーケンによって操られた複雑な海流に船を取られて深海へと引きずり込まれたんだ」


 クラーケンが完全に回復しているだけでも厄介なのに、宝玉によって水流を自在に操る能力まで得た。これではとてもじゃないが近づく事すら困難だ。


「無事だった船はあるんですか?」

「一応な。もしもの時の為に控えさせていた船団がいた。彼らが命からがら逃げてきてくれたから詳細が分かったんだ。吉報ではなかったがな」

「いえ、水流を操る魔物から逃げ出してきたんです。情報を持ち帰ってきたその人達は勇敢だったと思います」

「…そう言ってもらえるといくらか救われる。喪ってしまったものは大きすぎるがな…」


 オリガ女王は態度には一切ださなかった。しかしその声色の中には、深い悲しみと怒りが感じ取れた気がした。心中を察するには余りある。


「…君達には二つの宝玉を探し出してもらった。最後の一つが今クラーケンの元にある。危険過ぎて頼んでいいのか私はまだ迷っている、しかし…」

「クラーケンを倒しましょう」


 俺はオリガ女王にそう言った。まっすぐと顔を見据えて言った。


「このままクラーケンを野放しにしていたらもっと大きな被害が出ます。宝玉は関係ない。今ここで誰かが立ち上がらなければ駄目だ。何が出来るのかじゃあない、立ち向かうという意志が必要です」


 助けたいという気持ちだけで、勝ち目等は一切考えていなかった。しかしカイトはフッと表情を緩めて言った。


「アー坊がこう言うんだ。俺ぁ乗りますぜオリガ様。暴れん坊を躾けてやらねえとな」

「アーデンがやるって言うなら私達もそれをやるだけです。準備は必要ですけどね」

「微力ながら私達にも手伝わせてください。何が出来るのか考えてみます」


 三人も俺の意志に同調してくれた。その宣言を聞いて、オリガ女王の張り詰めた空気は少しだけ和らいだ。


 宝玉を奪い取ったクラーケン退治、海の化け物相手の戦いが始まろうとしていた。

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